第64話 とりあえず順調です
「第三回戦、始めっ!」
合図とともに対戦相手の剣が赤く染まる。
「我が魔法剣の前に敵は無い。悪く思わないでくれたまえ」
独り言のように呟いたかと思うと、そのまま突進、突きを放ってきた。
「おっと、危ない!」
そう言いつつも、俺はその突きを余裕をもって躱した。
ダグラスさんの手加減ありの突きよりも何倍も遅い。
剣筋は十分に見えている。
「私の電光突きをよくぞ躱した。相手にとって不足はない!」
魔法剣士の青年は、何やら一人で盛り上がっている。
電光突きとか……名前負けにも程がある。
向こうが盛り上がっている分、逆に少し冷めてきてしまった。
「いくぞ! 電光二弾突き!!」
本人にその気は無いのだろうが、その雄叫びは親切にもどんな技かを俺に教えてくれていた。
先程よりも少し早くなった突きの二段攻撃を横に回り込むように避け、すれ違いざまに後頭部に一撃を入れる。
「ぐはっ!!」
地面に仰向けに倒れる魔法剣士。
そのままピクリとも動かない。
「勝者! 王国騎士団カリス!!」
会場から歓声が上がる。
照れくさいながらもそれに手を上げて応えた。
カリスさんの代わりだから少しは愛想良くしておかないとね。
順調に四・五回戦を勝ち進み、いよいよ明日は準々決勝。
相手は――因縁の新騎士団のメンバーだ。
新騎士団で勝ち残っているのも一人だけ、これに勝てば晴れて目的達成だ。
「申し訳ありません。身代わりなど本当なら騎士として許されざる行為なのでしょうが……」
ベッドから上半身を起こした状態で、カリスさんは俺に向けて謝罪する。
見たところ真面目な騎士のようなので、その分葛藤があるのだろう。
「相手は闇討ちまでする卑怯な連中です、気にすること無いですよ。それに俺はダグラスさん達には借りが沢山ありますからね」
「いえ、それはあくまで親父との借りです。私の代わりに危険を冒して戦ってくれているカナタさんには感謝しきれません」
「まだ終わってませんよ、明日勝たないとね。それと、カナタでいいですよ。カリスさんの方が年上ですし、敬語はいりません」
「――ああ、わかった。そのかわり私の事もカリスと呼んでくれ。同じく敬語はいらない」
「わかった、改めてよろしく。明日は勝ってくるよ」
「よろしく頼む」
まだまだ本調子でないカリスは、その後ベッドで大人しく寝ている。
とりあえず、あと一つ勝てば目的達成だ。
体の調子は――うん、問題ない。
後は全力で戦うのみだ。
「……カナタ、ちょっといい?」
明日に向けて自分の世界に入っていた俺に、ミサキから声がかかる。
「……怪しい人間がカリスを探していた。おそらく闇討ち目的」
城下町に買い物に出かけようと宿を出たミサキは、怪しい男にカリスの居場所について聞かれたらしい。
その男たちは宿屋を虱潰しに聞き込みをしているようだ。
「……一応、この宿では見た事が無いと言っておいた。……ただ、他の人にも聞いている可能性がある」
「そうか……。たしかカリスさんを運び込んだ時に何人かに見られているな。――となると、ここは危険、か」
無言で頷くミサキ。
決戦は明日、相手はかなり焦っているだろう。
今日あたり襲ってきてもおかしくない。
安全な場所となれば、あそこしか無い。
「スリープ」
寝ているカリスが途中で起きないようにスリープの魔法をかける。
俺はカリスを抱えゲートを展開、そのまま飛び込んだ。
空き部屋にカリスを寝かせ、外側から鍵をかける。
この場所の事は、まだカリスには知られたくない。
ここにはゴランたちオークやフィーネも住んでいる。
俺やミサキにとってはカリスはおおよそ信用出来るが、それがオークやアウラウネ、妖精たちにとって信用出来るかと言ったら、それはまた別の話だ。
無用の混乱を避けるために、カリスの行動を制限させてもらおう。
「そうすると、誰かが付いていないといけないが――」
「わたしが見てるの」
アリアが手を上げる。
「いや……アリアは」
「大丈夫なの。少しの間なら魔法で耳も隠せるの」
俺の心配していることが分かったらしく、心配ないと畳み掛ける。
「役に立ちたいの。大丈夫なの」
どうやら意志は固いようだ。
まあ、さすがにカリスがいきなり襲いかかってくる所は想像できない。
ただ、保険だけはかけておこう。
「ミウ、悪いけど一緒に残ってくれるか?」
「うん、わかったよ。カナタの試合は見たかったけど……」
「ごめんな。お土産は買ってくるからさ」
「じゃあ優勝でいいよ」
「えっ!?」
「カナタはだれにも負けない、ミウの最高のパートナーなんだよ。優勝以外認めないよ」
目的を達成したら適当に負けとこうかと思っていたが、どうやら負けられなくなってしまった。
「わかったよ、ミウ。お土産楽しみにしててくれ」
「うん、楽しみにしてるね♪」
明日に向けて、いい感じに緊張してきた。
とにかく、全力でミウとの約束を果たそう。
俺は、そう心に誓った。
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