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第61話 アリア

 俺たちは、あれから中心街を離れ、王都内にある広場の中にいた。

 レンガや石造りの街並みの中では珍しく、自然の木々がそのまま自生している。

 腰掛けのようなものもあることから、おそらくここは公園のような位置づけなのだろう。


 少女には再び帽子をかぶせてあり、目立たないようにしている。

 改めて辺りを見回すと、人気がまばらにあるが特にこちらを気にする様子もなく、子供たちは駆け回り、またある人はゆったりとくつろいでいる。


「……カナタはやはり誘拐犯。私の目に狂いはなかった」


「いや、第一この子を担いできたのはミサキだから!」


 ミサキの言葉に取りあえずの突っ込みを入れておく。

 というか、その設定まだ継続していたのかよ。


 さて、冗談はこれ位にして、俺は少女に話しかける事にする。


「ここまで来れば大丈夫だよ。商品も――ほら、持ってきたからね」


 俺は、商品を包んだ布きれを少女の目の前に差し出す。

 しかし、少女はじっと俺を見つめたままだ。


「へいき……なの?」


 恐る恐るといった風に少女が俺に質問する。


「え!? 何が?」


 俺が何か怖がらせることを言ってしまったのだろうか。

 心当たりはないが多少不安を覚える。


「……ダークエルフは呪われた種族といわれている」


 この世界の知識を知らない俺に、何時ものようにミサキが補足してくれる。


「呪われているの?」


 ミウの質問に、ダークエルフの少女はふるふると首を横に振る。

 どうやらミウの言葉が分かるようだ。


「……ただの迷信。ダークエルフは昔から悪者」


 ミサキの話では、多くの物語の中でダークエルフは悪として描かれているとのこと。

 元々、ダークエルフは多種族との交流がほとんど無い為、今でもそれが信じられているらしい。


「でも、ミサキは良くそんな事まで知ってるね」


 俺の言葉にミサキは胸を張る。


「……もっと褒めて良い。遠慮は無用」


「ミサキすごいね〜♪」


 ミウがすかさず褒める。

 本当にこの二人は仲が良い。

 仲間になった時点ではどうなるかと思ったが、今にして思えば無駄な心配だった。


 それはさておき、俺は再び少女に話しかける。


「俺たちは大丈夫、そんなこと信じてないよ。とりあえず送っていくよ、家は何処だい」


 俺の質問に、少女はふるふると首を横に振る。


「家、……ないの」


「えっ!? お父さんとお母さんは?」


 少女は再度、ふるふると首を横に振る。


「いないの。……死んじゃったの」


「…………」


 さて、どうしたものか。

 この少女のつぶらな瞳が保護欲をかき立てる。



くぅ〜



 タイミング良く、少女の腹の虫が鳴る。

 それを聞いたミウが、俺に提案する。


「カナタ、ミウもおなか減ったよ。その子も一緒に連れて行こうよ」


 俺はミウの提案に乗ることにした。

 とりあえず食事できる所を探そう。








「いらっしゃ〜い♪ 四名様ごあんな〜い♪」


 近くにあった少し良さそうな食堂に入る。


「ほら、何が食べたい? 遠慮はいらないよ」


 食堂のメニューを少女に見せる。


「……いいの?」


 少女の問いに俺は頷く。

 少女の顔がぱっと明るくなり、嬉々としてメニューを選び始める。

 途中からミウも参戦し、あれでもないこれでもないと一緒になって話し合っている。


「ミサキは決まった?」


 メニューを全く見ていなかったミサキに問いかけた。


「……大丈夫。カナタと同じもので良い」


 さいですか――。





 目の前に並べられる美味しそうな料理。

 その一つひとつから運ばれてくる匂いが食欲をそそる。



じゅるっ……



 アリアが我慢出来ずに唾をすする。

 ちなみに、アリアとはダークエルフの少女の名だ。

 その目はじ〜っと俺を見ている。


「食べていいんだよ」


 その言葉が終わらないうちに、アリアは目の前の食事に飛びつく。

 よほどお腹が減っていたようだ。

 その気持ちが良い程の食べっぷりをしばらく眺めていたが、自分の食べる分が無くなりそうだったので、俺も慌てて食べ始めた。





「ありがとうなの。久々のごはんなの」


 テーブルの上に先ほどまであった食事はすべて平らげられていた。

 結構頼んだはずなんだけどね。


「いつもはどうしてるの」


「前は森の中で食べ物を探してたの。今は作ったアクセサリーを売ってるの。でも、アクセサリーは全然売れないの」


 今までは森の木の上で寝ていることが多かったらしいが、少し前に人間とオークの戦闘があり、それを境に人間が多く出入りするようになってしまって、仕方がなく森を出てきたとの事。

 心当たりが有り過ぎるのだが……。


「森で出会ったらいじめられるの。街に入った方がかえって見つからないの」


 見かけによらず、中々たくましい子だ。


「危ないよ。一緒に連れて行こうよ、カナタ!」


 ミウに促され、俺はアリアに提案する。


「良ければ、一緒に来ないかい。いきなりは信用できないだろうから、先ずは王都にいる一週間だけでも、お試し期間ってことで……」


 アリアが食べられなくなった責任の一端は俺にあると思うと、出来れば救済してあげたい。


「悪い人は見ればわかるの。お兄さんたちは助けてくれたの。一緒に行くの」


 こうして、アリアとしばらく行動することとなった。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「さて、予定よりはだいぶ遅くなったけど、宿屋を探さなくっちゃね」


 現在の王都の賑わいを考えると、王都内や王都の近くで頻繁にゲートを使うと見つかる可能性もある。

 今回、滞在期間も長めである。

 しっかり宿を取って、ゲートを使うなら部屋の中でにしたい。

 ただ心配なのは、果たして今から宿が取れるかなのだが……。




「………………う~ん」


 行く先々で断られてしまった。

 六件回ったがどこも満室、空きは無いという。


「カナタ〜。ミウ疲れたよ」


「ごめんな、ミウ。あと一件だけでも回ってみよう」


 何とかミウをなだめ、目の前の建物の中に入った。

 ライトアップされた照明の色が何やら怪しい雰囲気を醸し出しているが、一応看板には宿屋と書いてあったはず。

 ミサキとアリアも黙ってついて来てくれているから間違いは無いだろう。


「いらっしゃ〜い♪」


 艶のある声が聞こえ、中からビキニ姿の男性が出てくる。


「すいません、間違えました」


 慌てて踵を返そうとする俺の襟首が後ろから掴まれる。


「ん? 坊や、宿を探しているんでしょ♪ 合ってるわよ」


「…………」


 俺の何とも言えない疑りの目に反応して、女将さん?は頬を膨らませる。

 マッチョなおっさんのその仕草は超絶に可愛くない。


「他の何に見えるっていうの。失礼しちゃうわ」


 いやいや、貴方がいるせいで、とても普通の宿屋には見えませんが……。

 しかし、平和主義な俺はその言葉を飲み込む。


「恋人たちの宿屋、ラズベリーへようこそ♪ 部屋なら一つだけ空いてるわよ。一泊一人銀貨一枚と言いたい所だけど、ダブル一室しか空いて無いのよね。もちろんうちはダブルの部屋しかないけど、ウフフ……。貴方たちまとめて銀貨二枚でいいわ」


 ダブルの言葉に反応し、ミサキの目が光った気がした。


「……カナタ、ここにすべき。ほかの宿が見つかるとは思えない」


 ミサキさん、目が怖いです。


「あら、可愛いお嬢さんね。恋人かしら?」


「……嫁です」


 ピースサインを出すミサキ。


「いえ、違いますから!」


「あら、もうお嫁さんがいるなんて、中々隅に置けないわね」


 どうやら俺の否定の言葉はスルーされたらしい。


「カナタ〜。この際なんでもいいよ、休もうよ〜」


 ミウにせがまれ、仕方なくこの宿に泊まることにした。

 料金は前払い、一週間分の銀貨十四枚を女将さん(男)に渡す。


「まいどあり〜。部屋は二階の奥、206号室よん。朝食は十時までだから遅れないでね♪ ちなみに私の名前はアンジェラよ。アンジェラって呼んでね♪」


 アンジェラさん(おそらく仮名)が投げた鍵を受け取り、部屋へと向かった。

 鍵を開け、恐る恐る中を覗くと、ダブルベッドと照明以外は思ったより普通の部屋だった。


 だだ、所々にある新婚さながらのペア用品や、フリルのカーテンなどが気になると言えば気になるが……。

 寝られなければ別荘に戻るか。

 それも選択肢の一つとして考えておこう。


 ちなみに大会まではあと三日ほどある。

 アリアも加わったところで、それまで何をして過ごそうか……。







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