第5話 特訓 実践編
初日の訓練から4日経ち、今日は特訓の一環としてダグラスさんと村の外で狩りを行う。
もちろんミウも一緒だ。
今日の獲物はワイルドウルフ。
この村近辺によく出没する狼の魔物だ。
毛皮には利用価値があり、肉もまずまずの味だそうだ。
魔物の中では弱い部類で、村の貴重なタンパク源らしい。
特徴を聞いて、何か見たことがありそうだと思ったのは気のせいでは無いだろう。
まあ何事にも油断は大敵、気を引き締めていかねば……。
「キュ〜!キュ〜!(ミウもやっつけるよ!!)」
以前襲われた仕返しかどうかは分からないが、ミウはやる気十分だ。
「そろそろやつらの生息区域だ。やつらは1匹1匹は弱いが、何匹かで群れているからな。どの魔物に対する時もそうだが、決して油断するんじゃあねえぞ!」
ダグラスさんに気合を入れられ、注意深く辺りを見渡す。
すると200mくらい先の草むらで、何かが動いた気配がした。
「ダグラスさん」
少し小声で呼びかける。
ダグラスさんは既に気づいていたらしく、
「3匹ってところだな。坊主、危なかったらフォローしてやるから、そのチビと2人でやってみろ」
俺は黙って頷き、ミウとともにゆっくりと気配の元に近づいていった。
100mくらい近づいたところで、俺の視界が3匹をとらえた。
「ミウ、今から俺が2匹を仕留める間、残り1匹を魔法で牽制してくれ」
「わかったよ。ミウ頑張るよ!」
気づかれないように注意しながら、3匹の後ろに回り込む。
ザッ!
なるべく音を立てないように駆け出した。
1匹がこちらに気づいて臨戦態勢をとる。
残り2匹にはまだ気づかれてはいないが、それも時間の問題だ。
「キュ〜!」
ミウの魔法が発動、高圧力で収束された水が、こちらに気づいていないワイルドウルフの1匹を襲う。
バシュッ!
ワイルドウルフの右肩をかすめる。まだまだ命中精度は今ひとつだ。
「グルルル!」
残りの1匹もこちらに気づき、飛びかかろうと重心を後ろに落とす。
ザシュッ!
俺の剣が、はじめにこちらに気づいた1匹を横薙ぎで捉えて首を飛ばす。
残り2匹。
「ガァァッ!」
大きく口を開けながら1匹が、こちらに飛びかかってくる。
その口めがけて、剣を前に突き出す。
「グガァァッ!」
そのまま串刺しにする。
あと1匹。
「キュ〜!」
肩を痛めた1匹に、今度こそとミウが魔法を飛ばす。
ザシュッ!
ミウが飛ばした風の刃がワイルドウルフの喉元に命中。
もうすでに虫の息のところを、俺が剣でとどめを刺す。
「ふぅ〜」
初めての本格的な戦闘を終えて、大きく息を吐く。
「ミウ頑張ったよ! すごい? すごい?」
ミウが褒めてもらいたそうに、短いしっぽをパタパタと動かす。
「ああ、すごいよ。よく頑張ったね」
そう言って頭を撫でると、ミウは気持ちよさそうに目を閉じた。
「まあ初めてにしては上出来だが、終わったと思った後にすぐに気を抜きすぎだな。中にはしぶとい奴もいる。完全に勝利を確信するまで気を抜くな!」
ダグラスさんからの追加指導を受けつつも、戦闘が終わったことに安堵する。
やはり初めての戦闘は、精神的にかなりの負荷を与えていたらしい。お気楽なミウが羨ましい。
そんな視線をミウに向けると、
「キュ〜?(どうしたの?)」
つぶらな瞳で見返してきた。
「いや、なんでもないよ」
そうだな、ミウはやっぱりこのままがいい。
狩りも終わり、剥ぎ取った素材を担ぎながら帰宅の途についている。
辺りはもう夕方を通り越して夜に近い。
あれから3度の戦闘を経験した。
相手はワイルドウルフのみだったが、かなり得るものはあったと思う。
素材の剥ぎ取りに関しても、中々勉強になった。
何も知らない自分ひとりでは、おそらく何をして良いのか分からなかっただろう。
ダグラスさんとの出会いに感謝だな。
「おう!帰ったぞ!」
「おかえりなさい、ダグラス。カナタくんとミウちゃんもお疲れ様」
アリシアさんが笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「キュ〜♪(ただいま♪)」
挨拶をすませ、中に入ると何やらいい匂いがした。
「今日はお鍋よ。獲ってきてもらったお肉も入れるから、もうちょっと待っててね」
出来上がったワイルドウルフのお鍋は、結構おいしかった。
俺は布団の中でこれからの事を考えていた。
あと3日もしたら、俺はバレン村を離れ、冒険者として生活することとなる。
果たして自分に出来るのだろうか。
今日はたまたま弱い魔物だから勝てたものの、毎回それが続くとも限らない。
それにその頃にはもうダグラスさんはいないのだ。
考えれば考えるほど弱気な思考しか出てこない。
「どうしたの?」
どうやらミウも起きていたようだ。
「いや、大丈夫。なんでもないよ」
努めて明るく振舞った。
「カナタ、不安なの?」
どうやらミウには通じなかったらしい。
「大丈夫、ミウがいるよ」
いつになく真剣にミウが言った。
そうだ、俺は一人じゃなくミウがいる。
ミウを守らなくちゃいけない。
いや、時には助けられるれることもあるだろう。
この世界でたった1人の相棒なのだから。
「ありがとな、ミウ。これからもよろしく」
「うん、カナタ。よろしくね」
2人で頑張れば何とかなる、そんな気がした。
初めて戦闘シーンを書きました。
いかがだったでしょうか。
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