第55話 不満
「じゃあまた後でな、坊主。鍛えてやるから、近いうちに必ず家に寄るんだぞ!」
ダグラスさんはそう言い残して、脱兎のごとく去って行った。
「ひょっとしたら馬より速いんじゃないか?」
ダグラスさんがあっという間に消えた方角を見ながら、俺は独りごちる。
まだまだ、俺の目標への道のりは険しそうである。
その後は何事も無く、俺たち調査隊一行は街へとたどり着く。
「皆さん、お疲れ様でした。色々ありましたが、お陰様で全員が無事帰還する事が出来ました。機会がありましたらまたよろしくお願いします」
タリオンさんの締めの言葉が終わり、各自解散となった。
ゴルドさんやミレイさんたちとも別れを告げ、俺たちは街の中でも人気のない場所へと向かっていった。
ミサキに周りを警戒してもらい、俺はゲートの魔法を唱える。
いつものように扉が現れ、俺たちは中へと飛び込んだ。
「おかえり、お兄ちゃん!」
いち早く俺たちを見つけたグランが駆け寄ってくる。
「ああ、ただいま」
そう言い、俺はグランの頭を撫でる。
「む〜っ!」
俺の頭の上でミウが不満そうにうなる。
「ほら、ミウも」
もう片方の手で、頭の上のミウも撫でてあげる。
「〜♪」
どうやら機嫌を直してくれたようだ。
「……む〜っ!」
いや、ミサキさん。
撫でませんよ。
「……残念」
「カナタ! ようやく帰ってきたか!」
俺たちを発見したゴランが近づいてくる。
何やら心なし顔が疲れているように感じた。
「だだいま。何かあった?」
するとゴランは少々困ったような顔をして話し始めた。
「――実はな、うちの若者達の間で不満が出ててな。もちろんほんの一握りなんだが……」
「えっ!? どんな不満?」
「何でも刺激が足りないそうだ。この平和がいかに貴重なものかあいつ等は分かっとらん! 何でも野良仕事は飽きたとか我儘ばかりで……」
俺の問いに、ゴランは申し訳なさそうに答える。
「う〜ん!? 刺激かぁ……」
「いやいや、気にしないでくれ! ただの若者の我儘だからな。一応耳に入れとこうと思っただけだ。俺がきつく言っておくから大丈夫だ」
俺が真剣に悩みだしたのを見てか、ゴランは慌ててそれを止める。
去り際にも、気にするなと念を押された。
いや、かえってよけい気になるんですけど……。
「カナタ、どうするの?」
ミウが聞いてくる。
「一部の若者が刺激を求めて都会に出ていく、みたいな心境なんだろうけど……。どうしようか?」
この場で考えてもすぐに答えは出て来なそうだったので、いったん考えるのをやめて別荘に戻ることにする。
別荘ではスラ坊とユニ助が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、カナタさん、ミウさん、ミサキさん。ご無事で何よりです」
「ふん! 高貴なる我の出迎えをうけるのだ。ありがたく思えよ」
二人とも変わりないようだ。
俺はユニ助のコメントを軽くスルーし別荘へ入っていく。
それに続き、皆も入ろうとするが……。
「……ユニ助、貴方は小屋」
「何故だ〜!? 我も入れてくれ〜!」
ミサキの言葉に、ユニ助は涙目で抗議する。
じゃああんな態度取らなきゃ良いのにとも思うが、そこはユニ助なので仕方がない。
少し可哀そうに思ったので、俺はユニ助を入れてやることにした。
「気を持たせおって。初めからそうしておけば良いのだ」
こいつ――やっぱり追い出すか。
食事も終わり、まったりとした空気が流れる。
俺は例のオーブを袋の中から出した。
燃えるような赤色をしたオーブは、テーブルの上を静かに転がり、中央あたりで静止する。
「……ここに保管しておけば良い。それが一番安全」
俺が質問するよりも先にミサキが答えた。
まあ、確かに狙っている奴がいることを考えると、ここが一番安全か。
オーブについてはミサキの言う通りここに置いておくことにした。
「――となると、差し当たっての問題はオーク達の事か」
「……冒険を手伝ってもらったらいい。なるべく人目の無い所なら問題ない。テイマーだとでも言えばいい」
「その手もあるけど、なるべくなら危険が少ない方がいいなぁ。この前も危なかったし……」
「じゃあ娯楽などを考えたらどうですかね。退屈しのぎにはなると思いますよ」
スラ坊の言うことも、有りかもしれない。
――となると、今簡単に思いつくのは、野球、サッカーなどのスポーツだな。
たとえは悪いが、よく塀の中では週に何回かのスポーツで発散させる場面を映画で見た事がある。
よし、やってみる価値はある。
先ずは道具を用意しよう。
何となく方針が決まったので、お開きにして部屋へ戻る。
久々の自宅での就寝だ。
部屋のベッドのあまりの気持ちよさに、俺はすぐに意識を手放した。
気が付くともうすでに朝になっていた。
俺は腹の上に乗っかっているミウを起こさないようにやさしくどかす。
頭も大分すっきりしている。
やはりかなり疲れていたようだ。
「ん〜っ! カナタ、もう朝?」
小さい手で目をこすりながらミウがもそもそと起きる。
「ごめんな。起こしちゃった?」
「いいよ。朝ごはん食べよ♪」
そう言うと、ミウはジャンプしていつもの定位置に乗っかる。
俺はそのまま階段を降りて行った。
「……カナタ、早いけど疲れは大丈夫」
もうすでにミサキが食堂に待機していた。
奥では朝ごはんのいい匂いが漂ってくる。
すでにスラ坊が朝食の準備を始めているようだ。
「ああ、疲れはとれたよ。ミサキは大丈夫?」
「……無問題」
そんな会話をしていると、奥からスラ坊が朝食を持って現れる。
「カナタさん、ミウさん、おはようございます。今お二人の分も持ってきますので、少々お待ちください」
持っていた朝食をミサキの目の前に置くと、足早に(足はないが)奥へと引っ込んでいった。
ミサキの目の前に置かれた朝食見てみると、今日は焼き魚に納豆、何かのお浸し、ご飯に味噌汁といったシンプルなメニューだ。
シンプルとは、もちろん褒め言葉だ。
やはり朝食はこうでなくては――。
「……食べずらい」
あまりにじっと見ていた為、ミサキからクレームが入る。
大変失礼しました。
程無くして、俺たちの朝食も運ばれてくる。
「「いただきます」」
俺とミウもおいしく朝食を頂きました。
「うむ、娯楽か。それをする為には道具がいるという訳だな」
「ああ、こんな感じの物なんだけど……」
俺はあまり上手くない絵で、ゴランに色々な道具の説明をする。
「――ふむ。これなら何とかなりそうだな。建築も終わったので、少しそちらに人員をまわすとしよう」
「ありがとう。遊び方は道具が出来てから俺が説明するよ」
「いや、礼を言うのはこちらの方だ。住む場所まで用意してくれたのに、また面倒をかけてすまんな」
申し訳なさそうに礼を言うと、ゴランは自宅へと戻っていった。
さっそく皆を集めて説明、制作に取り掛かるとのこと。
「道具がそろうまで一週間ほどか……」
あまり長期の依頼は受けられないな。
ならいっそのこと――
俺たちはその期間の間、バレン村を訪れることに決めた。
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