第39話 相談
俺の目の前にはうっすらと青く光るオーブがある。
先日、村から手に入れた、いや、奪ったものだ。
これで村は襲撃されなくなるとは思うが、果たしてこれで良かったのだろうか。
理由はあれど、盗んだ事実は変わらない。
もっと良い方法があったのではないかと、今更ながらに思ってしまう。
「……あのままだったら、魔物に攻められ村は無くなっていた。自分を責めることはない」
いつの間にか後ろにいたミサキが声をかけてくれる。
俺が何を考えていたか、分かっているようだ。
「ああ、ありがとう」
そうだな。今更後悔しても始まらない。
そう考えた俺は、このオーブをどうするかを考えることにした。
当面は別荘に保管しておくつもりだが、なぜこれが狙われるのか知りたい。
前回、森で妖精が奪っていった球体も、色は違えどこれと同じ様な物ではなかったか?
遠目ではっきりとは確認できなかったが、あながち違っているとも思えない。
ちょっと聞いてみるか。
俺は知識ある人に相談することにした。
「おう、坊主。久しぶりだな。ゴブリンのことでは世話になったそうじゃねえか」
ダグラスさんが相変わらずの馬鹿力で背中を叩いてくる。
その久々の感触には、痛いながらも懐かしさを感じていた。
そう、俺はバレン村へと足を運んでいる。
そこで早速、門番をしていたダグラスさんに捕まり現在に至る。
「ん!? そっちの嬢ちゃんは見ない顔だな。坊主の彼女か?」
「……嫁です」
すかさずミサキが答える。
「何だ、もう嫁をもらったのか。そりゃあいい」
そう言うと、ダグラスさんは豪快に笑う。
一応否定はしておいたが、分かってくれたのかどうか…。
その後、相変わらず豪快なダグラスさんに引き摺られ、家へと招待された。
「あら、いらっしゃい。久しぶり…でもないわね。元気にしていたかしら?」
家ではアリシアさんが出迎えてくれる。
「キュ〜♪」
ミウが飛びついて、アリシアさんの腕の中に収まるのは規定事項である。
「とりあえず上がって頂戴。食事の用意をするわ。ミサキちゃん、手伝ってくれるかしら?」
「……はい。師匠」
いつの間にか師弟関係が成立していたらしい。
かつてのガールズトークが頭をよぎる。
ちゃんとした魔法の師匠ってことだよね?
食事も終わり、俺はアリシアさんに例のオーブを見てもらうことにした。
「これは……、どこで手に入れたの?」
アリシアさんの問いに、俺はありのままを正直に答えた。
「そう……。ちょっと昔話を聞いて頂戴」
そう言うとアリシアさんは真剣な顔つきで語りだした。
それはそれは遥か昔のこと。
かつてこの地上には、力の強い魔物が多数存在し、人間たちを脅かしていた。
魔物たちは今よりよほど統制されており、魔物の都市が存在するほどであった。
それらの魔物たちのことを、いつの日にか人々は魔族と呼んでいた。
その魔族たちの頂点には、魔族を統べる者、すなわち魔王が存在していた。
魔王の力は強大で、人間たちは魔王軍の勢いを止められず連戦連敗、大半の領土という領土を奪われる。
領土と共に人間の数も瞬く間に激減、人類は滅亡の危機に晒される。
それを見かねた女神様は、ある人間に力と封印の呪法を授けた。
その人間は、何人かの仲間を引き連れ、困難な冒険の末にとうとう魔王と対決、辛くも魔王の封印に成功する。
魔王を封印した勢いをそのままに、人間たちは反撃を開始、数々の勝利をもたらす。
そして人間たちは故郷を取り戻し、再び平和が訪れました。
「およそ千年前に起こったとされる勇者と魔王の物語。本当かどうかは分からない、ただそれらしい遺跡は残されているわ」
アリシアさんが話を続ける。
「そしてその話に出てくるのが、魔王の強大な力を分散、12個の球体に封じ込めたという封印のオーブ。それぞれ色が違い、その中には青く光るオーブもあったとされている」
俺は黙ってそのオーブに視線を向ける。
オーブは相変わらず淡い青色の光を放っている。
「オーブは各地にて封印されることとなった。そう物語には書いてあるの。ここで気になるのは、そのオーブの封印された周りはそのパワーにより、様々な効果が表れたとされている所かしら。その中には豊作など植物の成長を促す効果もあるみたい」
「すると以前、妖精に奪われたオーブも……」
「ええ、その祠は森の中心にあったといったわね。もしかしたら森の中心に祠を造ったのではなく、祠を中心に森が出来ていたのかもしれないわ」
アリシアさんの話が終わり、場に静寂が訪れる。
その静寂を破ったのはダグラスさんだ。
「それで坊主。そのオーブをどうするつもりだ」
その問いに俺は答える。
「小袋にでも入れておこうと思います。幸い特に変化はないみたいですので…」
本当は別荘にでも置いておこうと思うが、そこまで詳しく言わなくても良いだろう。
「そうか、気をつけろよ。まあ、俺の方でも何か調べてみよう。情報が入ってくるかどうかは分からんがな」
ダグラスさんのありがたい申し出に感謝し、頭を下げる。
「そういえば、王都の図書館にその物語にまつわる書物が幾つかあったはずよ。行ってみると良いわ」
続けてアリシアさんからも情報をもらった。
俺は改めて2人に礼を述べ、この話は終了となる。
「坊主、今日は泊まっていくんだろうな。明日は久々に特訓してやるぞ! ちょっとは強くなったみたいだから、レベルを上げて手加減は程々にしてやろう」
ダグラスさんからの有り難い申し出により、泊まりが決定する。
ついでにボロボロに打ちのめされることも決定してしまった。
助けを求めるように周りを見ると、ミウはアリシアさんの膝の上で熟睡中、ミサキは既に例のガールズトークを開始している。
「はぁ…」
俺のため息は、誰の耳に届くでもなく掻き消えていった。
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