第28話 とある日常
トン、カン、トン、カン
やわらかな日差しが辺りを照らす中、自然のものとは一線を画す音がこちらの耳に届いてくる。
オークたちは、壁に屋根にとハンマーを打ち付け、自分たちの住宅を完成に近づけている。
今まで使っていた事があるかの様に、巧みに日曜大工セットを使いこなす様子は、熟練の大工を彷彿とさせる。
ふと畑の方を見ると、そこでもオークたちが野菜の収穫作業を行っており、またその隣では、別のオークたちが収穫された野菜を丹念に籠へと移している。
「オークの人たちは、働き者で大変助かっていますよ。野菜の育ちも通常よりかなり速いのも相まって、今のところ食料に困る事は無いですね」
スラ坊は俺に報告してくる。
いきなり大所帯になったのでどうなるかとは思ったが、嬉しい報告だ。
住居も着々と完成しており、今のところは順調のようだ。
俺は改めて周りの景色を眺める。
随分別荘の周りの景観も変わったものだ。
オークたちには、主に別荘の東側の土地を使ってもらっている。
余談ではあるが、方角の取り決めは、今昇っている恒星を太陽と見立てた場合を基準としている。
その恒星は何なのか? 何故この別荘の空間に存在するのか? などの疑問は、気にしたら負けなので、あえて気にしない。
「さて、俺も出稼ぎに行きますかね」
オークたちの働き振りを見て感化された俺は、冒険者ギルドに出稼ぎに行くことにする。
俺はミウとミサキを呼ぶために別荘へと入っていった。
俺たちの前に、大きな門がそびえ立っている。
「準備はいいか?」
「いつでもいいよ」
「……問題ない」
ダンジョンには、10階層ごとに強い魔物が1匹生息している。
ファンタジー的にいうと、いわゆるボスというものである。
そのボス部屋の入口とも言うべき扉を開け放つ。
そこにはドームのような広い空間が広がっており、その奥には大きな鳥のような魔物が1匹、どうやら俺たちを認識したようだ。
「クケーッ!!」
耳をつんざく敵の鳴き声があたりに響く。
コカトリス LV20
HP :1000
MP :100
力 :400
体力 :500
かしこさ:100
運 :50
スキル:石化ブレス
10階層のフロアボス、コカトリス。
ギルドの情報通りだ。
石化ブレスさえ注意すれば問題ない。
俺は剣を構え、ミウとミサキは後方で魔法支援の体制だ。
俺が1歩足を踏み出したその時、コカトリスは外気を胸いっぱいに吸い込む。
来る!
「……ウインドウォール」
コカトリスの吐くブレスは、俺の目の前に現れた風の壁に衝突する。
ゴオオオッ!
勢いよく迫るブレスだが、ミサキの呪文は見事にそれをガードする。
ブレスと同時に風の壁も消滅し、俺はコカトリスに向かって一直線に駆け出す。
「アイスシュート!」
ミウが俺の接近を助けるように牽制してくれる。
複数の氷の塊がコカトリスに命中するが、厚い羽毛に阻まれほとんどダメージを与えられていない。
シュッ!
近づいた俺がコカトリスに向かって剣を振るう。
しかし剣は届かない。
その巨体を大きく宙に浮かせたコカトリスは後方へと着地、大きく咆哮を上げる。
「クケーッ!」
飛ぶことは出来ないようだが、あの大ジャンプは厄介だ。
俺は後方にいる2人に目で合図する。
「クワッ!!」
再び石化ブレスが俺たちを襲うが、ミサキが先ほどと同じように冷静に対処する。
俺がダッシュ、ミウが牽制、ここまでは先ほどと同じパターンだ。
俺の剣に合わせて奴が大ジャンプ、今だ!!
「……炎の塊よ、弾けて。フレイムバースト」
炎の塊が空中に出現しコカトリスを襲う。
見事コカトリスの羽に着弾し小爆発を起こす。
「クキャァー!」
やつが悲鳴を上げて落下してくる。その落下地点には俺が待ち構えている。
「スラッシュ!」
通常の速度よりも5割増の斬撃がコカトリスを襲う。
プシャァ!
見事コカトリスの腹を引き裂く。
「クキャァー!」
コカトリスは悲鳴とともにのたうち回る。
そこへ容赦なくミウ、ミサキの魔法が着弾。
最後の俺のひと振りが止めとなり、コカトリスは最後に一際大きな咆哮を上げて息絶えた。
俺は剣の刀身を拭き取り、鞘に収める。
「怪我は無いか?」
念のため2人に尋ねる。
「だいじょうぶだよ♪」
「……ん、問題ない」
どうやら無事のようだ、よかった。
「ん!?」
地面に気になるものを発見。
コカトリスはどうやらアイテムを落としたらしい。
拾って鑑定してみる。
コカトリスの涙
石化解除
役に立ちそうだ、貰っておこう。
その後、俺たちはコカトリスの素材剥ぎを行ってから、迷宮登録ゲートへと向かう。
ちなみに迷宮登録ゲートとは、10回ごとのボス部屋の奥に設置されており、次の探索時はそこからスタート出来るという便利なワープゾーンだ。
これで次回からは11階層からのスタートだ。
俺は意気揚々とダンジョンを引き上げた。
別荘に戻ってみると、オークたちの住宅がすべて完成していた。
中々の出来の良さに驚いていると、ゴランが向こうから近づいてくる。
「カナタ、帰ったか。どうだ、なかなかの出来だろう。仲間たちも大喜びだ」
ゴランは初めて会った時よりも穏やかな顔になったように思える。
族長として仲間を守るプレッシャーは相当なものだったのだろう。
やはり平和が一番だね。
「カナタさん、本日の食事は外でバーベキューです。新築祝いに歓迎会も兼ねてご用意させていただきました」
スラ坊もなかなか粋な計らいをしてくれる。
「おいしい! おいしいよ、カナタ!」
「……美味」
「うむ、我に相応しいご馳走である。あっ、こら!チビ! その肉は我が狙っていたものだ! 横取りするな!」
「いやあ、皆さんに美味しく召し上がっていただいて満足です」
「うむ、儂もこんなに美味い肉は久々に食べたぞ」
「食べないの、お兄ちゃん? 美味しいよ」
たまにはこんな賑やかなひと時も良いものだ。
俺は、皆と談笑しながらご馳走を楽しんだ。
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