第19話 対人戦
「ミサキ、王都ってどんな所なの?」
王都に向かう道すがら、ミウがミサキに問いかける。
「……とにかく大きい。お店もいっぱい。美味しいものもたくさんある」
「うわぁ♪ たのしみだね、カナタ♪」
俺の膝の上で興奮したように話しかけてくる。
「うん、楽しみだね」
頭を撫でながら俺は答える。
うん、もふもふが気持ちいい。
王都まであと3日程で着く予定だ。
ユニ助が結構頑張ってくれているので、予定より5日ほど早い。
しかも夜は野宿ではなく、別荘のベッドでぐっすり睡眠、気力体力供に万全、順調すぎて怖いくらいである。
よく読んだファンタジー小説だと、この辺で何かトラブルでもありそうなものだが…。
「カナタよ、この先に何かいるぞ!」
ユニ助が警告してくる。
俺は、空になっている御者台に移動し、目を凝らす。
しかし何も見えない。
「……まかせて」
御者台に顔を出したミサキが呪文を唱える。
「……ホークアイ」
どうやら遠くまで見通せる呪文らしい。後で俺もやってみよう。
数秒経っただろうか、ミサキから結果の報告を受ける。
「……20名程が身を隠している、間違いなくこの馬車を狙っている」
接触まであと10分程、どうする。
「出来ることなら関わりたくないなぁ。全力で突っ切ることって出来ない?」
俺はミサキに尋ねる。
「……微妙。おそらく馬車を止める術を何か持っていると思ったほうが良い。馬車の被害を考えたら迎え撃ったほうが無難」
「先制攻撃する?」
ミウが聞いてくる。
そうだな、甘いことを考えていたら、こちらが殺られるかもしれない。これはゲームでは無いんだ。
「よし! 魔法で先制しよう!」
ミサキを見習って盗賊の位置を確認する。
ミウも確認できたようだ。
それぞれ魔法を放つ位置を確認、そろそろ魔法の射程圏内だ。
「よし、いくぞ!」
俺の合図とともに、それぞれが魔法の詠唱をはじめる。
「大地よ、敵を貫け! アースニードル!」
「……炎の嵐よ、全てを巻き込み灰塵と化せ。 ファイアストーム」
「キュ〜!(ホーリーアロー!)」
正面の地面が針のように斜めに隆起、鋭く尖った土の塊が盗賊たちを襲う。
突然の奇襲に盗賊たちは混乱しているようだ。
囲むように左右に展開していた盗賊には、それぞれミサキとミウの魔法が襲いかかる。
先の戦いでゴブリンたちを消滅させた炎の嵐に、盗賊たちはなすすべもなく灰と化す。
片や、聖なる光の矢が盗賊たちにダメージを与える。
先制攻撃は成功、盗賊たちはその数を減らしていく。
「ユニ助。止まってくれ」
俺はユニ助に馬車を止めるように指示、止まったと同時に地面に降り立つ。
ミウを抱えたミサキもそれに続く。
魔法の効果も止み、盗賊たちは怒りを顕わにしながら近づいてくる。
「てめぇ! やってくれるじゃねえか。ここまでしてタダで済むと思ってねえよな」
盗賊の頭らしき男が、お決まりのセリフを述べる。
「イッヒッヒッ。女は高く売れそうですぜ。男はなぶり殺しにしちまいましょう」
部下らしき男が、いやらしい笑みを浮かべる。
俺は剣を抜き、戦闘態勢に入る。
魔法を放つときと違い、剣で人を斬ることにためらいはあったが、先ほどの盗賊のセリフで完全に覚悟が決まった。
ミウ、ミサキを守らなければならない。敵の数は8人、やるしかない。
盗賊たちが、あれだけ手痛いダメージを受けたにもかかわらず余裕を見せているのは、接近して魔法さえ封じれば何とかなると思っているからだろう。
その油断はこちらにとっては有難い。
盗賊も剣を抜き臨戦態勢に入る。
「先ずは女を抑えろ。魔法が使えなければただのガキだ! やっちまえ!」
「「「「おう!」」」」
盗賊たちはミサキを抑えようと行動開始する。
しかし、すでにミサキとミウの詠唱は終わっていた。
「……ファイアウォール」
「ウィンドカッター」
高い炎の壁が盗賊たちの目の前に現れる。
ミサキに一直線に向かっていた敵は、足を止めざるを得ない。
そこにミウの風の刃が襲いかかる。
ザシュッ!
炎の壁の向こうから現れるため、盗賊たちにとっては予測不能。
避けることも出来ず、大ダメージを与える。
その様子に一安心した俺に向かって、一陣の刃が襲いかかる。
ギィン!
俺はそれを剣で受け止める。
危なかった。
あれほど油断しないようにと思っていたのに、まだ甘さが抜けきれていない。
「ほう、ガキにしてはやるじゃねえか。だがこれはどうかな」
頭らしき男の斬撃が俺を襲う。
速い! が、稽古時のダグラスさん程ではない。
迫り来る斬撃を、俺は慎重にいなしていく。
「くらえや!」
「ヒャッハー!」
左右から別の盗賊が、俺に向かって剣を振り下ろす。
俺は距離を取るべく、バックステップでそれを躱す。
距離を取ったところで大きく息を吐く。
現在俺に向かってきているのは3人。
ミウ、ミサキのこともあり、あまり長く時間はかけられない。
俺は気合を入れ直し、今度は自ら突っ込んでいく。
「はやっ…」
盗賊が何かを言い終わる前に俺の斬撃が相手を襲う。
嫌な感触が両手に伝わるが、今はそんなことを気にしていられない。
1人目を倒したことを横目で確認し、もう一人に襲いかかる。
ザシュッ!
横薙ぎ一閃!
盗賊は声を発することなくその場に倒れる。あと一人!
「くぉのガキがぁ〜!」
盗賊頭の憎しみを込めた視線が俺を射抜く。
渾身の一撃が、俺目掛けて振り抜かれる。
だが遅い。
俺はそれを紙一重で躱し、その時出来た隙を見逃さず全力で剣を振り下ろす。
軽装備ではその斬撃に耐えられず、盗賊頭はその場に崩れ落ちる。
「ミウたちは!?」
俺は2人の助けに入るべく駆け出した。
「……こっちも終わった」
見ると辺り一帯が焦土と化していた。
あまり心配する必要は無かったみたいだ。
「カナタ〜♪」
ミウが飛びついてきたので受け止める。
「ミウもやっつけたよ♪ すごい?」
パタパタと短い尻尾を振ってアピールしてくる。
「うん。頑張ったね」
優しく撫でてあげると、ミウは気持ちよさそうに目を細めた。
「……私も頑張った」
すかさずミサキもアピールする。
「うん、すごいよ。これなら心配する必要はなかったね」
「……心配はしてくれて良い。気にかけることは大事」
確かに、パーティー仲間だしね。
大怪我の部類の盗賊がかなりの人数でいたが、俺たちはそのまま放置して出発することにした。
このまま魔獣に襲われようが、自分たちのしてきたことを思えば自業自得である。
運良く生き延びたとしても、それは運命だと思うことにする。
動けない人間にわざわざ止めを刺すことができるほど、俺の精神力はまだ強くない。甘いと思われるかもしれないが、そこは今まで平和な世界で暮らしてきた人間である。対人戦闘が出来ただけでも上等だと思う。
決して気分の良いものではないが…。
「カナタ、だいじょうぶ?」
ミウが心配そうな顔で覗き込んでくる。
どうやら顔に出ていたらしい。
「大丈夫。問題ないよ」
俺は笑顔を見せる。
「無理しないでね。ミウがいるから」
どうやらミウには分かってしまったらしい。
「ありがとう、ミウ」
この異世界で、心の通じ合える仲間がいるのが心底ありがたい。
女神様に感謝をしつつ、俺たちは馬車に乗り込んだ。
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