二人でお出掛けしていた裏とか
あたし、青柳葵は何故ここにいるのか、全くもってわからなかった。
本当は剣道部に出る筈だったのに何故か尾行をさせられている。
始まりは確か、朝早くに七海先輩に呼ばれたのだ。
そしたら、生徒会の会長を除く皆が呼ばれた場所にいたのだった。
「どうしたんですか?皆さん朝早くからおそろいで」
「ふっふっふ。今日は薫といつきのデートなのだよ。葵クン」
七海先輩がわざとらしい意味深な笑いで言う。
「へー、部活をサボらせてまで何をさせる気ですか」
「わからないのかね?それはズバリッ、薫がうまく行くかどうか見守る!」
「嫌です」
「即答かい」
「まぁ、普通はそうよね」
あたしが即答すると、七海先輩が呆れたように言い、一ノ瀬先輩は最もだと言う風に言ってくれた。
「じゃあ、あたしは帰りますね」
「ちょっと待て。せっかくここまで来たんだから尾行しなくちゃ」
「あのですね七海先輩。他の人もいるんですから、あたしは必要ないでしょう」
あたしは呆れたように周りにいる生徒会のメンバーを見渡せば、皆が苦笑していて、七海先輩は少しだけ悔しそうな顔になり、芝居じみた言葉で言う。
「うちらが尾行出来たら君を呼ばなかったよ!彩にも連絡を取ろうとしたけど電話に出ないし。だからうちらは事情を知っていて、いつきクンの友達である君に頼んでいるのだよ!!」
「ごめんなさいね。薫が心配で、本当は私たちがしなくちゃいけないのはわかっているのだけど、これから用事があって薫の様子が見れないのよ」
一ノ瀬先輩はとても申し訳なさそうに言ってきて、あたしは何も言えなかった。
「青柳さん。お願いします!こんな事を頼めるのは貴女しかいないの!私の薫先輩がアイツの毒牙に刺さらないように見ていて欲しいの!!」
佐々木さんは懇願するようにあたしに言ってきて、この人はこんなキャラだったっけ?と疑問に思う。
すると急に肩を叩かれ、何かと思って見てみたら、龍川さんが帽子と眼鏡を持って、あたしに差し出してきて、
「青柳さん。頑張って!」
と、龍川さんは良い笑顔で言ってきて、逃げ道はないんだなと悟った。
※※※
回想も終わり、事前に聞いていた約束の一時間くらい前に来ている会長はそわそわしながら待っていた。
あの王子様と言われている会長がそわそわしているのに驚き、やっぱり年頃の女の子何だなあと考え深かった。
しかもお相手はあのいつき。
うん。びっくりだ。
言っては悪いけど、いつきは平均的な人で会長と彩と比べると月とすっぽんだと思う。本当に悪いし、しかも人の事言えないけど……。
そう言えば、佐々木さん、あたしに頼む時、凄い勢いだったなあ。
確か佐々木さんは会長のファンクラブの副会長をやってるみたいだし、あの勢いも納得?かな。
携帯をいじりながら会長の様子を見ていると、男二人が会長に話しかけていた。
会長は落ち着きながらも男達に対応しており、それでも男達はしつこくナンパしていて、あたしは出ていった方が良いかと迷っていたが、そこに帽子を目深に被った少年が近付いていくのに気が付く。
その少年はあたしがいる場所からじゃ顔がよく見えなかった。
少年は上手い事、男達を会長から引き離して、会長と手を繋ぎながらその場を離れていくのを見て、あたしは慌てて後を付ける。
会長は驚きながらも少年の後を大人しく付いていく。
会長と少年は知り合いなのかな、と思っていると二人は立ち止まり、向かい合いながら話し出す。
少年が目深に被っている帽子を少しだけずらして、漸く気付いた。
その少年はあたしもよく知っている人で少年ではなく、女の子で、いつきだという事に……。
本当に驚いた。いつきは髪が短くなると少年っぽく見えるんだ。
いや、少しだけ中性的だとは思ってはいたけど、あんな風になるんだ。髪が短いといつきは。
あたしは少し感心していると、いつきと会長は手を繋ぎながら歩いて行くのを見て、あたしはまた慌てて後を付けた。
それにしても、いつきと会長を見ていると、恋人同士というよりも、姉と弟に見えて仕方がない。
背丈が違いすぎるのもあるだろうけど。
……いや、でも。よく見ると恋人っぽくも見えるかも知れない。
特に会長のいつきを見る顔が恋する乙女になっているし、いつきは楽しそうだし。
……何かモヤッとしたけど何でだろう?
※※※
いつき達は公園に行って今は会長の手作り弁当を食べている。
いつきは会長と一緒に仲良く美味しそうに食べていて羨ましくなった。
あたしは公園の近くにあるコンビニのおにぎりと野菜ジュースを買って食べている。
いつきが物凄く羨ましい。
それにしても、こうして見ると本当に……。
「恋人っぽく見えるなぁ」
「本当にこうして見るとカップルに見えますね」
「だよねぇ」
「でも、わたしは別にいつきさんの二番目の恋人でもいいので、あそこに入りたいです。わたしは薫さんの事も大好きですし」
あたしはいつき達を見ていて、思わず呟いた言葉に返事が帰ってきて、あたしは今誰と話しているのだろう?と思い、声が聞こえた方に顔を向けると、あんパンと牛乳パックを持っている、つい先日友達になった彩がいた。
「彩!?」
「しっ!気付かれたらどうするのですか」
あたしは彩の言う事も尤もだったので、いつき達の様子を見ると気付かれなかったみたいだ。
一先ずほっとして、とりあえず声を抑えながら彩に聞く。
「彩、何してるの。こんなとこで」
「尾行しているんですよ。葵さんも尾行をしていたのでしょう?いつきさんと薫さんの」
「そうだけど」
あたしは不本意ながらも本当に尾行をしていたので、仕方なしに頷きながらもそう言って、思い出す。
「そう言えば七海先輩に彩と連絡が取れないって言われたけど、どうしてさ?」
「あぁ、薫さんが本当にこの服で良いのかと夜遅くまで聞いてきて、わたしが起きたのがデート時間の30分前だったので、気付かなかったんですよ」
彩はそう言って、可愛らしく欠伸をしたあと、iPhoneを取り出し、確認をしていた。
「わぁ、結構な量の着信履歴がありますね」
彩はiPhoneを見て、驚いた後、「まぁ、後で連絡を入れれば良いでしょう」と呟きながらiPhoneをしまい、いつきの方を見ると「あれ?」と首を傾げていた。
あたしはどうしたんだろうと思いながら、いつきの方を見ると、あたしも疑問に思った。
さっきまで楽しげに弁当を食べていたのに、何故だか会長が少し悲しげで、いつきはその事におろおろしている。
何があったのか、よくはわからないが、多分いつきが変な事を言ったのだろう。
何しろいつきは時々、一言が余計だから。
※※※
少し変な空気の中、いつきと会長はお昼を食べ終え、映画館へと入って行った。いつきは映画館に着くその間、何とか空気を元に戻そうとおろおろしていて、まるでその様子は彼女の機嫌を何とかしようと頑張っている彼氏に見えた。
あたしはそんな事を考えていたら少しむかってなり、あたしは自分の事なのに何でそんな感情が出てきたのかよくわからなかったけど、彩がいつき達を待つ間、お茶をしようと言ってくれたので、その言葉に甘える事にした。
「それで、いつきったらその後に……ってどうかした?」
あたしが話していると、彩が何かに気付き、くすくすっと笑いだしたので、あたしは怪訝に思い、聞いてみた。
「いえ、先程からいつきさんの事ばかり話していて、葵さんもいつきさんの事が大好きなんですね」
「なっ!?」
あたしは彩の言葉に驚いて、固まった。
い、いきなり大好きとか何?!いや、いつきの事は好きだよ?だってあたしは、いつきと友達だし、親友みたく思っているけど、いつきはあたしの事をただの友達だと思っていると思うし……。しかもいつきの話をしていたのは彩はいつきの事を好きなんだからいつきの話をしていたからであって……。
あたしが少しの間、固まっているのに彩は疑問に思ったのか声を掛けてきて、あたしは漸く彩につっかえながら話す。
「い、いきなり何?」
「話を聞いていると、葵さんもいつきさんの事が大好きなんだと思いまして」
「うっ、た、確かにいつきの事は好きだよ?だって友達だし……。でも、いきなり好きとか言われると恥ずかしいと言うか、何と言うか……」
きっとあたしは今、顔が真っ赤だろうと思いながら言うと、彩は思いもよらない事を言ってきた。
「わたしが言う好きは恋愛感情の事でしたが……。違うんですか?」
「はいっ!?」
あたしはまたもや固まり、彩の言う事を考えてみる。
言葉通りに考えると、彩はあたしが恋愛感情を持っていると思っている。……あたしが……いつきに。
「いやいや!?いつきの事は好きだけど、恋愛じゃないよ!」
「……そうなんですか?」
「そうなんです!」
あたしは慌てて否定すると、彩はきょとんとした。
あたしは何で彩がそんな考えになったのかわからなかったので、聞こうとしたら、もういつき達が見ている映画が終わる時間になり、店から出る事になった。
あたし達は映画館からいつき達が出てくるのを待ちながら、さっき聞けなかった事を彩に聞く。
「何で彩はあたしが恋愛感情でいつきの事を好きだなんて思ったのさ?」
「だって葵さんがいつきさんの話をしている時が一番、楽しそうでしたし……」
「そりゃ親友だと思っている人の事を話せば楽しそうになるって」
「親友、ですか。……確かにそうかもしれませんね」
あたしはそうそう、と言って恥ずかしくなった。
ただでさえ、友達とかって言うのも恥ずかしいのに、親友って。
……転がりたくなる程、恥ずかしくなったけど、それは表には出さなかった。あたしってば偉い。
あたし達が話しながらいつき達を待っていると、漸く二人は映画館から出てきた。
いつきと会長は楽しそうに話していて、笑いあっていた。
あたしはそれを見て、何故だか面白くないと思った。
……なんで?
「どうやら、仲直りをしたみたいですね。よかったです」
彩はほっとしたように言って、あたしの方を見ると、「どうかしたんですか?」と聞いてきた。
あたしは「何でもない」と言い、彩にあたしが疑問に思った事を聞く。
「何で彩は普通にしていられるのさ。いつきが好きなら普通はいつきと仲良くしている人に嫉妬をするんじゃないの?」
「……確かに、そうかもしれませんね」
あたしは少しきつく言って、少しばつが悪く感じたけど、彩は一回頷きながら言い、続けて言う。
「わたしは少しおかしいのかも知れません。わたしは、女の子同士が仲良くしているのを見るのが大好きなんです。……その上、わたしのいつきさんが他の人と仲良くしている所を見ると、何故だか……」
彩は少し俯きながら言うので、彩の顔は見えず、どんな気持ちで喋っているのか、わからない。
だけど、少し間を置いてから顔を上げて、あたしを見ると、言う。
「何故だか、ゾクゾクするんです」
「…………は?」
あたしは彩の言っている意味がわからなかった。
彩は訳のわからないあたしを置いて、どこかうっとりとした様子で話す。
「最初は、いつきさんが他の方と仲良くしている様子を見て、嫉妬をしていました。でも、段々と何か言い表せれない感情が湧いてきて……興奮するんです」
彩は興奮したのか少し息が荒く、頬を染めながら言うのであたしは引きました。ドン引きです。
物凄い告白ですね、彩さん。あたしの中の彩がガラガラと崩れましたよ。……えぇ、それはもう凄い勢いで。
あたしはこの後、何を言えば良いのかわからなくて、目を逸らしながら「へぇー」と言った。
視線は自然にいつき達がいた方に向けるが、いつき達はいなく、周りを見渡すが、いつきと会長らしき人影は見えなかった。
「ねぇ、彩。いつき達の姿が見えないけど、どこに行ったかわかる?」
「あら?つい先程まであの建物の近くにいましたけど、いませんね。わたし達が話している間に見失ってしまいましたか」
彩は興奮は治まったのかいつもの様子になっている。……切り替えが早いよ、彩さん。
いつき達を見失ったら尾行の意味ないなあ、とあたしは思っていたら、彩はため息を吐き「仕方がありませんね」言い、続けて言う。
「薫さんを見守る会はこれにて解散しましょうか」
「えっ、尾行はもういいの?」
「はい。いつきさん達を見失ったら意味がありませんしね」
まぁ確かにそうだけど、とあたしは思ったけど、何か中途半端で不完全燃焼みたいで嫌な感じがした。
その事を彩に言うと、iPhoneを取り出した。
「わたしはこれから用事があるので一緒に行けませんが、いつきさん達がいる場所はどうにかわかるかも知れません」
彩はiPhoneを弄り、「こっちですね」と言いながら歩き出す。
「何でいつき達の場所がわかるのさ?」
「薫さんの持っているiPhoneでわかるんです。iPhoneは便利ですね。お友達を探してくれるアプリがあるので、それで今探しているんですよ」
あたしはそれを聞いて、はぁーと感心するけど、下手したらヤバイ事にも使えるんだな、と怖くなった。
今の技術すごいなあ。いろいろと。
※※※
彩に連れられ着いた場所はこじんまりした古そうな喫茶店だった。
ここにいつき達がいるらしく、彩は「また明日、何があったのか教えて下さいね」と言った後、あたしとその場で別れた。
「あたし、何やってんだろ」
いつきと会長が喫茶店から出てくるのを待っていると、あたしは思わず呟き、深く溜め息を吐いていた。
本当に何やってるんだろう。
あのまま彩と一緒に帰れば良かったのに、何で自分はまだいつき達の後を付けるのだろう。
七海先輩にお願いされたからもあるだろう。一応先輩だし、他の人達にもお願いされたんだし。
でも、それだけじゃない気もする。そりゃ、この後どうなるかなと言う好奇心もあるけど。
それにしても彩の言葉には驚いた。
思い返しても、物凄い言葉を言ってるよ。ナチュラルにいつきを自分の物にしているし。
いつきは誰の物でもないのにさ。
それにしても、いつきと会長は何を話してるんだろう。
いつきは誰と付き合うんだろう。
いつきは誰かと付き合ったら、その人ばっかと遊ぶのかなあ。……そうなったら嫌だな。
いつきはあたしのなのに……。
……あれ?さっきいつきは誰の物でもないとか考えていたのに、何であたしの物みたくしているんだ?
訳がわからない。
あたしが悩んでいると、いつき達は店から出てきた。
あたしはまた見失わない様にいつき達の後を付ける。
いつきと会長は一旦立ち止まり、会長が顔を赤らめていつきに何かを言っていた。
ここからは何を言っているのか、わからなかったが、少しした後、二人は手を繋いで歩き出す。指を絡める繋ぎ方で。
あたしはそれを見て、また面白くないと思った。
何でだろうと思いながらも歩き出した二人の後を付けると、また二人は立ち止まり、いつきは少し怒った風に会長に何かを言った。
その後は何故だか二人とも顔を赤くしながら、微笑んでいて、あたしは逃げ出したい衝動になった。
だけど、あたしはその場で動けずに微笑み合っている二人を見ているだけだった。
いつきから会長に手を繋いで歩き出す。
あたしは心の中にモヤモヤした感じをしながら、ただ二人の後を付ける事しか出来なかった。
※※※
いつき達はとても大きな和風の家に着いた。
あたしは多分、あの大きな家が会長の家だとわかり、やっぱり金持ちなんだと思った。
いつき達は門の前に止まると何かを話していて、会長がいきなりいつきに近づいて行き、いつきと会長の顔が合わさるのを見て、いつきと会長はキスしたんだ。と思った瞬間、あたしは走り出した。
どこを走っているのかわからないくらいに無我夢中に走って、息をするのが辛くなって立ち止まり、そして気づいてしまった。
彩が言ってたとおりに、あたしはいつきの事が好きだとわかってしまった。それも恋愛感情で……。
あたしは大きく深呼吸をして、周りを見たら駅のすぐ近くにいるのに気がつく。
無意識だったとはいえ、駅の近くに来たのは助かったと思いながら寮に帰る。
もし道に迷ったら洒落にならないし。
うん。とりあえず、考えるのは後にしよう。
と、思ったけど色々と考えて、もんもんとしている。
女同士じゃんとか、いつきはあたしの事は友達としてしか見ていないだろうし、なにより彩と会長に敵うわけないじゃないか。しかも、キスしたっていう事はいつきと会長は付き合う事になったんだろうし……。
……諦めて祝福しなくちゃ。
あたしはいつの間にか寮の自分の部屋でベッドの上に寝転んで考えていた。
あぁ、いつきと会ったらどういう顔をすればいいんだろう。いや、いつも通りでいいんだろうけど、出来るかどうか不安に思っていたら、いつきが帰ってきた。
不安だったけど、何とかいつも通りに出来ていたらしく、いつきは不審に思った様子はなかったから、いつものように夕飯を誘い、一緒にご飯を食べた。
それにしても、おかしい。
いつきと会長が付き合った筈なのに、まったくもって、いつきは普通なのだ。
恋人が出来たら普通は惚気る筈なのに。
いや、それが世間では普通かどうかはわからないけど、もしいつきが惚気てたら、あたしがどうなるかわからなかったからよかったけど……。
また、もんもんとしてきたからお風呂上がりに思い切って、いつきに今日の事を聞いてみたら、なんと、会長と付き合っていないし、キスはほっぺたしかしてないとの事。
確かにあたしが見ていた角度からはよく見えなかったから、見間違いして、キスをしたと勘違いをしていたらしい。
あたしはほっとしたけど、会長の奥手振りに少し呆れた。
先輩達からいつきと会長のお出掛けはどうだったか聞かれたけど、明日また学校で会うのだからその時に話す事を伝えて、ベッドに上がり、いつきにこの気持ちを伝えるかどうかを考える。
いつきは女同士について偏見がない事は彩と会長が告白してきた事でわかってる。
このままだと、いつきはあたし以外の他の誰かと付き合う事になる。
あたしはいつきが好きな事に気づいた今、そんな事は絶対に嫌だと言える。
なら、簡単だ。
会長や彩には適わないと思ってはいるけど、いつきに明日の放課後、この想いを伝えよう。
なるべく早く伝えて、あたしの事を意識させなくてはいけない。いつきは言わなくちゃ鈍感だからあたしの気持ちはわからないだろうし。
よしっ!そうと決まったら早く寝て明日に備えよう。
申し訳ありませんでした!!
活動報告の方で12月中に投稿するとか書いておきながら年が明け、2月にするとか……。
楽しみにしていた方、すみませんでした。
もう予告はしない事にします。うん。
久しぶりに書いたのでおかしい部分があるかも知れないので、見つけたら教えて下さい。
次のは番外編というか閑話です。
ありがとうございました。