薫が気がついた後の事
私は今、失意のどん底にいた。
せっかく彩が私といつきと一緒にお昼ご飯を食べれるようにしてくれたのに、まさか、気を失うとは思わなかった。
でも、仕方がないじゃないか。
いつきの顔が近くにあったのだし。その前はか、間接キス。っぽい、ものもしたのだし。
いつきは何も思ってなさそうだったけど……。
はぁ~。
私だけいつきの事を覚えていて、ドキドキして、何をやっているんだろう。
はぁ~。
「おっ、薫。起きたのか」
「……七海」
「あら?私もいるわよ」
「……沙織」
「何、辛気臭い顔してるのさ」
「……今は何時頃かな?」
「六限目が終わって、ホームルームも終わったところだ」
「はぁ~」
私は七海の答えを聞いて盛大に溜め息を吐く。
「いつきちゃん、心配していたわよ。自分の所為で薫が倒れたんじゃないかって」
「っ!?いつきの所為なんかじゃない!」
「なら、それを本人に言いな」
私は七海の言葉に頷き、寝転んでいたソファから起き上がると今更ながらに授業に出ていない事に気がつき、聞いてみる。
「あぁ、それなら体調不良にしといたから。最近、寝不足だったんだろう?」
私はまたもや七海の言葉に頷き、ばれていたんだ、と呟く。
「バレバレよ。多分、生徒会のメンバー全員が貴女が寝不足だと分かっていたと思うわよ。もちろん彩ちゃんもね」
今日で何回目かの溜め息を吐く。
寝不足の理由はいつきに告白をしようかと迷っていたり、結局告白の後も色々とあったので、あまり眠れなかったのだ。
私はソファで寝転んでいた身体を起こし、掛かっていた毛布を畳むと立ち上がる。
「いつきの所に行って謝って来る!」
「悪いですが、貴女にはこれから色々とやって貰う事があるので、児山いつきさんの所には行けませんよ」
話し合っていた七海と沙織の二人以外の声が急に聞こえ、声がした方を見てみると、書類らしき紙を大量に持っている女性がいた。
「長谷田先生……。直ぐに戻って来るので、少しだけ時間を貰えませんか?」
「駄目です。貴女は生徒会長という自覚はないのですか?一人の生徒に公衆の前で告白すると言う行為をし、その上、授業をなまけるとは。……貴女は生徒会長です。他の生徒達の模範なんですよ。それが分かったのならこの仕事が終わってから他の事をしてください」
長谷田先生が眉をしかめながらそう言い、机に書類を置くと先生は部屋を出て行った。
「うわぁ、長谷田先生。めっちゃ機嫌悪いな」
「そうね。あんなに怒っている先生を見るのは私も初めてだわ」
私も二人の言葉に同意するように頷き、あの先生をそこまで怒らせた事に私は更に落ち込んだ。
長谷田 響子先生はスーツを着こなし、赤ぶち眼鏡がとても似合っている女性で、数学を担当しており、私と沙織の担任の先生だ。
更に長谷田先生はこの学校のOBで、生徒会にも入っていた事もあるので若い年齢なのに生徒会の顧問でもある。
先生は無表情であまり感情が分からないのだが、授業がとても分かりやすく、他の生徒達も長谷田先生の授業は分かりやすいと評判だ。
先生は付き合ってみると分かる事だが、優しい人柄だと分かる。だが、長谷田先生は謎に包まれている。
あまり先生は、プライベートの事を話さないらしく、他の先生にも聞いてみても仕事が終わるとすぐに帰ってしまうらしい。
なので謎に包まれている。
そんな先生だが尊敬している生徒は多い。
私も尊敬している先生だから先程、怒られてショックを受けている。
「おーい、大丈夫かー?」
「……大丈夫だ。とりあえず、仕事をしなくちゃ」
「あら、目が大丈夫じゃなさそうだけど」
私は少しだけふらふらしながら、書類が置かれた机に向かう。
※※※
あれから暫くして、他の役員も自分の仕事をこなし、彩も手伝いをしてくれ、私も黙々とこなした。
いつきに心配をかけた事を今日は謝れなさそうで、どうしようと考えていたら、長谷田先生が生徒会室に入ってきた。
「もう下校時刻になるので帰宅の準備をして気をつけて帰りなさい」
私はもうそんな時間になったのかと部屋に掛かっている時計を見た。
「はい、分かりました」
私はちょうど終わった書類をまとめ、帰る準備をする。
書類を先生に渡し、挨拶をして帰ろうとしたら、先生に声をかけられた。
「神宮寺さん、これをあげるわ」
「えっ?」
「知り合いに貰ったのだけど、ちょうどこの日には用事があるの。二枚チケットがあるからあげるわ。友達を誘って一緒に行きなさい」
「ありがとうございます」
私は頭を下げ、チケットを貰う。
それは映画のチケットで内容は今話題のファンタジーだった。
長谷田先生はこういう物を見るんだと私は思っていたら、先生に「気をつけて帰りなさい」と言われ、私は「はい。チケットありがとうございました。さようなら」と言い、先に部屋を出て行った皆を追いかける。
「薫。先生と何話してたんだ?」
「先生に映画のチケットを貰ったんだ。二枚貰ったんだけど。七海、一緒に行く?」
「なんの映画?……へぇ、面白そうじゃん」
「でも、そのチケットは今度の日曜日までなのね」
私は沙織の言葉に驚き、確かにチケットには日曜日までと書いてあった。
「じゃあ、うちは無理だわ。剣道部に顔を出すから」
「私も無理ね。その日は用事があるのよ」
他の皆も何かしら用事があり、一緒には行けないらしい。
一人で映画に行くのも何だか寂しく感じるし、かと言ってせっかく貰ったチケットを無駄にしたくないと考えていたら、彩が「それなら、良い提案がありますよ」と言う。
「いつきさんを誘えば良いんですよ」
「あぁ、それは良い提案だわ」
……いつきを映画に誘う?
それって、デ、デートに誘うって事!?
私は一緒にいつきと映画に行く様子を想像して、顔が熱くなるのを感じた。
「なぁに、顔を赤くしてるんだよ。もしかして妄想の中で朝帰りでもしちゃった?」
「なっ!そ、そんな事は妄想してない!!」
「じゃあ、何を考えていたの?」
「……いつきと手を繋いで歩きたいな、とか。キ、キス、したいなあ、とか」
私はニヤニヤと笑いながら言う七海の言葉に慌てながらも否定をし、沙織に聞かれたので、仕方なく自分の考えていた妄想を恥ずかしいが、目線を逸らし、俯きながらも声がだんだんと小さくなるのが分かったが沙織に聞こえるように言った。
これで聞こえないからもう一回言えと言われても、無理だ。
「……今のをいつきちゃんに見せたらイチコロだと思うわよ」
沙織が急に神妙そうな様子で意味の分からない言葉を言う。
多分、今の私はみっともないだろう。
まず、恥ずかしすぎて涙目になっているし、顔も真っ赤になっているだろうから、とてもみっともない。
こんなのは絶対にいつきに見られたくない。
見られたくないと言えば確か、後輩も一緒にいたと思い出し、夕夏と空がいる場所を見る。
空と目が合うと少し困った様ににへらと笑い、少し視線をずらして夕夏と目が合えば、夕夏は片手で顔下半分を隠してぐるりと身体ごと後ろを向かされた。
それを見て、先輩としての威厳とかが無くなったのだと思った。
「大丈夫ですよ、薫先輩。夕夏はただ鼻血が出ただけですから」
私は空の言葉に少しだけ驚き、後ろを向いている夕夏が頷いていた。
「夕夏、大丈夫か?」
「だい、じょうぶ、です」
「本人もこう言っているので、薫先輩はあまり気にしなくて良いですよ。それに夕夏はぼくが送って行くので大丈夫です」
空は苦笑いをしながら言い、夕夏は未だに後ろを向きながら頷いていた。
空が送って行くなら安心だろうと思いながら、気をつけてと私は言い、二人と別れた。
「それにしても、突然鼻血だなんて大丈夫かな?」
「んー、大丈夫だろ。あいつ鼻血出やすい体質みたいだし」
「えっ?そうなの?」
七海と沙織、彩は私の疑問に苦笑していた。
訳が分からなかったが、それを聞ける空気ではなかった。
「薫さん。ちゃんといつきさんにデートの約束をするんですよ?」
彩が突然いつきにデートの約束とか言うから、せっかく冷めてきた顔の熱がぶり返してきた。
「な、何をいきなり」
「そうよ。ちゃんといつきちゃんとデートの約束をしなくちゃダメよ。せっかく長谷田先生にチケットを貰ったんだから」
「そうそう、無駄にしたらバチがあたるぞー。だからいつきとデートに行かなくちゃな♪」
三人がいつきとデートと言うものだから私は顔を真っ赤にして何も考えれなくなった。
※※※
私は今、自分の部屋で正座をしながら携帯を見ている。
児山いつきという名前と携帯番号の数字が並んでいる画面を私は睨んでいるように見ていた。
彩達はメールではなくて電話で誘いなさいと言っていたので、仕方なくいつきに電話を掛けようと私は携帯を開いたのはいいが、中々いつきに電話を掛けられずにいた。
いつきは今、忙しいのではないか、とかを考えてしまい、いつきに電話を掛けられないのだ。
そうこうしているうちに、夕飯の時間になり、私はご飯を食べる為に部屋を出ようとしたら、携帯からお気に入りの曲が鳴る。
この曲はお気に入りの中でも一番大好きな曲で、いつきから掛かってくる着信音はこれにしている。
私は慌てて携帯を取るとメールが来ていて、メールの内容は私の身体を気遣う事だった。
私はいつきからのメールで、身体を心配を掛けている事に少しだけ罪悪感を覚えたが、とても嬉しくて、テンションがあがってきた。
私はこのままのテンションなら、一緒に映画を見に行く事を誘えるのではと思い、早速いつきに電話を掛けた。
呼び出し音が鳴り、物凄く緊張してきて、やっぱり迷惑だったかな、とか断られたらどうしようとかを考えてしまい、電話を切ってしまおうと思っていたら、いつきの声が聞こえた。
『もしもし、薫さん?こんばんは。どうしたんですか?』
「こ、こんばんは。いつきは今、大丈夫かな?」
『はい、大丈夫ですよ。薫さんは大丈夫ですか?お昼に倒れましたけど……』
「あぁ、私はもう大丈夫だ。ところで、明日か明後日は暇かな?もし暇なら私と一緒に出掛けないか」
『明日は用事があるので無理ですけど、明後日は暇ですから良いですよ。何処に行くんですか?』
私は明後日なら大丈夫だと言ういつきの言葉にほっとし、いつきと一緒に二人で出掛けられると分かると、自分がとても高揚しているのが分かった。
「映画のチケットを貰ったのだけど、他の皆は用事があるそうで一緒に行けないらしいんだ」
『そうなんですか?……待ち合わせ場所や時間はどうします?』
「そうだな。十一時半ごろに駅前の時計の場所で良いだろうか?」
『はい、良いですよ。明後日の十一時半に駅前の時計近くですね。分かりました。私、楽しみにしてますね』
「ああ、私も楽しみにしているよ」
その後も私はいつきと少しだけ会話をして電話を切った。
電話を切ると、とても嬉しいという感情以上のものが涌いてきて、私の顔はだらしなく緩んでいると分かる。
私はそのままにまにまとにやけ顔で妄想をしていると、お手伝いの人が夕飯が出来たと伝えてきてくれ、私はどうにか顔を引き締めて自分の部屋を出る。
※※※
夕飯も食べ終わり、部屋に戻るとメールが来ている事に気がつき、見てみる。
三人からもメールが来ていて、内容はいつきにデートのお誘いは出来たのか、という彩や沙織、七海の三人とも同じようなメールだった。
私は明後日の日曜日に出掛けるという事を返信する。
すると、沙織と七海は良かったね。等とすぐにメールで帰ってきたが、彩の方は電話が掛かってきた。
『おめでとうございます!いつきさんにデートのお誘いができたんですね』
「だからデートじゃなくて、ただ映画を一緒に見に行くだけだ」
『そういうのをデートと言うんですよ。それよりも服装は何を着ていくつもりですか?』
「えっ?普段着で行くつもりだが」
『ダメです!デート何ですからおしゃれをしないと!!』
「だからデートじゃ」
『明日、薫さんの家にお邪魔しますね』
彩は一方的に言うと、電話を切った。
私は呆然としながらも彩は明日、用事があった筈だがどうなったんだ?と思った。
まぁ、でも、明後日はいつきと一緒に出掛けられるから、良いかと思い、お風呂に入ろうと考え、鼻歌を歌いながらお風呂場へと向かった。
何かおかしい部分などがありましたら教えて下さい。
ありがとうございました。