第八話 涙・そして微笑み
……終わったのか?
辺りを見回してみる。
「…………!?」
そこら中に血が飛び散っていた。しかし、その先にあったものは海藤成実ではなく――……
「佐藤!?」
そんなまさか、と思いながらもそれに触れてみる。既に冷たい感触しか残っていなかった。
達也は行く場もなく立ち尽くす。
自分がもう少し早く警戒していればこんなことにはならなかったのだろうか? これ以上、海藤成実を追うのはやめたほうがいいのか?
涙が一筋、頬を伝った。
「先輩、まだ泣くのは早いですよ」
振り向くと、海藤成実が由香を連れて達也と対峙していた。佐藤の姿など見てはいない。
「っおまえ……」
睨みつけようと思ったけれど、馬鹿馬鹿しくなってやめた。今の自分は嫌になるほど無力で仕方なかったからだ。
「先輩はもうちょっと面白い悪夢を見せてくれそうだから、最後に殺してあげる」
達也の心情などおかまいなしで、海藤成実は笑いながら告げた。
「わかります? 悪夢ってとっても美しくて優美なんですよ……核心が邪悪であろうとも」
達也は海藤成実を無視して、佐藤の頬に触れた。
大体海藤成実の仕掛けたことはわかっている。佐藤を身代わりとして達也に撃たせた……だけではなく、恐らく最初から殺していたのか。
誰も巻き込むつもりなどなかった。むしろ巻き込むまいと努力してきたつもりだ。
いつからだろう? どうしてなんだ? 周りが離れていく。達也の届かない場所へ、黒く深い闇へ、ずっと――
「……おまえを許そうとは絶対に思わないだろう」
達也は重い声で海藤成実に言い放つ。
海藤成実は楽しそうに、達也を見て微笑む。しかし、その瞳は笑っていない。
「私と先輩はどうやら、どう行っても味方同士ではないようですね」
達也は、ほんの一瞬微笑んだ。
「ああ……」