第七話 選択・そして結論
由香は、それでも達也に向けた銃を下ろそうとはしなかった。
「……後戻りはしないと決めた。今更遅い」
その手は微かに震えていたけれど、彼女の瞳は本気だ。達也を今更庇う気などさらさらないのだろう。
「…………」
達也もそれは理解しているが、戸惑った表情を見せることはしない。
それが結局、彼女と敵対したくないという感情の一つだということには気づいていないが。
「――なかなか面白い見ものが見れたわ」
突然海藤成実は姿を現した。しかし、その表情はセリフとは裏腹にやはり焦ったような強張ったものになっている。
「俺に何か?」
達也はその顔をじっと睨みつけた。もう何の感情もわかない。目の前の少女を人間だと、まして同じ学校の生徒だとも思いたくはなかった。
殺されたのだ。乙葉が、乙葉が、乙葉が――……
それを考えまいと思っていた。だけどそんなこと出来るわけがない。かつて副会長として精一杯彼のために出来ることはしたつもりだ。それがこんな形で不意に消えてしまった。何処か遠くへ、達也の知らない所へ乙葉は行ってしまった。
さよならさえ、言えなかった。
言いたくもなかったし、彼にはこんな事に巻き込まれて欲しくはなかったのだが。
「ぐっ……」
気づくと、由香の目の前に立っていた。
きっと無表情だろう。もう全てがわかってしまったような気がしていた。達也がどうしてこんなことに巻き込まれたのか、彼女は何者なのか、何を考えているのか――
目の前の由香と言う少女は一体何を考えているのだろう?
乙葉への想い? それとも達也への恨み? 自分への葛藤……?
由香にそんな思いはさせたくなかった。少なくとも、責任など感じて欲しくはない。
「!? おまえ、何を――」
ゆっくりとスローモーションのように、由香から奪った銃を構える。その銃口は、無論海藤成実へ。
「これ以上何もするな。何もしないのなら俺も銃を撃たない」
人道的とか、道徳とかもうどうだっていい。
これは自分が決めた道。正しいかどうかなんて誰も知らない。それでいい。
達也はゆっくりと、引き金を引いた。