第六話 裏切り・そして記憶
「……?」
目が覚めたはずなのに、周りは暗闇で覆われていた。何も見えない。
「誰かいるのか?」
微かに聞こえる鼓動が、第三者の存在を明るみにしていた。
「……遠藤、なの?」
その声は、達也がずっと安否を心配していた進藤由香だった。確かに彼女の声で、だけど……何かが違った。達也の知っている由香の声とは何かが違う。
不意に視界が明るくなった。
「!?」
驚く達也に、由香の冷たい視線と銃口が向けられる。けっして、正気の目ではない。しかし、油断も許されない。
「本当に、愚かなものね――……」
かつての由香の面影はなく、その体はもう守護者としての責務や名誉など関係なく、ただ己の思うままに動いていた。それはある種人間ではないと言えるだろう。
「おまえ――進藤由香はどうした?」
達也は一瞬動揺したが、すぐに状況を見て、静かに聞く。
それは最早、目の前の相手を『進藤由香』という知り合いと合致しないと静かに告げていた。
「何言ってるの? 私が進藤由香よ。ずっとあんたと一緒にいてやっただけ。馬鹿ね、信用でもしてた? 言っとくけど、私はあんたのことなんか嫌いだったわ」
由香はそう言ってまくしたてると達也に目をやって、鼻で笑った。
達也の頭の中は、由香の言葉でいっぱいになっていた。彼女の言った全ての言葉は自分の考えていたような単純なものではなかったのだ。そして――
「おまえは……乙葉のことも裏切っていたのか?」
達也に銃を向けている今、考えられる可能性は一つだけ。
由香がもともと達也と乙葉を裏切り、守護者を裏切り、海藤成実に協力していた、そのこと。
すると、由香はすこしひるんだように表情を歪ませた。
「……そういうことになるのかしら……」
しかし彼女の表情は、完全にその答えを否定している。少し戸惑ったような、焦っているようなそんな表情は乙葉の存在に触れて困惑していた。
「…………」
彼女の気持ちは、達也にもひしひしと伝わってくる。
わかっていた。でも、気づかないふりをしていただけ。乙葉もそうだったのかもしれない。
『私は、乙葉を――』