第四話 再会・そして焦り
「達也」
いつのことだったか、誰が言ったのか、そんなことは覚えていない。
ただ、呼ばれたから反応した。
「誰だ?」
わからなかったけど、ただ単に「気になったから」聞いた。
男か女かさえ、まともにわからなかったけれど。それでも、耳を澄まして、何とか聞こうとしている。
「あなたの全てよ」
全て、その響きに魅せられた達也は、微かに微笑む。
「俺の、全て」
全てと1つで形容できるようなものじゃなかったのかもしれない。目を離したら消えてしまうような、心細いものだったのかもしれない。それでも、傍にいたかった。いてほしかった。
「さよなら、達也」
微かで、とても強い光は、今も達也の中にある。
結局、達也は全てを失ったのだ。あの時に、全てを。
外の風はやけに冷たくて、思わず身を震わせる。
「…………」
もう誰も、達也を守ったりしない。かばったりしない。して欲しくもない。
二度とそのような思いはしたくなかった。それでもやはり時はくる。嫌でも、だ。
「先輩」
不意に声がして、達也は振り向く。
「お久しぶりですね」
姿は全く変わっていない、それは海藤成実だった。『守護者』にも「死に損ない」と軽蔑されている人ならぬ人の影を持つ、一言で言えば本当に死に損ないだ。けれど彼女の周りの空気は、なんとなく硬くなっていた。焦っているのか、それとも何かを恐れているのか。
「……何の用だ」
やはり、乙葉の一件もあってのことか、表情は自然と硬くなる。海藤成実も珍しく、表情を強張らせていた。
「先輩って意外と薄情だったんですね。一向に進藤先輩を助けに来ないから」
もちろん忘れていたわけではなく、由香をわざわざ助けに行く事を由香が拒んでいる気がしたからだ。そうでなくとも、学園を捨ててまで由香を助けに行くような事はしたくない。彼女を信頼していない事に他ならないからだ。
「それが、何か?」
無表情に達也が問う。
「また他の人を犠牲にしてしまったら、先輩はどんな顔をするんでしょうね……」
そうして、海藤成実は面白そうに微笑んだ。
さらさら相手にする気などなかったが、その名前を聞いて達也の顔色が変わった。
「佐藤伸彦とか」