エピローグ 彼女の思惑
ずっと、ずっと前。まだ、この学校の異常さには気付いていなかった時のこと。
「……進藤先輩」
呼びかけた先輩の背中は、私のか細い声に反応することなく、ぱたぱたと廊下を走って行った。多分、生徒会室へ行くのだろう。追いかけようとした私の足が、止まった。ひやりとした冷たい何かが、私とすれ違ったような気がしたのだ。とても気持ち悪くて、なかなかそこから体が動かなかった。
背中を汗が伝い、ひどく嫌な予感がする。
「あ……」
そして、その予感は本当のものになる。最悪の形で。
「何で私だけ、ここに連れてきたの?」
もう自我を取り戻した進藤先輩が私に尋ねた。やはり、『守護者』としての素質はもとより、その精神力には敬服する。私は、彼女にだけは全て話してもいいような気がした。でも、私の独断で話してしまっては、『彼ら』は許してはくれない――。
「端的に言うと、あなたは今回の事には関わってほしくなかったからです」
それは本心だった。彼女に関わってもらっては困る。ただ、その理由を話すのはまだ駄目だけれど。
「どうしてよ?」
「…………」
答えられるわけがなかった。彼女は私のことなんか覚えてない。理由を話したとしても、すぐには信じてもらえないだろうし、気味悪がられるかもしれない。何も起こらなくても、いずれ自分はこの学校から去るつもりだが。ならば、何を話したって関係ないだろう。そうだ、もう全て話したとしても、誰も怒らないのだから。
「今起こっていることは、この学校で代々賛否両論を呼んできた儀式を行おうとしたことが発端です。遠藤先輩が気づいたかどうかはわかりませんが、新藤先輩は最初から知っていた。だから、止めようとしましたね、ご存じのように」
本当はそれだけではない。しかし、あえてそれを今言うべきではないことくらいはわかっている。教えなければいけないのは、その儀式の内容。
おぞましい、長年秘密にされてきた学校の秘密だった。口に出したら、『彼ら』は嫌でも動き始める。自分がそう仕向けたから。そして、先輩も薄々勘付いているはず。私は、失敗してはいけない。この計画は私一人の犠牲で賄えるほど単純なものではないのだ。
――まさか、あいつが手助けしたりはしないだろうし。
海藤成実は、もう思い出したくもない男を思いながら、心から楽しそうに笑った。
中途半端な所で終わりましたが、次回で完結です。
読んでくださってありがとうございました。