第十五話 追憶・そして喪失
新学期といっても、中高一貫であるこの学校に通っていると感慨もなかった。高校生になって、変わったことと言えば学年とクラス、それから校舎くらいだ。クラスメイトの半分くらいは顔と名前が一致しているし、知らない奴に声をかける『冒険』をしてみようとも思わない。教室の片隅でそんなことを考えながら、達也はふと窓から校庭を見た。
中高一貫校だけあって、中学と高校の校舎はそれぞれ大きく、真ん中にある校庭も狭くはない。外では多くの中学生が遊んでいた。高校生になると、中にこもる奴が多くなる。
達也も、そうだった。
顔見知りはたくさんいたし、話す相手に不自由することはなかった。唯一不満だったのは、実感がわかなかったこと――高校生になった、これからの期待とか明るい希望が感じられないこと、だった。何となく、筆箱に入っていた短い鉛筆の端に『大吉』『中吉』『吉』『末吉』『凶』『大凶』の六つをシャーペンで書いてみた。転がしてみると、勢いが強すぎたのか、机から落ちてしまった。達也はどちらかというと、鉛筆の芯が折れていないかの方が気になった。
拾おうとした達也の手より先に、別の手がその鉛筆をつかんだ。
「……?」
「はい、面白そうなことやってんな」
その人物は、おそらく学年全員知っているであろう生徒会副会長――新藤乙葉だった。かなり気さくな人柄とは聞いていたが、今はあまり話す気分じゃなかった。
「……別に、気にしないでくれ」
生徒会なんかと関わりたくはなかったし、あえて言えば気味悪かった。あの時既に、ちらほらと変な噂は耳に入っていた。その中には『守護者』の噂もあった。
「なあ、遠藤君」
高校生にもなると、同級生に対して君づけする男も珍しくなる。その時はかなり気持ち悪く思って、鳥肌が立ったのを覚えているし。
「何?」
「今日、放課後空いてる?」
やることはなかったし、帰ったってつまらないことばっかりだから。そういう理由で受けたのもあるのだが、やはり一番には今この会話を打ち切りたいという切実で純粋な願いからだった。
多分、放課後の誘いを受けなかったら何も知ることはなかっただろう。でも、それは命の危険がない代わりにとてもつまらないことのように思えた。