第十三話 記憶・そして現在
『海藤成実、女。16歳。家族構成――叔父、叔母。成績、授業態度共に問題なし。…………』
いくら読んでも、それしかわからなかった。書類と一口で言ったところで、当然生徒に渡す書類などたかが知れている。ただ、家族構成については少しだけ思うところがあった。両親はともかく、兄のことには一切触れられていない。どうやら、教師達はあの男の存在を知らないらしかった。
こんな情報だけで、彼女を出しぬけることなどできない。むしろ、自分が死ぬか。でも、この学校に何かがあるのは確かなのだから、探っていればやがて何か出てくるはず。そう思ってずっと探しているのだが。
「ふう……」
力を抜いて、椅子の背もたれに体を預けた。そもそも、何があった? 乙葉が死んで、わけのわからないまま、由香を連れていかれて、『守護者』と話して――佐藤が死んで、海藤成実と再会して。由香はどうしているんだろうか。海藤成美の家にいたとして、誰か不審に思わないはずがない。そういうのじゃない、そういうのじゃなくて。
『あの計画は私にしかできない』
『汝、汝は生きるものであり、同時に死すものである』
『ああ、これは人間の抜け殻みたいなものです』
海堂成実――死ねないものへの鎮魂歌。
計画は止めなければならない。そう、だから自分は今ここにいて、資料を読んだりしてどうにか糸口を見つけようとしている。が、何も思い出せない。
「!」
「『汝、汝は生きるものであり、同時に死すものである』」
海堂成実の家にあった本。一ページだけ黄ばんでいたから、何か変だと思っていた。どういう意味なのか考えもしなかったが、今大体のことが繋がった気がした。
「っこれがもし本当なら」
急がなければならない。直ちに。
海堂成実の、家に。