第十話 現実・そして夢
起きると、自分の部屋にいた。
「……?」
周りを見回してみても、誰もいなかった。けれど少しだけほっとする。
昨日の晩、血だらけで佐藤をおぶってきた達也は疲れ果てていた。そんな姿を見た学校側は、何も言わずに達也を家に帰らせた。
達也としても、あのまま事情を聞かれるのは耐えがたかったので、言われたとおりに家に戻り、心配していた家族に謝ってから床についたのだった。
頭の中は何も考えられないほど空っぽになっていて、佐藤の事さえぼんやりとしか記憶していない。けれど、目的と決意を忘れたわけではない。二度とこんな思いはしたくないから。
もともと、自分がこんな事に巻き込まれるような非凡な高校生だとは思っていなかった。いや、今も認めたくはない。こんな事を言ったら笑われるかもしれないが、死ぬならせめてヒーローのようにかっこいい死に方をしたい。もちろん、自分の命を軽軽しく思っているわけではない。
もうわかっているのだ。生きるか死ぬか、それがこの戦いの結末。
海藤成実もそれぐらいの覚悟はしているはずだ。仮にも2人も人を犠牲にしているのだから。
堕落した人生とか、そういう人生のことを長々と語る趣味はないが、それでも達也にはやらなければいけないことがある。そんなことは百も承知だ。しかし多分今からでも決意を変えるのは遅くないだろう。
けれど駄目だ。
分かっているから、後戻りはしない。
何度も振り返って確かめようとしたけれど、戻るという選択肢は存在しなかった。
達也の望んでいた答えはどこにもなくて、そこにはただ嘲笑うように乙葉と佐藤と由香の面影があるだけだった。
達也はゆっくりとベッドから起き上がると、制服に着替えた。
こんなことくらいで全てを諦めたくはない。




