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英雄譚―名も亡き墓標―  作者: アマネ・リィラ
欧州動乱編―選択―
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新章 忍び寄る影


 握り締めた紙幣に目を落とす。つい数日前まで、パンを買うことができたお金だ。

 けれど――もう、買えない。


「あの、これでパンを売って――」

「どけ坊主。邪魔だ」


 躊躇いがちに握り締めた紙幣を差し出す横から、一人の男が割って入ってきた。その男は紙袋に溢れるくらいの紙幣を入れ、店員に渡す。


「はいよ」


 対し、店員が渡すのは僅かに二斤の食パンのみ。男はそれを受け取ると、こちらに一瞥だけをくれて店を出て行った。店員の男はこちらに視線を向けると、紙幣が大量に詰まった紙袋を運びながらため息を零す。


「坊主、パンが買いたきゃこれぐらいの金を持ってきな。もっとも、来週には倍額になっちまうがね」


 再び、一枚の紙幣に視線を落とす。ほんの数か月前まではこれでパンが買えて、しかもお釣りまでもらえたのだ。

 だというのに、この数か月で紙幣の価値が大幅に下がった結果――最早、紙切れに等しい存在になっている。


「…………」


 少年は、泣きそうな目で握り締めた一枚の紙幣を睨み付けた。


 千年ドイツ大帝国。EUにおいては首脳国に数えられる国の一つであるこの国は、深刻なインフレに見舞われていた。

 EUという括りで見れば、大戦においてEUは戦勝国だ。しかし、個々の国々で比べると大きな差があるのが実情である。例えば精霊王国イギリスなどは大戦においてほとんど敗戦というものがなく、大きな利益を得ていた。統治軍の多くをイギリス兵が占めることになったのも、大戦において最も消耗が少なかったからというのが理由に挙げられる。

 そしてドイツは、ほとんど敗戦に等しい終わりを迎えた国だ。

 大戦が勃発した際、一番最初にシベリア連邦から攻め込まれた国はドイツである。地中海を通り、奇襲に近い攻撃を受けたのだ。

 その際のダメージは深く、ドイツは大戦への参戦が遅れ、結果、功を焦っていくつもの局地的な敗戦を経験。EUという最終的に勝利した側にいたからこそ戦勝国となり、利益も得られたが……国を建て直すためには、大戦で負った傷は決して無視できなかった。

 しかも、ドイツというのは王のいない貴族政を敷く国である。一応、貴族による諸侯会議なるものが存在し、議長もいるが……そんなものは飾りに等しい。貴族はそれぞれの領地を守り、利権を守り、あわよくば周囲の貴族たちからそれらを奪おうと虎視眈々と時をうかがうような国である。それ故に、ドイツは深刻な経済危機に見舞われた。

 どの貴族も復興のために大量の資金を必要とし、人手を必要とした。そしてそこに追い打ちをかけるような連年の不作――結果、貴族たちは大量の紙幣を発行するという暴挙に出ることになり、それが急激なインフレを引き起こした。

 パンを一切れ買うために、紙袋いっぱいに詰め込まれた資金を必要とするという無茶苦茶な相場。その中でドイツに暮らす人々は、自身が手に持った金さえも信じられない毎日を送っていた。



「……母さんに、何か買っていかないと」


 しばらく呆然と立ち止まっていた少年は、ポツリとそんなことを呟いた。どの道、できることは多くない。家では病気の母が待っているのだ。母のために、何か食べる物を買って帰らなければならない。

 しかし、手に持っている紙切れでは何も買えはしない。どうしよう、どうすれば――そんな風に思い悩む少年の思考に、一つの答えが閃いた。


 ――盗めばいい。


 どうせ、買えないのだ。ならば、盗めばいい。盗んでしまえばいい。そうすれば――

 そう、思った時だった。



「――これを食え」



 目の前に、丸い大きなパンが差し出された。驚き、顔を上げる。そこにいたのは、空色の髪をポニーテールにした女性だ。その女性はこちらの頭を優しく撫でると、手に持っていたもう一つのパンも差し出してくる。


「少年、家族はいるか?」

「……母が、います。でも、病気で……」


 その女性が持つ独特の雰囲気に若干気圧されながらも、少年は頷いた。空色の髪を揺らしながら、そうか、と女性が頷く。


「何かあれば、これを持ってこの病院に行け。このご時世だ。万全な治療は難しいかもしれんが……それでも、何もしないよりもマシだろう」


 手渡されたのは、十字架だった。決して豪奢な造りをしているわけではない。しかし、その裏側に刻まれているのは、とある一族の紋章。

 ドイツにおいて名門と呼ばれる、シュトレン家の紋章だった。


「ご当主!」


 不意に、男の声が響き渡った。少年がそちらへ視線を向けると、一人の男がこちらへと歩いてくる姿が目に映る。銀髪で碧眼の軍人だ。その姿に、少年は見覚えがあったが……誰なのかは、思い出せなかった。


「この地域への配給は終了しました。次の場所へ急がれた方がよろしいかと」

「そう急かすなスヴェン」


 男の言葉に対し、女性は苦笑で応じる。そして彼女はまとめていた髪をほどくと、颯爽と立ち去って行った。

 ――その背中を、呆然と見送る。

 どうしようもない日々。自分のことだけで精一杯な者たちで溢れるこの国で。この街で。

 その背中はどうしようもなく――格好良かった。


 後に、少年は知る。その時、彼が目にした二人の名を。


 カルリーネ・シュトレン。

 スヴェン・ランペルージ。


 共に『救済党』なる組織を立ち上げ、国を救おうとした者たちであると――……



◇ ◇ ◇



 聖教イタリア宗主国。

 世界最大宗派である『聖教』、その総本山であるヴァチカン市国――対外的には一国家だが、実質的にはイタリアの一都市――を擁し、同時にその最高指導者である『教皇』を有する国である。

 その特殊な立ち位置故にEUにおいても強国の一つとして数えられる国だが、それはあくまで『聖教』の影響が大きいだけ。実を言うと、イタリア軍そのものは決して精強とは呼べないのが現状だ。

 イタリア最大戦力、《赤獅子》朱里・アスリエル――確かに、彼の者が有する戦闘力は圧倒的だ。《七神将》と同格とさえ謳われる彼の力は、他のEU諸国の奏者たちに比べても高いといえるだろう。

 だが――それだけなのだ。

 イタリア軍には、朱里・アスリエル以外に強力な奏者はおらず、〈ブラッディペイン〉以外に目ぼしい神将騎も存在していない。最弱の軍隊――陰で囁かれるそれは、ある意味で的を得ているのだ。

 故に、どうしてもイタリア軍は朱里……《赤獅子》に頼らざるを得なくなる。それは、演習であってもだ。


「俺の名はダリウス・マックス! 階級は大佐だ! 親しみを込めてダンと呼んでくれ!」

「……朱里・アスリエルだ。階級は大佐。よろしく頼む、マックス大佐」


 相手の気迫に若干押されながら、それでも表情は変えずに朱里は差し出された手を取った。相手――合衆国アメリカの軍人であるダンは、はははっ、と笑いを零す。


「あんたが《赤獅子》か! お目にかかれて光栄だ!」

「こちらこそ」

「はははっ! 社交辞令はいい! あんたと違って俺は無名だからな! 大戦の英雄と一緒に演習をやれるなんざ、ウチの連中も気合が入るってもんだ!」


 握手を交わす右手とは別、左手で朱里の肩をバシバシと叩きながら、ダンは楽しそうにそう言った。短く刈り揃えられた金髪と碧眼。筋肉質な身体。朱里も軍人だ。それ故に体は鍛えられているのだが……それを二回りほど上回る身体をしている。

 ダリウス・マックス。朱里はその名に聞き覚えがない。そもそも、朱里は自身があくまで一人の『兵士』であって『指揮官』ではないと認識している。一度戦場に出れば、結局最前線で敵を屠ることしかできないのだ。ならば、知る必要ない。


 ……指揮は全て、あの馬鹿に任せてきたからな……。


 数か月前、散っていった男のことを思い出す。ソラ・ヤナギ――ほとんど唯一、背中を預けるできた相手だった。

 本当に……馬鹿な男だ。

 最前線で戦う自分よりも先に、指揮官であるあの男が死んで……どうするというのだ?


 ――やめよう。


 シベリアにおける戦いから、すでに数か月の月日が経っている。そろそろ、割り切らなければ。


「……演習は明後日の予定だ。長旅でそちらの部下たちも疲れているだろう。宿舎へ案内する」

「おお、助かる! おい、クロフォード! ようやく揺れないベッドで寝られるぞ!」

「静かにしてください隊長。落ち着きのない」


 水を向けられ、ダンの副官である青年――クロフォード・メイソンが静かに応じた。今回、彼とダンは二個大隊を率いてイタリアへ軍事演習に来ている。建前的には両軍の協調のためだが、本音は別だ。

 ――ガリア連合。

 アフリカ大陸とも呼ばれ、前大戦ではシベリア以上に激しい戦場となった地域。様々な部族が存在するその地域に、不穏な空気が漂っているのだ。

 欧州は過去長きに亘って人道に反した奴隷政策を行ってきた。その被害を最も多く受けたのがガリア連合、ガリア大陸に住む者たちだ。また、合衆国アメリカもその建国の歴史上、奴隷問題に対しては無関係ではない。

 故に、イタリアというガリア連合と近い国で軍事演習を行うことで圧力をかけようとしているのだ。


 ……不穏な空気だな。


 ダンと他愛のない話をしながら、朱里は内心で呟く。合衆国アメリカの大統領は、二年前の大戦を『全ての戦争を終わらせるための戦争』と評した。しかし、シベリア戦役を含め、世界の各地で戦争は起こっている。


「…………」


 ふと、空を見上げた。

 雲一つない空。しかし、それはあまりにも眩しく。

 どうしようもなく――胸を締め付けられた。



◇ ◇ ◇



「ふう……随分と遅くなったな」


 深夜。日用品の入った袋を抱えながら、朱里はため息交じりに呟く。あの後、ダンたちとの打ち合わせを終え、朱里はその後も書類仕事に追われていた。シベリアより帰還して以来、朱里は以前と同じ教皇親衛隊に配属されたのだが、その総指揮に任命されたために多忙な日々を送っている。

 たまに休みがあっても、妹である咲夜の見舞いと日用品の買い出しで終わる日々。ソラが戦死し、リィラが立ち去った今のイタリア軍に、朱里が心から信頼できる相手は少ない。それ故に、彼の負担が増えているのだ。


「……咲夜の体調も、好調とは言い難い」


 入院生活を余儀なくされている、彼にとっては唯一にして最も大切な家族。彼女が自分のことを『兄』だと慕っていてくれる限り、彼は咲夜を兄として守り続けなければならない。

 それが、朱里・アスリエルの誓い。

 両親は、国に殺された。証拠はない。しかし、おそらく間違いはない。

 自分という〝奏者〟を軍に引き入れ、朔夜という人質を用意するために。その、ために。そんな、ことのために。

 両親は――殺された。


「…………」


 ふう、と息を吐く。本当に理不尽な世界だ。どうしようもないほどに。

 恨みさえ抱く国に、命懸けで仕えなければ――妹一人、家族の一人さえも守れないのだから。


 コツン。


 不意に、朱里は足を止めた。どうやら、思考の時間はここまでらしい。

 招かれざる客の、お目見えだ。


「――誰だ?」


 視線を前に向け、静かに問いかける。眼前にいる人物は薄汚いローブを羽織っていた。夜の闇の中、目を凝らさねば見失ってしまいそうな立ち姿をしている。


「……ふふっ、お兄さん。夜の一人歩きは危ないわよぉ?」


 聞こえてきた声は、意外なことに女性の声だった。朱里は、ふん、と鼻を鳴らす。


「心配してもらわずとも結構だ。これでも腕にはそれなりに自信がある」

「――《赤獅子》」


 うふふ、という笑い声と共に紡がれた自身の通り名に、朱里はピクリと眉を反応させた。相手は右手の人差し指を立てると、内緒話でもするかのように自身の顔の前へと持ってくる。


「イタリア最大戦力だもの。そりゃあ、自信もあるわよねぇ? 嗚呼……ゾクゾクしちゃう」

「貴様、何者だ?」


 問いかける。別に自分のことが知られているのは珍しいことではない。《赤獅子》という通り名そのものは広まっているものであるし、イタリアでは知らない者はいない。自慢ではないが、暗殺されそうになったことも一度や二度ではないのだ。

 しかし、《赤獅子》と知りつつ正面から殺しに来た者などいない。そもそも、暗殺者ならば問答無用に殺しに来るはずだろう。

 故の、問いかけ。対し、答えは――


「んふっ♪」


 一瞬だった。僅か一歩で距離を詰めてきた相手が、薙ぎ払うように右手を振るう。朱里は舌打ちを零し、後退。それと同時に持っていた紙袋を捨てると、腰から二丁の拳銃を抜いた。

 躊躇いはない。そのまま引き金を引く。

 銃声が響き渡る。世間一般の印象として〝奏者〟はただ神将騎に乗れること以外は特に秀でたところはないと思われているが、それは大きな間違いだ。どこの軍隊でも奏者という人的資源を失わないために彼らには厳しい訓練を課しているし、彼らはそれを乗り越えている。決して弱くはない。

 加えて、これはまだ確実といえることではないが……〝奏者〟は全体的に生まれついて身体能力が高いことがわかっている。それこそ、『天才』と呼ばれても不思議ではないくらいに。

 そして、ここにいるのは《赤獅子》だ。

 イタリア国民、三千万。その頂点に立つ武勇を誇る彼が、素の身体能力で他者に劣ることはまずあり得ない。


「――――!」


 撃つ、撃つ、撃つ。その全てが相手の死を狙うための一撃だ。しかし――


 ――当たらない!?


 正確には、狙い切れない。別に常識外の速さをしているわけではない。確かに速いが、熟練の奏者が操る神将騎同士の高速戦闘に比べれば生身な分、遥かに遅い。

 しかし――当てられない。

 左右へのフットワーク……いや、違う。ボクシングなどにみられるフットワークとは全然違う。アレは爪先で立ち、軽く上下にジャンプすることでできる筋肉の収縮を利用したものだ。それに対し、目の前の襲撃者はまるで地面を滑るように移動している。


「あはっ♪」


 零れるような笑い声と共に、下から掬い上げるような右脚の蹴りが放たれた。足運びと同時に放たれたそれは流麗で、相手が素人でないことを暗に示している。

 朱里は知らなかったが、それは古武術――それも東洋の武術において『運足(はこびあし)』と呼ばれる技法だ。フットワークとは違い、足運びと同時に攻撃を行えるという伝統の歩法。


「――――ッ」


 鈍い音が響く。まともに入った音だ。ミシリと、受け止めた左腕から骨の軋む音が響く。

 ――だが。


「――捉えたぞ」


 そう言葉を紡ぐと同時、朱里の全力の蹴りが放たれた。それは正確に襲撃者の腹部を打ち抜き、吹き飛ばす。感触でわかった。アバラの二、三本はイったはず。

 対し、襲撃者は左手で朱里が蹴り飛ばした腹部を押さえ、倒れることなく踏み止まった。同時、その顔を隠していたフードが取れる。


「あはぁ……♪ いいわぁ……容赦ない一撃、ゾクゾクしちゃう……!」


 現れたのは、恍惚とした表情を浮かべる女性。茶色の混じった短めの黒髪に、翡翠の色を宿した瞳。美人、と評するべき顔をしているのだろうが……朱里には、そんな評価を下せなかった。

 ――歪んでいる。

 朱里が蹴り飛ばした際に内臓をやったか、それとも口を切ったか。口元から鮮血を滴らせながら、しかし、その女性は笑っていた。


「……目的は何だ?」


 一瞬で両手に持った銃の弾倉を入れ替え、朱里は問いかける。女性は、あははっ、と愉快そうに笑った。


「アタシに目的なんてないわ。強いて言うなら、殺すために殺している……ってところかしらねぇ?」

「成程、問答は無駄のようだな」


 言い捨てる。そして。

 ――二人が、同時に地面を蹴った。

 襲撃者が蹴りを放つ。鋭い蹴り。あまりの鋭利さに、掠めた朱里の頬を浅く切り裂いた。

 しかし、致命には程遠い。朱里は大きく踏み込むと、その銃を襲撃者の額へと突きつけた。同時に襲撃者の胸倉を掴み上げ、逃げられないようにする。


「――チェックメイトだ」

「女の胸元に躊躇いなく手を伸ばすなんて……いいわぁ、あなた♪」


 銃口を突きつけられながらも、襲撃者は一切の怯えも見せずに笑って見せた。

 引き金に指をかける。瞬間。


「――――ッ!?」


 本能的な危険を感じ、朱里は背後へと飛んだ。同時、眼前ギリギリの場所を白刃が煌めく。

 二丁の銃が斬り飛ばされ、宙を舞う。襲撃者の手に握られていたのは、一振りの日本刀だった。


「……大日本帝国の者か」


 唸るように呟く。その言葉を聞き、あははっ、と襲撃者は笑った。


「ご名答♪ アタシの名は神道絶(しんどうぜつ)。《殺人鬼》、って呼んだ方が伝わるかしらねぇ?」

「《殺人鬼》……」


 その単語に、朱里は聞き覚えがある。まだ彼が統治軍にいた頃に行われた、EU首脳会議。そこに突如訪れた大日本帝国の大使、神道虎徹。あの男が口にしていたワードだ。

 ――それに、今、この襲撃者は何と名乗った?


「それに、神道だと?」

「あらぁ、知ってるの? いいわぁ、アナタ。興味が沸いちゃった♪」


 クスクスと、自身の血を舐め取りながら笑う絶。その笑みは、その名に相応しい禍々しさを孕んでいる。

 朱里は懐からナイフを取り出す。幸いというべきか、ここは人通りが少ない。殺し合うには絶好の場所だ。

 構えを取る朱里。しかし、そんな姿を見て絶は笑みを浮かべると、刀を鞘に納めた。そのまま、朱里の方へと手を差し出す。


「どう? アタシと手を組まない?」

「……何?」


 訝しげに眉をひそめる朱里。その朱里に、絶はクスクスと笑って言葉を紡いだ。


「大日本帝国の目的――知りたくないかしら?」



◇ ◇ ◇



 ガリア連合。

 かつては奴隷という屈辱的な扱いさえ受けていた者たちが、EUという強大な存在に抗うために手を組むことで生み出した連合だ。その力は小さくはなく、足並みが揃っていない部分を除けば確かな力を有していた。

 前大戦においてもEUの侵攻に抗い続け、大日本帝国という横槍があったとはいえ、EUの撃退に成功している。

 しかし、元々が多様な部族で構成される連合だ。その維持は難しく、大戦が終結を見せてからは連合も事実上の解散をし、以後、大きな動きを見せることはなかった。

 そう――この時までは。


「さて、それではお主の甘言に乗るとしようかの」


 ガリア連合中心部。世界最大の砂漠地域、『サハラ砂漠』に残る遺跡の一つ――古城とでもいうべきその場所の最奥に、そんな声が響き渡った。そこに座すのは、一人の女性だ。


「ようやく、各部族の馬鹿共――長共も重い腰を上げた。それもこれも、全てお主のもたらした二機の神将騎のおかげじゃ。感謝しておるぞ」

「ふふっ、兵器などというのは戦場で人を殺してこそ価値がある。私に礼を言うのは少々筋違いというものだよ」


 女性のそんな言葉に応じたのは、白衣を着た男だった。その顔には仮面が着けられており、表情は窺えない。ただ、笑っているのだということがわかるぐらいだ。

 女性はそんな男――ドクター・マッドの言葉を受け取り、ふむ、と頷いた。


「とはいえ、お主が再生させたあの二機がなければガリア連合は自然瓦解し、こうして先祖のための戦いを行うことさえできなかったであろう。感謝しておる」

「ふふっ、私にも私の目的がある。ギブ・アンド・テイクだよ」

「ふむ。それも道理じゃ」


 今、この部屋には二人しかいない。故に、二人は何の遠慮もなく言葉を交わし合っている。


「さて、それではドクター。そろそろ宣戦布告といこうと思うのじゃが……異論はあるかの?」

「ないよ。ありはしない。存分にやってくれたまえ」


 くっく、とドクターが笑みを零し。

 女性――ガリア連合総長、ダウゥ・アル・カマルも笑みを浮かべた。


「我らが俯き、奴隷と呼ばれる時代は終わりじゃ。――ガリア連合は、EUへと宣戦布告を行う」



 かつて、『全ての戦争を折らわせるための戦争』とされた大戦より二年。

 再び、世界を巻き込まんとする戦争が――起ころうとしていた。

というわけで、ようやく第二部突入です。

今回登場しましたダリウス・マックスとクロフォード・メイソンの二人は、アシェーリト先生に考えて頂きました。ありがとうございます。


というわけで、第二部は当初はEU、それも朱里・アスリエルを主軸に進んでいきます。

楽しんで頂けると幸いです。


感想、ご意見お待ちしております。

ありがとうございました!!

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