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英雄譚―名も亡き墓標―  作者: アマネ・リィラ
シベリア動乱編―約束―
44/85

Epilogue―True End―


「第16代シベリア連邦国王、ソフィア・レゥ・シュバルツハーケンだ」


 玉座の間。無意味な程に広々としたその場所に、一人の女性――否、王の言葉が響き渡った。その場に集った全員が、恭しく頭を垂れる。

 シベリア連邦。かつての大戦で敗戦し、EUより派遣された統治軍から実質的に占領に近い扱いを受けていたその国は、二年と半年という永き苦難の時を越え、再び国としての形を取り戻した。

 無論、永き苦難の日々や、半年の間に繰り広げられた統治軍と解放軍による傷痕は深く、簡単に復興することはできない。

 ――しかし、この国の人々は、空を見上げることを思い出した。

 灰色の空。蒼さを認めることなど本当に稀なこの国で。

 それでも、絶望に顔を俯け、理不尽に涙を流すことはしなくなった。


「私がここに座し、こうして王を名乗れているのは全て貴公たちの誉れ。そして私に祖国の解放という夢を預け、散っていった者たちのあまりにも尊い犠牲によるものだ。感謝している」


 立ち上がり、ソフィアは言った。彼女を戴く者たちが、一斉にソフィアを見る。

 俯くことの愚かさを、この国は一人の青年から教わった。

 救国の――英雄に。


「この首都を奪還する時、私は貴公たちにこう告げた。――〝よき世を創るのだ〟と」


 あの日。

 最後の戦いに挑む直前に行われたソフィアによる演説。その時、確かに彼女はそう言った。

 よき世を。

 誰もが笑って暮らせる世界をと。

 これは、その第一歩。

 小さくとも、未来を目指すための――尊い一歩だ。


「我らが王国のために。これより、任命式に入る」


 言葉と共に、三人の男が歩み出た。その三人は、すぐさまソフィアの前で跪く。


「アーガイツ・ランドール。貴公は解放軍の副将として、シベリアを取り戻す上で多大な貢献をした。その功績を評価し、名誉侯爵の地位を与え、同時に親衛隊隊長に任命する」

「ありがとうございます」


 今のシベリアにおいて、貴族というものはあまり大きな意味を持たない。かつていた領主たちはそのほとんどが死去、あるいは大戦時に裏切った罰を受けて地位を剥奪されている。

 そのような経緯から、貴族の称号は名誉としての意味が大きい。それ故に、アランにとって意味があるのはもう一つの肩書きだ。

 親衛隊隊長。それは即ち、誰よりも傍でソフィアを守る者の名だ。


「頼りにしているぞ、アラン」

「はい」


 応じるアラン。ソフィアは頷くと、アランの隣に跪く人物へと視線を移した。


「セクター・ファウスト。貴公は解放軍の参謀管として、多大な貢献をした。その功績を評価し、名誉侯爵の地位を与え、同時に技術開発部の局長に任命する」

「――ありがとうございます」


 セクター・ファウスト。

 ソフィアにとっては幼少より自身を見守り、支えてくれた人物だ。元々は研究畑の人間である彼を、ソフィアは再びそちらへ戻した。それこそが、セクターに対するソフィアなりの恩返しである。


「今後の発展は貴公の双肩にかかっている。心得よ」

「はい」


 セクターが応じ、それを受けてからソフィアは頷く。

 そして、最後の一人へと視線を向けた。


「レオン・ファン。貴公は解放軍の参謀管として我が軍に大きく貢献した。その功績を評価し、名誉侯爵の地位を与え、同時にシベリア軍参謀長管に任命する」

「ありがとうございます」


 レオン・ファン。

 二年もの間、あの義賊集団《氷狼》の一員として戦い、解放軍に組み込まれてからは参謀として活躍した青年だ。同時に彼はかの救国の英雄、《氷狼》護・アストラーデと肩を並べる人物としても名高い。


「貴公にはいずれ、宰相としての活躍を期待している。貴公はまだ若い。世界を知り、己を知り、多くを得た後、この国に尽くしてくれるとありがたい」

「はい。勿体無いお言葉を、ありがとうございます」


 レオンが応じる。ソフィアは頷くと、三人へ立ち上がるように言った。三人は立ち上がり、一度ソフィアに頭を下げ、それぞれの立ち位置へと戻る。ただ、アランだけは先程までとは違い、ソフィアの右斜め後ろへと移動したが。

 ソフィアはそれを見届けると、再び玉座へと座り直した。

 ――そして。

 今回ここで行われた、ソフィア・レゥ・シュバルツハーケンの戴冠式。アラン、セクター、レオンの任命式。それらを終えた今、残す儀式は一つだけ。


「護・アストラーデ!! 前へ!!」


 鐘の音が響き渡り、同時にそんな声が響き渡った。言ったのは、ソフィアの傍に控えるアランだ。護に対し、その立場で対等な口を利けるのはソフィア、アラン、セクター、レオンのみ。

 全員の視線が、開け放たれた玉座の間へと通じる扉に向く。

 しかし。

 待てども待てども――誰も、現れない。


「どうしたんだ……?」

「アストラーデ将軍……?」

「《氷狼》様は……?」


 ざわざわと、その場に集った者たちが困惑した表情で騒ぎ始める。

 救国の英雄、《氷狼》護・アストラーデ。

 これまでの戦いにおいて誰よりも前に立ち、圧倒的な戦果を残したシベリア最強の英雄。

 その男が――現れない。


「……思った通りだな、アラン」

「はい。思った通りです」


 ざわめきを尻目にくっく、と笑みを零しながら呟いた言葉に、アランは苦笑しながら頷いた。

 護・アストラーデ。あの男には、ここで何が行われるかは話してある。しかし、その時から思っていたのだ。


 ――やはり、来なかったか。


 名誉のためでも、自己満足のためでもなく。

 ただ、ただ無我夢中で前を向いていた男。

 どうしようもない矛盾を孕み、実現などできるはずがない理想を抱き。

 その果てに――勝利を掴んだ男。

 彼は彼の理想、歪みきったが故にねじ曲がったそれのために戦ってきたのだ。今更、名誉になど興味がないのだろう。


「……どうやら、他の者たちも理解していたようだな」


 視線を巡らせる。セクターは憎々しげな表情をしているが、まあ置いておいても問題ないだろう。その見解の相違からよく衝突した二人だ。仲良くしろというのが無理な話である。

 レオンや、レベッカ・アーノルド……護を以前から知る二人は、片やため息。片や苦笑を漏らすだけ。

 ざわめきが止まない玉座の間。それを眺め、ソフィアは笑みを零しながら言葉を紡いだ。


「考えなしの行動がたまたま上手く進んでいるのか。それとも、考えた上でやっているのか」

「おそらく、考えてはいないかと」

「だろうな。しかし……くっく、実に愉快だ。普通なら王命に逆らったのだから叛逆罪とするところなのだがな。あの小僧を失うのはシベリアにとって大損失だ」


 楽しい。本当に心からそう思う。

 王命に逆らう。何の考えもなく。そんな無謀な男が、いや――そんな無謀な男だからこそ、自分は言ったのだったか。

 ――対等だ、と。


「王としては、奴を咎めねばならぬが……残念ながら、奴は王としての私とは対等だ。アラン、どうすべきだ?」

「とりあえず、全く残念に思っていなさそうな点はおいておいて……そうですね、『友』として咎めればよろしいかと」

「ほう。どのように咎めれば良いのだ?」

「簡単ですよ。『お前が来ないと皆が迷惑するぞ』とでも言えば良いのです」

「ははっ、成程。友とはそんなことを言うのか」

「はい。むしろ、友とはそういうものです」


 アランが微笑む。ソフィアは、はははっ、と笑いを零した。


「友などというものを持つのは初めてだからな。……わからぬことが多い」

「それはいつの時代も変わりませんよ」


 アランは、微苦笑を浮かべてそう言った。


「隣人も考えていることがわからない。わからないから、怖い。怖いから殺す……戦争の起源は、いつだって相手に対する無理解が理由ですよ」

「道理だな。貴様の故郷もまた、そうであったのか?」

「……悠久のように永き時の間、一度も理解を示そうとしなかったからこそ……今もなお、不仲なのです」

「そうか。……やはり、人とは斯くも難しい」


 ソフィアは呟く。アランの言葉は、常世の真理だ。

『あなたとわたしは違う』――言葉にすればそれだけで、そしてだからこそ否定できない真理。

 違うから、理解できない。

 理解できないから、怖い。

 怖いから、殺そうとする。

 消そうと……思う。


「だが、まあ……その問答はまたの機会としよう。今はとりあえず、この場をどうにかせねばな」

「ええ。確かに」


 未だにざわめいている玉座の間。それを見渡し、ソフィアは声を張り上げた。


「聞け!! 我が臣民たちよ!!」


 ざわめきが、ピタリと止む。ソフィアは声量を落とすと、一つの頷きと共に言葉を紡いだ。


「我が友はこの場におらぬようだが、しかし、だからといってその功績が霞むことはない。

 ――護・アストラーデ。その武勇なくして我らの勝利は有り得なかった。その功績を称え、また、我が国の民を守るために。――彼の者を我らがシベリア軍総大将に任命する!!」


 おおっ、と広間が沸いた。

 唯一にして、無二の英雄。

 ――《氷狼》護・アストラーデ。

 彼の者がいる限り、シベリアに敗北はない。そう信じさせるだけの武勇を、彼は遺してきたのだ。


「今日は宴だ! 復興も簡単にはいかぬだろう! 傷が癒えるにも時がかかるだろう! だが、私は信じる! 我らならば! 諸君らと共にならば! この国を世界中が羨むような良き国にできると!」


 再び、歓声が上がる。


「ソフィア様!!」

「我らが王の栄光に!!」

「将軍閣下の武勇に!!」

「我らがシベリアに幸いを!!」


 口々の唱和。それを受けながら、ソフィアは凜とした表情で頷いた。


「――さあ、宴だ!!」


 黄昏の日々を越え。

 遂に、永久凍土の大地に光が灯った。



◇ ◇ ◇



 宮殿で華々しい戴冠式や任命式が行われている、その同時刻。

 首都モスクワの片隅に、その人影はあった。


「…………」


 目を閉じ、祈るようにして佇むのは――護・アストラーデ。シベリア解放における英雄だ。

 その彼の前にあるのは、一つの石碑。名も刻まれぬそれは、この地で散っていった者たちの墓標だ。

 あの日。ここ首都で行われた統治軍との攻防戦。そこで、多くの命が散っていった。


「……ようやく、戻ってこれた」


 小さな、本当に小さな声で呟く。

 あの日、誓いを立て。

 ずっと、ずっと駆け抜けてきた。

 命を懸け。

 多くを犠牲に――置き去りにして。

 ようやく、ここまで。


「……俺は」


 紡ごうとした言葉は、音にはならず宙に溶ける。

 どんな言葉を紡ぐべきなのだろうか。

 どんな言葉を紡いだらいいのだろうか。

 わからない。わからないことだらけだ。

 ――英雄。

 そう呼ばれ、称賛されても……自分の中では何も変わってはいない。


 ただ駆け抜けてきた。

 ただ走り続けてきた。


 その果てが、『ここ』だというだけで――……


「……護さん」


 不意に名を呼ばれ、振り返る。そこにいたのは、一人の少女。

 ――アリス・クラフトマン。

 その手を掴むために、ずっと手を伸ばし続け――ようやく、届いた相手。


 ――あの日から、ずっと前を向いてきた。


 走って、走って、走って……ただただ、愚直に進んできた。

 それが過ちとは思わない。そうしなければ、何もかもが終わっていただろうから。

 ただ、それでも失ったものは多く。

 戦いが終わった今だからこそ、余計にそんなことを思ってしまうのだろう。

 たった一つの冴えたやり方。全てを救う手段は、本当になかったのかと――……


〝お前の言う『全てを救う』は、敵は含まれていないのか?〟


 不意に、その言葉を思い出した。

 大日本帝国《七神将》第一位、《武神》藤堂暁。

 決着の後に、何の前触れもなく現れ――圧倒的な結果だけを残していった怪物。

 その言葉の意味と、この胸に宿る違和感は。

 きっと……無関係ではない。


「大丈夫ですか?」


 ずっと黙り込んでいたために不審に思ったのだろう。アリスがどこか心配そうに問いかけてくる。護は、ゆっくりと首を左右に振った。


「何でもない。ちょっと……思い出してただけだよ」


 浮かんだ多くの疑問を振り払うように、そう告げる。そうだ。今考えても仕方がない。


 ――興味があるなら来い、か……。ありえねぇ話だ。


 興味などない。自分が手にしようと思ったもの、手にしたものは、全てここにあるのだから。


「なぁ、アリス」

「はい。何でしょうか、護さん」


 一歩、アリスに近付く。手を伸ばせば触れることのできる距離。そんな、距離で。

 敵同士だった時は、触れ合えても、言葉を交わせても。

 ただただ、無念なだけだったのに――


「俺は――……ぶッ?」


 言おうとした言葉は、突然顔面に直撃した冷たい塊に遮られた。

 ぼとりと、雪の塊が地面に落ちる。それによって開けた視界には、驚いて視線をあちこちへ向けるアリスと――もう一人。


「…………」


 雪玉を抱え、こちらを見ている一人の少年――ヒスイがいた。


「……どういうつもりだテメェ?」

「……アリスに、悪いことしようとした」


 問いかけに、ヒスイが平然と答える。相変わらずの無表情だが――ここ数日、アリスに説明されて行動を共にしていたので理解した――目と雰囲気でわかる。……これは、本気だ。


「よし上等だ。雪合戦だな。……手加減しねぇから覚悟しろコラ」

「……負けない」

「ちょっ、ちょっと二人共!?」


 ヒスイが頷き、護が準備を始める。アリスが止めようと慌てているが、二人とも無視。

 だが――


「ちょっ、待てオイ! 俺まだ雪玉作ってねぇ――ぶっ!?」

「……先手必勝」


 雪玉を作ろうとする護に、ヒスイが予め用意していた雪玉を全力で投げつける。肉体年齢的には十歳ほどだが、ヒスイとて神将騎を操る〝奏者〟である。その身体能力は低くない。


「待てテメェ!」

「……やだ。先生に言われた。『気を付けないと、護はアリスに手を出す』って」

「はぁ!? ちょっ、色々待て!」


 雪玉を投げつくしたヒスイを、護は全力で追いかける。元々、護はスラムの子供たちの相手をしたりと面倒見は良い。戦いの中では余裕もなく、そんな姿を見せることはなかったが……これもまた、彼の姿だ。


「……ふふっ」


 そんな二人の様子を見て、アリスが微笑みを零す。ヒスイを捕まえた護は、そんなアリスを見、首を傾げた。……ちなみにその手はギリギリとヒスイを押さえつけている状態である。


「どうしたんだ、アリス?」

「いえ、その……兄弟みたいだなぁ、って思って……」

「……兄弟?」


 護の手に全力で抗いながら、ヒスイも首を傾げる。その様子を見て、くっ、と護も小さく笑みを零した。


「成程、兄弟か。……だったら、ヒスイ。お前も一緒に来るか?」

「……一緒?」

「ああ。――世界を、見て回るんだ」


 子供のような無邪気な笑顔で。

 護は、楽しそうに口にした。


「まあ、まだ色々とやらなきゃなんねぇことが多いから……すぐに、ってわけにはいかねぇけど。俺とアリスでな、一緒に世界を見ようってさ。お前も、来るか?」

「……いいの?」


 ヒスイが問いかけてくる。それに対する答えは、アリスからだった。


「うん。――一緒に行こう? ヒスイ」


 アリスが手を伸ばし、護はヒスイから手を放す。ヒスイは迷ったように護の方を見、しかし、護が頷いたのを確認すると――


「うんっ」


 アリスの、手を取った。

 その光景を見て、全く、と護は微笑する。


「二年前は、想像もしてなかった」


 こんな結末など。

 こんな光景など。

 夢にさえ、見ていなかった。


「けど、そうだな――なぁ、アリス」


 ――ああ、そうか。そういうことか。

 夢にさえ見なかったことが現実になる、この世界。だからこそ。

 世界はきっと――優しいのだろう。


「おかえり」


 その言葉に、返事は一つ。


「はい。――ただいま」


 ようやく。本当に、ようやく。

 手を取り合える――場所まで来た。








◇ ◇ ◇



 シベリアと中華帝国の国境付近。首都で華々しい式典が行われている時間、そのようなものとは無縁の取引が行われていた。


「……では、これが交換条件の品物です」


 言葉と共に、白衣を着た女性――出木天音は、一つの小さな鞄を放り投げた。それを受け取った相手――神道木枯は、それを片手で受け取ると、その鋭い隻眼の瞳を天音に向ける。 


「確かに受け取った。これは陛下と大将に渡しておく。……お前の要求していた物だが、本当にこれで良かったのか?」

「ええ。十分です」


 天音は頷くと、木枯の背後へと視線を向けた。そこにいるのは、一機の神将騎。

 迷彩用の布を纏うその機体の名は――〈月詠〉。


「この神将騎は確かに、貴様が反乱を起こした際には相当な武勇を残した。しかし、この神将騎を操れた者は大日本帝国の歴史においても僅か一人……あの大将さえも認めなかった機体だぞ? 扱える〝奏者〟がいるというのか?」

「さて、どうでしょうか。確かに、『あの子』があなた達に殺されてから心を開くことはなくなったようですが……」

「…………」


 その言葉に、木枯が押し黙る。


「ああ、別に責めているわけではありませんよ? あの時の判断はあなたたちにしてみれば当然でしたし、その右目を頂いた際にその他一切を手打ちにしたのですから」


 ふふっ、という笑みを零しながら天音は言う。その天音に、木枯は自身が手に持った鞄に一度目を落とし、それから問いかけた。


「……こちらから持ち掛けた取引とはいえ、本当に良かったのか?」

「何がですか?」


 変わらず微笑を浮かべながら、天音が小首を傾げる。木枯は、小さく吐息を零した。


「《氷狼》護・アストラーデと、それに匹敵……あるいは凌駕するという〝奏者〟、アリス・クラフトマン。そして、あのドクター・マクスウェルが創り出した人形の血液。DNAデータ。後者の二人はともかく、《氷狼》は貴様の後継者ではないのか?」

「――後継者? これはまた、異な事を言いますねぇ」


 全てを嘲笑うような微笑を零し。

 出木天音は、木枯の言葉を否定した。


「木枯。ならば逆に問いますが……一体、私の何を継ぐというのです? こんなものは一人でいい。こんな怪物は、独りきりでいいのですよ。大切な存在を切り捨てて、それでも笑っているような。笑っていられるような存在は」

「天音。お前は。お前はまだ、あの日のことを――」

「――あなた達に背負わせてしまったことは、私の業。私が負うべき咎。本当に感謝しています。……けれど」


 木枯に背を向け、天音は空を見上げる。


「今更なんですよ。全てが、どうしようもないほどに今更で。……私はね、木枯。後悔など山ほどしてきましたし、涙も数えきれないほどに流しています。しかし、それでも歩いてきた。歩いて、きてしまった。もう後戻りはできません」

「その先にあるのは、滅びだ。友であるからこそ、私はお前を斬ることになる」

「あなたに斬られるなら、それも悪くはない」


 そう、微笑を零し。

 出木天音は、〈月詠〉をここまで運んできた車へと乗り込んだ。そして、去り際に一言、小さく呟く。


「……ありがとう、姉さん」


 車が走り去って行く。木枯は、その姿が見えなくなるまでそれを見送り。

 そして、腰の刀を握り締め、小さく呟いた。


「……馬鹿者が。今更、姉などと……」


 酷く、震える声で――……





 世界は、廻っていく。巡っていく。

 一つの戦いが終わっても、それはまだ終焉ではないのだから。

 世界はまだ、終わらない――……

とりあえず、一つ目のエピローグです。勝者の側から見た結末というところでしょうか。

この後にもう一つ、今度は敗者の側から見た結末を用意しています。その後に何本かの短編を挟み、第二部に入って行こうと思います。


護やアリス、ヒスイにソフィア、レオン……シベリアの未来に何が待っているのか、楽しみにして頂けると幸いです。


それでは、感想、ご意見などお待ちしております。

ありがとうございました!!

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