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英雄譚―名も亡き墓標―  作者: アマネ・リィラ
シベリア動乱編―約束―
32/85

間章 永久凍土へ


 中華帝国北部。シベリア連邦との国境を形成する山々を窺える場所に、巨大な戦艦とでも呼べるものがあった。

 大日本帝国製水陸両用強襲艦――〝風林火山〟。

 大戦時には当時の《七神将》第一位、《剣聖》藤堂玄十郎の旗艦として戦場を駆けた戦艦だ。内蔵された巨大なキャタピラによって、海上だけでなく陸上でも行動を可能とする。

 無数の砲門と、神将騎と戦車を三桁を超える数で収容できる〈風林火山〉は、大戦時に大日本帝国の要として活躍した。その〈風林火山〉は現在、大日本帝国の旗と共に、白根葵の紋が刻まれた旗を掲げている。

 白根葵――花言葉は、『優美』。

 大日本帝国が誇る、戦国時代より続く武の御三家が筆頭、『藤堂家』の家紋だ。

 その〈風林火山〉は現在、出陣の準備に追われていた。シベリア連邦で発見が報告された、大日本帝国の梟雄こと《女帝》、出木天音。その者を見極めるための出陣が、迫っているのだ。

 今回出陣しているのは、現在五人で構成される《七神将》のうちの四人と、大日本帝国の象徴であり絶対的な王である帝。彼らに付き従う千人の武士は、《七神将》第一位、《武神》藤堂暁が選抜した精鋭たちだ。

 その彼らは現在、物資の搬入を急いでいる。陣頭指揮を執るのは暁と、その傍で楽しそうに笑っている帝だ。他の《七神将》では、第四位、水尭彼恋などが《七神将》という身でありながら一兵卒たちと共に動き回っているわけだが――


「見ろ正好! このくびれがたまらねぇだろう!?」

「いや、個人的はこの尻のラインがなんとも……」


〈風林火山〉の艦橋で、二人の馬鹿は手伝うこともなく写真を見ながら全力で議論をしていた。

 大日本帝国警邏部隊『真選組』局長、神道虎徹。

 大日本帝国《七神将》第五位、本郷正好。

 立場は違うが、二人は子供の頃からの良き先輩と後輩だ。……悪友という意味でだが。

 周囲は慌ただしく動き回っているというのに、この二人は手伝う素振りさえ見せない。手伝う意味がないということでもあるのだが、それにしてもこれはどうかと思う。

 ――虎徹がEUに訪れた際に手に入れてきたエロ写真の鑑定は。


「はぁ……オメェは駄目だなぁ、正好」

「何がッスか?」

「このくびれと太もものバランスが何とも言えねぇってのに」

「俺、尻派なんで」

「馬鹿野郎! 男なら黙って太ももだろうが!」

「アンタさっきくびれっつってたよな!?」


 成人した大人二人が――片方に至っては十歳の娘がいる――戦艦の艦橋でエロ写真を広げて胡坐をかいている姿は、正直滑稽を通り越して呆れさえ感じさせる。

 しかし、当の本人たちはそんなことを欠片も気にしておらず、周囲もいつものことなので気にしていない。

 そんな中、かーっ、と虎徹が紫煙を吐き出しながら大げさに肩を竦めた。


「そんなんだから彼女ができねぇんだよ、オメェは」

「今関係ないッスよねそれ?」

「まあ、こんなん読んでる時点で知れてるがな」

「あん?」


 懐から何やら一冊の本を取り出す虎徹。正好は眉をひそめ、次いで――目を見開いた。

 それは――正好が未読のうちに失くしたと思っていた、一冊の本だった。


「テメェそれ!」

「しっかし、何だこのなよなよした話は? 男と女がくだらねぇことでネチネチとしてよぉ……。くっつくんならくっつけっての。告白すんのに一巻丸々使ってんじゃねぇ」

「うわこいつ人の家から勝手に本パクッといてこの言い草有り得ねぇ……!」

「詩音も言ってたぞ? 『この本、何が面白いんですかお父様?』って。……アイツが批判する本って、相当レアだと思うんだが」

「うっせぇ返せよ馬鹿!」

「別にいらねぇよ」

「投げんな――――ッ!」


 かなりの勢いで投げられた本を、正好が全力でダイビングキャッチする。その動きに、周囲から僅かに称賛の声が漏れた。正好として《七神将》の一角。その実力は虎徹に劣るものではない。

 だが虎徹は正好のそんな動きを見てもただつまらなさそうに、ふーん、と呟くだけだ。


「ちったぁマシになったか、正好?」

「お陰様でな……!」

「睨むなよ。とにかく、俺はやっぱりこの姉ちゃんが一番だと思うんだが――」

「おいコラ。結局写真に戻んのかよ」

「いいじゃねぇか。俺の部下はどうも堅物が多くてなぁ、こういう会話はあまりできねぇんだよ」


 言いつつ、床に並べられたエロ写真に視線を向ける虎徹。これで子持ち、しかも妻帯者だというのだから泣けてくる。


「…………こういう会話、とは?」


 そんな虎徹の背後から、不意に声が聞こえてきた。正好はその声の主を見つけ、げっ、と身を竦ませる。しかし、その人物に背を向けている虎徹は気付かない。


「そりゃオメェ、男同士の…………って……………………木枯?」


 振り返った虎徹が、固まった。加えていた煙草が落ち、その手に当たるが……虎徹は気付いていない。

 虎徹と正好を見下ろしているのは、二人がよく知る人物だった。

《七神将》第二位、《剣聖》神道木枯。

 右目に刀の鍔をあしらった眼帯を着けた黒髪ポニーテールのその女性が、その左目で二人を――というより、虎徹を見下ろしている。

 神道木枯。この女性についての武勇は、それこそ挙げ始めればキリがない。一番有名なのは、彼女の親友である出木天音とまだ敵同士であった頃、共に彼女の屋敷で夜を過ごした際、無数の刺客に襲われた事件だろう。

 名刀や宝剣の収集家――実際はそうではないのだが、周囲からはそう思われている――木枯は、その刺客たちを迎え撃つために無数の名刀、宝剣を床へと突き刺し、その刃の全てが折れるまで戦い抜き、天音と共に百を超えたであろう刺客を撃退した。右目を失ったのはその時で、それ以来、《抜刀将軍》と呼ばれるようになる。

 他にも、《剣聖》の襲名の際に開かれた御前試合で十人を相手に無傷で立ち回ったりと、《女帝》が謀略の人であるとすれば、彼女は文字通りの武人――それも、無双の武人としてのイメージが強い。

 そんな彼女が虎徹を夫として受け入れ、詩音という子を成したことは大日本帝国に衝撃を与えたが、そうであっても彼女の武勇に翳りは生まれない。


「…………」


 何が起こるのか、誰もが動きを止めて推移を見守っていた。正好は視線を逸らし、虎徹は慌てた様子でしかし、言葉を紡げずにいる。

 そんな状態が数秒、流れた時。


「…………ッ」


 ポロッ、と。

 木枯の左目から、一筋の涙が零れ落ちた。


「――――!?」


 その場の全員――正好以外。虎徹はヤバッ、と呟きを漏らした――が驚愕で目を見開いた。大日本帝国、そこに生きる侍にとっては最高の名である《剣聖》を襲名し、更には《抜刀将軍》とも呼ばれ、他国から恐れられる女傑が、あろうことか涙したのだから。

 そしてその木枯は溢れ出す涙を拭いながら、そ、そうか、と震える声で言葉を紡ぐ。


「そ、そうだな……わ、私っ、私なんかよりも……こ、虎徹さんには、似合う、女がいる……。わ、わかっている。わかっているんだ。わ、私はっ……右目が、こんな、で……、家事も、できない、し……」

「いやあの、木枯……?」

「す、すまない、迷惑を……駄目だ、嫌わないで、くれ……、私は、容姿も良くないし、可愛げも、ない……」


 木枯は十人に問えば十人が『美人』と答える容姿をしており、鍛え上げられた肉体はスタイルも良いのだが……この状況では、そんなことを言い出せない。

 そして、いよいよ木枯に限界が訪れる。


「で、でもっ、……わ、私はっ……、――――――――ッ!!」

「おい! 待て木枯!!」


 顔を覆って走り出す木枯。虎徹は慌ててそれを追おうと立ち上がるが、焦ったせいで足を滑らせ、思い切り顔面から床にこけてしまう。


「ぶっ!?」

「ダセェ……」


 いつもなら即座に蹴り飛ばすような正好の言葉だが、今の虎徹に応じる余裕はない。後で死なす、と心に決めて、虎徹は木枯を追いかけようと走り出した。

 ――しかし。

 やはり物事は、そう上手くは回らない。


「アキちゃん」

「了解」


 声が聞こえた瞬間、虎徹は足払いを喰らって宙を舞った。そのまま浮いた体の襟元を掴まれ、背負い投げの要領で床へと叩き付けられる。


「ぐえっ!?」

「今、木枯が泣きながら走り去って行きましたが……原因はあなたですね、トラちゃん?」

「本当に、成長しない人だ……」


 現れたのは、大日本帝国の帝と、《七神将》第一位、《武神》藤堂暁だった。ちなみに状況としてはうつ伏せにされて暁に両腕の関節を極められ、拘束されている虎徹と、その眼前にしゃがみ込んでこちらを見下ろしている帝という状況だ。

 虎徹は視線で暁に関節を極められていることを確認すると、帝に向かって言葉を紡ぐ。


「わかってんならどけって! あのままだと飛び降りかねねぇぞ!?」

「木枯なら建物の五階から飛び降りても無事だと思いますけど……」

「それには頷くが帝! そういう話じゃねぇんだよ!」


 虎徹はもがくが、がっちり極められているために動けずにいる。というより、《武神》相手に格闘戦で立ち向かえる者などほとんどいないのだ。

 帝は、ふう、とため息を零し、呆れた口調で言葉を紡いだ。


「木枯はトラちゃんにベタ惚れですからねー」

「やっぱりそうなんですか、帝?」

「昔からよく相談を受けていましたから。あの木枯が、『その、今日も虎徹さんと上手く話せなかったのですが……どうすれば良いのでしょう……?』とか涙目で聞いてくるんですよ? もう可愛くって!」

「前から思ってたけど、帝も大概ッスよねぇ……」

「それは今更だ」

「おいコラ! 人の上で喋ってんじゃねぇぞガキ共!!」


 正好と暁の台詞に対して虎徹が吠えるが、二人共気にした様子はない。帝が、大体、と指を立てて虎徹へ言葉を紡いだ。


「しーちゃんがいるというのに、こんなものを持ち歩いていたんですかあなたは?」

「男のロマンだからな! そうだろ小僧共!?」

「そんなロマンは追いたくない」

「あんたのはただの欲望だよ」

「かーっ! 頼りがいのない後輩たちだなオイ!」


 暁と正好に一撃で否定され、虎徹が吠える。そんなやり取りを見守っている部下に気付き、暁がああ、と声を上げた。


「こっちのことは気にしないで作業を続けてくれ」

「は、はい。了解しました」

「頼む。終わったら中華帝国の満漢全席に、お前たちも参加してもらうつもりだ。その席では存分に羽を伸ばしてくれたらいい」

「はい!」


 暁の部下たちが再び職務へと戻っていく。それを見送ってから、大体、と暁は言葉を紡いだ。


「あなたには任務があったはずだ。その報告も貰っていないんだが?」

「あん? 書簡を送っただろうが」

「しーちゃんの写真ばっかり入ってた奴ですね。そういえば、しーちゃんは?」

「詩音なら部下たちに日本へ送らせた。こっちは戦場だしな。まあ、何かあったら首撥ねるって言ってあるから大丈夫だろ、多分」

「それはそれは」

「話を戻すぞ。……EUの件は報告で聞いている。我々の参戦については、話を通して頂けたようだ」

「邪魔すんなよ、って釘刺しただけだけどな」

「十分だ。邪魔をするようなら潰せばいい。無用な戦闘を避けたかっただけの処置でもある」


 暁が頷く。虎徹の任務の中においてEUへの言伝はついでの仕事だったのだが、それを虎徹は果たしていた。まあ、彼にしてみれば面白い人物に出会えたので、特に問題もなかったのだが。

 その言葉を聞き、帝が頷く。


「うんうん。――では、木枯の件です」

「だからオメェがどけば解決するんだよ暁!」

「とのことですが、帝」

「仕方ありませんねー……。二時間差し上げます。木枯を泣き止ませた上で、ここに戻って来てください。彼恋を呼び、あなたの報告を伺います」

「……わかったよ」


 暁に手を放され、虎徹は立ち上がる。……正直、こっちも木枯と会うのは久々なのだ。


 ……まずは土下座だなぁ……。


 そんなことを思いながら、虎徹は走り出した。

 その背中を見送った後、暁は帝へと問いかける。


「何度見ても、あの二人の関係がよくわからないんですが……」

「んー、まあ……そうですねー……。一言で表現するなら、『近所の優しいお兄さんと、人が苦手な堅物少女』でしょうか?」

「あー、それでわかる俺、多分もう駄目ッスわ……」

「俺はよくわからないんですが」

「色々あったんですよ、アキちゃん。……天音もしーちゃんも、木枯やトラちゃん、彼恋も正好も、千利も……、本当に、色々と」

「成程」


 応じただけで、それ以上を暁は追及しなかった。彼がまだ子供で、何一つ知らなかった頃にあった多くのこと。それが、今日の大日本帝国を支えている。

 彼の役目は、そんな大日本帝国を率いていくこと。前を見ること。

 振り返るのは――彼の役目ではない。


「……とりあえず、彼恋を呼びに行きます」

「私も行きます」

「俺は掃除ッスねぇ」


 三人がそれぞれそう言って。

 艦橋がまた、正しい慌ただしさを取り戻した。



◇ ◇ ◇



 そして、二時間後。

 艦橋に、六つの人影が集まっていた。

 帝。

 藤堂暁。

 神道木枯。

 神道虎徹。

 水尭彼恋。

 本郷正好。

 それこそ全員が、万を超える軍隊を預かることもある者たちだ。特に《武神》の名を襲名する暁は、一度十万に届く軍隊を率いたこともある。

 その六人が揃ったところで声を上げたのは、帝だった。


「さて、木枯も泣き止んだようですし……真面目な話といきましょうか」

「……申し訳ありません」

「いいですよー。悪いのはトラちゃんですし、恋する乙女は無敵ですしねー」


 楽しそうに笑う帝。その帝は、手を一度叩いて乾いた音を響かせると、虎徹へと視線を向けた。


「ではトラちゃん。報告を。本来なら本国の警備を行うべき『真選組』をわざわざ秘密裏に外へ出したのです。実りのある報告を聞きたいですね」

「あいよ。まず、あの《殺人鬼》についてだが――取り逃がした」

「またかよ」


 呆れた口調は、正好のものだ。虎徹は肩を竦める。


「一度、接敵して殺し合ったんだがな。四人ほど『喰われた』。まあ、仕事はそれだけじゃねぇ。ガリアか中東……おそらくはガリアだと思うが、あの野郎はそこへ逃げたみてぇだな」

「ガリア連合か……流石に、あそこへは易々と踏み込めないな」

「そういうわけだ。正直、あの野郎を野放しにしたくはねぇんだが、場所が場所だからな。事が大きくならねぇことを祈るしかねぇ」

「正直、良い未来は想像できんな」

「木枯の言う通りですが、どうしようもありませんね。仕方ありませんので、その件は置いておきましょう。……天音がいれば良かったのですけどねー。そう思いませんか、彼恋?」

「へうっ!? え、えっと……」


 話を振られ、できるだけ静かにしようとしていたのであろう彼恋は慌て出す。その様子を見て、虎徹が苦笑を零した。


「なんだオイ。未だにアドリブに弱ぇのか嬢ちゃんは?」

「彼恋。落ち着け」

「は、はいっ。えっと、えっと……!」

「天音がいればあの男の捕捉も楽だったのではないかという話ですよ、彼恋?」

「あ、は、はいっ。でも、その……先生は、多分、その、嫌がったと、思います」

「嫌がる?」

「……先生、あの人、嫌いって……言ってたので……」


 尻すぼみになる言葉。帝が、うーん、と腕を組んで唸った。


「『アレ』を好きな人、いますか?」

「いないでしょうね。そんな数奇な人間は」

「大将の言う通りッスね、多分。あんなのを好きな奴って、どんな奴だよ」

「天音はああいう人、結構好きでしたよねー?」

「天音のアレは、最早病気です。『理解できないことをする人間が好きです』とは、天音の言葉でしたが……しかし、『アレ』に対しては天音も嫌悪を抱いていたようです」

「……あの馬鹿、『アレ』に好かれてやがったしな」

「…………」


 微妙な沈黙が下りる。天音への同情と、その他諸々だ。

 その沈黙を破るように、もう一度、帝が手を叩いた。笑みを消し、真剣な表情を浮かべる。それを受けて、全員も立ち振る舞いを改めた。

 空気が張り詰める。その中で、帝が言葉を紡いだ。


「手を出せない以上、放置するしかありません。故に、これについての結論は後です。……本来ならば、紫央千利も含めた全員で話をしたかったのですが……虎徹。例の件、首尾はどうです?」

「はっ。EUの貴族と接触し、何人かはこちらの大義に呼応してくれる可能性があると判断しました」

「具体的な名は言えますか?」

「こちらに」


 懐から、虎徹は一つの封筒を取り出した。帝へと両手で渡す。帝はその場で封を開けると、中身を確認した。


「千利へは、同じものを暗号文にして部下へ渡すように命じております。……そのリストのうち、上位の三名はすでに我らが大義を聞き入れた上で協力を約束しました」

「精霊王国イギリスからは、女王エリザベスと第一王女ミリアム……エトルリア公国からは、総代表マイヤ・キョウですか」

「マイヤ・キョウについては、協力するならば彼の者が束ねる一族へ『(ひびき)』の姓を返還すると約定を交わして参りましたが……よろしいでしょうか?」

「成程。――暁」


 帝が暁へと視線を向ける。暁が、はっ、と頭を垂れた。


「響家と覇を競い、勝利した藤堂家……その当主であるあなたに問います。響家の再興、認めることは可能ですか?」

「陛下のご命令とあれば」

「――藤堂暁」


 帝が、暁へと更なる言葉を投げかける。


「大日本帝国において、四百年の長きに亘り『藤堂家』は武の要として存在し続けてきました。私はそれを大いに評価していますし、頼りにしています。その藤堂家が、四百年前に覇を競いし響家の再興を許せるかどうか……私の一存では決められません」

「お言葉ですが、陛下。我ら武人は主のために仕える存在。陛下の命令とあれば、いくらでも――」

「――国とは人なのです、暁。そして、七神たち」


 その場の全員を見渡し、帝は言った。


「主たる者が高き志を持ち、優れた才ある者が主を支えれば国は豊かになり、多くの民が幸せに暮らしていけるのです。国を支えるのは武でも財でもなく、人なのですよ。……しかし、それは人が『自由』であるからこそ。あなたたちならば、『自由なき民草』が何をするか、よく知っているはずです」


 帝の言葉に、その場の全員が小さく頷きを返した。自由なき民草――それが起こしたものを、特に木枯や虎徹、正好はその身で経験している。

 出木天音という存在が、その象徴だ。

 自由を求めたからこそ、あの女性は多くを望み、喪い、奪い、奪われ……そして、不自由になったのだから。

 最初から自由があれば、出木天音という『悲劇』は生まれなかったかもしれないのだ。


「故に問います。藤堂暁。五十年の長きに亘り、親子三代に渡って殺し合い、四百年の昔に国外へと追放した彼の一族を……藤堂家は、受け入れることができますか?」

「無論のこと」


 返答は即座だった。暁は膝をつくと、顔を伏せたまま言葉を紡いだ。


「敵であり、宿敵であった響家。我ら藤堂家は、その力を四百年の過去より認めておりました。四百年前は志の違いから争うしかなかったとはいえ、今は陛下の下で盟友となれるかもしれませぬ。ならば、我が藤堂家……御三家、否、大日本帝国はかけがえのない友と刃を手にすることになると存じます」

「――安心しました」


 帝が頷く。そのまま帝は暁に立ち上がるように言うと、虎徹へと視線を向けた。


「響家の再興、認めるものとします。虎徹、名の返還の際、必要とあらば私と暁の二人も参ると伝えてください」

「承知」


 深々と虎徹が頭を下げる。その上で、では、と帝が言葉を紡いだ。


「我らが夢のため、シベリア連邦に出陣します。――出木天音。彼の者が、未だ我らと同じ夢を抱いているのか、否か。見極めに参りましょう」

「御意に」


 全員が応じる。そして。


「では――出陣です」


 世界に覇を唱える、大日本帝国。

 その頂点に立つ者たちが、永久凍土の地へと進軍する。

軽いインターバルです。次回ようやく、彼らも本格参戦という形になります。

あのメンバーの絡みは意外と好評で、書いていても楽しいですね。


シベリア編の山場は後三つほど。出来るだけ早く投稿したいと思いますので、お付き合いいただけると幸いです。

それでは、感想ご意見お待ちしております。

ありがとうございました!!

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