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如何して死んだか分からないけどいきなり二人の怖い女神様に出会う、そんな話

「……んん」


 眠りから覚めたのだろうか、彼の意識が段々と覚醒していく。


(僕は何をしていたんだっけ……?)


 椅子に座っている感覚を背中とお尻に感じながら、ゆっくりと(まぶた)を開く。眩しさは感じなかった。




 それどころか目を開けている筈なのに何も見えない、視界が漆黒に包まれていた。


「な、なんで何も見えないの!?此処は何処!?だ、誰かーーーッ!!助け――ッ!?」


 ガキィン!!ガッ!!ガッ!!


 彼が立ち上がろうとした瞬間、金属音と共に手足の動きが制限された。鎖のような拘束具が着けられていて彼は身動きが出来なかったのだ。


 そして彼は悟る。目隠しをされている事を。自身が何者かに拘束されてしまっているのだという事を。


 頭が混乱しながらも大声を出すのは得策じゃないと叫ぶのを止め、思考を巡らせる。




(僕はなんで囚われているんだ!?


 ……ダメだ!!何をしていたのか全く思い出せない……ッ。


 ……あれ?)


 彼は其処で重大な事に気が付いた。






(……僕は……誰だ……?)






 遠い昔にゲームで遊んだり、アニメや漫画を見たりしていた記憶は有るのに、キャラの顔が油性ペンで塗り潰されたみたいになっていて思い出せない。


 現実世界の人間に至っては存在すら全く思い出せない状況だった。






「なんだ、ようやくお目覚めかよ。良いご身分じゃねーの」


「――ッ!?」


 突如女の声をした。


(足音も気配も無かった……。最初から居たのだろうか……?


 だとしたら叫んでいた時に気付いていた筈……。もしそうなら僕の反応を見て楽しんでいた……?)


「なぁ、お前。今の自分の状況ってのを全く理解してねーんだろ?仕方ねーから優しいアタシが教えてやんよ」



 ――グイッ!!



 いきなり肩を組まれ身体がビクッと跳ねる。


「お前はな、もう『おっ()んだんだ』」


「……へ?」


 予想外の言葉に上擦った変な声が出てしまう。


(な、何を言ってるんだ?……僕は今こうして生きてるじゃないか……?)


 女は彼の耳許で囁くように、諭すように更に続ける。


「酷い有様だったぞ?まさか学校の屋上から飛び降りるなんてな?身体はバッラバラ。地面はお前の血と臓物でグッチャグチャ。


 ニュースはお前の話題で持ち切りだ。イジメ被害者の自殺か他殺か、ってな?


 まぁアタシにはどっちでも良いんだが……。


 おっ死んだお前にとっても如何でも良い話だよな?」




 彼は何も思い出せなかったが、記憶は失われても死の感覚・死の恐怖・死の瞬間の光景……それらは身体に深く刻まれている。


「……ッッッ」


 悪寒。冷や汗が止まらない。プールで冷えた時みたいに歯がガチガチと音を立てる。




「あぁん?何?何だよその反応は……♡目隠ししてるの勿体無ぇなー?♡」


 女は彼の目隠しの下の縁を指で摘んだ。


 勿体ぶるように、焦らすように、愉しみが無くなるのを惜しむかのようにゆっくりと上にずらし上げる。


 彼の瞳には恐怖が滲み出ており、女は『ソレ』を見ると恍惚の表情を浮かべていた。


「良い顔してんじゃん……♡」




 彼は恐怖に染まりながら女を見ていた。




 『人間じゃない』




 一目見てソレを確信出来る容姿の女だった。


 眼は大きくややツリ目で瞳は燃えているかのように真紅に輝いているのだが、右眼の白眼が黒く染まっていた。


 笑みを浮かべ見える歯は(さめ)のようにギザギザに鋭く生えており、黒と赤が混じる髪からは左右非対称の角が生えていた。




 彼は女の姿を見ると何も言葉を発さず只々見詰めていた。



「アタシの姿を見て更に怯えちまったか?人間っつーのはホント、ナヨっちぃよなー?」


「……い、いえ。その……可愛くて……」


「……は?」


 女は予想外過ぎる返答に目を丸くし呆気にとられていた。


「あ……す、すみません……つい……」




「ふふ、面白い子だねー?目を覚ましたならあーしにも教えてよー、バイちゃん」


 背後からもう一人の女の声。彼が振り向くと『バイちゃん』と呼ばれた女とは対象的に青を基調とした糸目の女性が笑みを浮かべながら此方を見ていた。


「なッ、なんも面白くねーよ!」


「バイちゃんを照れさせちゃうなんて、君もやり手だねー?」


「……ッ!フンッ!」


「ふふ、バイちゃんを揶揄(からか)うのはこれくらいにしておいて、と。あーしはアンフィース・アンピース。よろしくねー?」


 アンフィースは彼の目の前に歩いて自己紹介を述べると、ダブルピースをしてみせた。青黒い肌が特徴的な女性だった。


「バイちゃんは自己紹介してなさそうだから、あーしが教えてあげるねー?」


「ッざけんな!アタシが自分で言うっつーの!アタシはバイエナ・バイナイン!つーか照れてねーから勘違いすんじゃねーぞ!」


 彼はバイエナの顔を見た時から、身体の震えは収まっていた。人ならざる者を前にしても、自身が拘束されているとしても、二人からは謎の安心感を感じていた。


「それでねー?君は既に死んじゃってるから『異世界転生』をさせてあげようかなーってあーし達は考えてるんだよねー。意味は分かるかなー?」


「……はい、そういう作品を見た記憶は有るので……という事は二人は女神様……?」


「はッ!んなワケねーだろ、アタシみてぇな牙生えてる女神様なんざ見た事ねーよ」


「でもまぁ当たらずとも遠からず……と言ったところかなー?だから女神様みたいに無条件でさせてあげちゃう程の聖人じゃないんだよねー♡」


 アンフィースは彼の目の前の机に座ると膝上丈のニーハイのヒールブーツ脱ぎ捨てる。蒸れた素足を彼の顔面に押し当てては開眼させ舌舐めずりをした。


「あーしの足を丁寧に舐めたらしてあげるねー♡」


 バイエナとは逆に左眼の白眼が黒く染まっていた。切れ長の垂れ目から覗く瞳は凍て付くように青白く、しかし彼には魅力的に映っていた。


「……アンはホント悪趣味だな?」


 言いつつバイエナも愉しそうに眺めていた。


「……ん」


 彼は抵抗も余り感じずにアンフィースの足の裏を舐め始める。


「あは♡君、思ったよりも従順で素晴らしいねー♡それじゃあ君の異世界転生について教えてあげるねー?」


 彼は丁寧に舐めながら耳を傾ける。


「あーし達が君に『スキル』を授けてあげるからー、異世界で『魔王』を倒せたらゲームクリアーって感じのが面白いかなって思うんだけどー♡」


 返事を聞くつもりが無いのか、足の親指を彼の口に突っ込みながら恍惚の笑みで続ける。


「スキルはそうだねー?『硬くなる』とか今の君にピッタリだねー♡」


 アンフィースが左手を彼に向ける。左手は黒い鎧を装着していた。魔力を込めると黒い鎧を青白い光が這いずる。彼が青白い光に包まれるとスキル『硬くなる』を覚えた。




「おい、アン!勝手に決めんなよ!職業はアタシが決める!こんだけのマゾ野郎なら前衛一択だろ!拳こそ最強!お前は『武闘家』だッ!」


 バイエナは右手を彼に向ける。アンフィース同様に黒い鎧を()めており、マグマのような赤白い光が這いずる。彼は『武闘家』になった。


 彼の着ていた学生の制服は裂け散り、黒のノースリーブに黒のブカブカのパンツに黒のヒールブーツを纏っていた。




「あら♡『硬くなる』『武闘家』……あの世界だととても素晴らしい組み合わせとは言い難いけど……君なら大丈夫かなー?♡」


 彼はスキルを得た実感も武闘家になった実感も湧いていなかった。只々咥内の親指をしゃぶるのに必死になっていた。


「君に名前無いと不便だよねー?」


「コイツに名前……」


「あーし達の名前を取って『アイン』にしよー♡」


「……ま、悪くねーんじゃねーの?つーか前髪なげーんだよ、邪魔クセェ!」


 バイエナがアインの前髪を爪で掻っ切ると顔が顕になった。予想外に顔が良く、バイエナはまたもや顔を赤らめた。


「ッ!なッ……んで髪で隠してやがったんだ!?」


「ん……すみません……自分に自身が無くて……」


 親指を口から出すと唾液が糸を引いて光を反射している。


 唾液で濡れている自身の親指を見るとアンフィースは満足そうに足の指をぐにぐに動かしていた。


「ふふ、あーしは充分愉しめたし、そろそろ異世界転生させちゃおうかなー♡バイちゃんはまだ愉しみたい感じー?」


「は、はぁ!?別にそんなんじゃねーよ!さっさとやっちまえ!」


「それじゃあアイン?最後に大切な事を言うからねー?あーし達の事を誰にも話さない事ー。アインが『異世界転生者』だって誰にも話さない事ー。勿論バレない事ー。たとえ相手が自分から異世界転生者だって名乗ってきてもダメだからねー?」


「……は、はいッ!」


「よしよしー♡いーこだねー♡」


 アンフィースが足の裏でアインの頭を撫でてやる。


「……フン。言っとくがアインの行く異世界は生半可な世界じゃねーからな!早死すんじゃねーぞ!」


「はいッ!バイエナさん、僕の心配してくれてるんで――」


「してねぇっつーの!!」


 バイエナは腕を組みながらそっぽを向いてしまったが、耳が真っ赤に染まっていた。


「あ。あーしの事はアンフィース様って呼んでくれていーよ、アインー♡」


「あ、アンフィース……様……」


「はーい♡


 ってなワケで、アイン。


 此処から君の新しい人生のスタートだよ♡」


 アンフィースの左手とバイエナの右手がアインへ向けられると、アインの姿が空間から忽然(こつぜん)と消え失せた。




「バイちゃん、アインの事気に入ったんだねー?ちょっと意外だったかもー」


「……フン」


 バイエナはアンフィースに背を向け歩き出す。


「何処に行くのー?」


 アンフィースは糸目のままニマニマしていた。バイエナが何処へ向かっているのか、見当がついていた。


「別に、只の暇潰しだ」


 黒と赤の混じる炎に包まれるとバイエナの姿も消え失せた。




「ふふ、楽しい事になりそう♡」




 アンフィースの瞳が開眼すると、アインの転生先の世界を視始める。






 ――アインの異世界転生の物語が、始まろうとしていた。

 設定


 アイン

 生前と冒頭のアインはブレザータイプの制服。前髪は目を覆っている、メカクレ男子。壮絶なイジメを受けており、教師は見て見ぬ振り、親はアインに関心が無く気付いていないし気付いても対処なんてしてくれない。絶望したアインは学校の屋上の扉を壊し、飛び降りて死んでしまう。

 最終的には髪は切られ目が見えるように。顔は整っている。女装が似合いそうな部類の顔でバイエナはショタ好き故に顔がドタイプ。服は黒のノースリーブ、ブカブカのパンツ、ヒールブーツ。

 『武闘家』なので武器は使わない。

 『硬くなる』は文字通り身体を硬くする。



 バイエナ・バイナイン

 眼は大きくややツリ目。瞳は燃えているかのように真紅に輝いている。右眼の白眼は黒。歯は(さめ)のようにギザギザに鋭く生えている。黒と赤が混じる髪。カールした髪は右眼に掛かっていて、左眼側はかき上げ左耳に掛けているアシメ。襟足長めなボーイッシュ。左右非対称の角が生えている。左眼側は羊のように渦巻き状の角、右眼側は前方に湾曲した角。ノースリーブのフード付きマントは黒主体で赤い模様が入っている。右腕には竜のような鎧。膝下5センチのショートパンツにショートのヒールブーツ。全てマントと同じ配色。赤はマグマのように光っている。


 アンフィース・アンピース

 通常時は糸目で口角が上がっている。開眼すると左眼の白眼が黒く染まっている。切れ長の垂れ目から覗く瞳は凍て付くように青白い。肌は青黒い。歯は奥歯だけギザギザ。咥内の粘膜は肌より色素の薄い青強めの青黒で、舌は真っ青。舌と同じ色のネイルのマニキュアとペディキュアをしている。髪は黒と青が混じっている。前髪は長く、後ろ髪と同じ肩のライン。後ろはおかっぱでインナーカラーは青白く光っている。バイエナ同様にノースリーブだがフードは付いていない立襟ジャケット。左腕に鎧、股下5センチショートパンツはバイエナよりもピッチリ。膝上丈のニーハイヒールブーツ。全て黒ベースに青白い光の模様。角はバイエナと左右対象。

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