作者不在
掲載日:2026/06/10
作者不在
気がつくと、小説の中にいた。
困った。
私は作者ではない。
登場人物でもない。
読者でもない。
では何なのか。
分からない。
とりあえず辺りを見回す。
地の文が落ちていた。
拾う。
少し重い。
持ち上げると、
「主人公は空を見上げた」
と書いてあった。
空を見る。
特に何もない。
責任を感じたので、もう一度見る。
やはり何もない。
すると上から作者が降ってきた。
助かった。
作者がいれば話が進む。
そう思った。
作者は着地すると、
「私は作者ではありません」
と言った。
困った。
私は作者ではない。
作者も作者ではない。
では誰がこの文章を書いているのか。
作者ではない作者に聞いてみた。
作者ではない作者は首を横に振った。
首を横に振る描写が丁寧だった。
少し怪しい。
問い詰めると、
作者ではない作者は地面に穴を掘り、その中に逃げた。
残されたのは私だけだった。
静かだ。
小説なのに静かだった。
すると空から一枚の紙が落ちてきた。
そこにはこう書かれていた。
「この作品はAIによって作成されました」
私は安心した。
犯人が見つかったからだ。
しかし次の行には、
「AIも作者ではありません」
と書かれていた。
困った。
もう誰もいなかった。
だからこの作品は終わることにした。
終わらせる人はいないが、
終わったことにした。
たぶん今。




