表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/51

第7話『命の繋ぎ目』

ギルドでの登録を終え、リナに連れられて二階の宿舎へ向かった。

「今日はここで我慢して。一泊、大銅貨二枚よ。……もちろん貸しね」

「分かってる。……それより、リナ。身体がベタベタなんだ。どこか体を洗える場所はないか?」


ケイの言葉に、リナは不思議そうな顔をした。

「洗う? 裏庭に井戸があるわよ。桶で被ればいいじゃない」

「……風呂は? 湯船に浸かるとか、そういうのは」

「……ふろ? 何それ、貴族の贅沢? 庶民は雨か井戸水よ。せいぜい、温めた布で拭くくらいね」


ケイは絶望した。三十二年間当たり前だと思っていた「毎晩の入浴」という文化が、この世界では存在すら怪しい特権階級の嗜みだったのだ。

結局、裏庭の冷たい井戸水で顔と体を拭うのが精一杯だった。石鹸すらなく、ただ汚れを広げているような不快感。傷口が染みたが、リナがギルドで購入した「安価な薬草の塗り薬」を無造作に塗ってくれた。


「痛っ……」

「我慢しなさい。……ほら、ご飯よ。これ食べたら寝るのよ」

リナはギルドの食堂で最安値のスープと黒パンを注文し、大銅貨一枚をカウンターに置いた。「……これも貸しよ」


ギルドの一階、酒場の隅。

差し出されたのは、茶色いドロドロとしたスープと、石のように硬い黒パンだった。

(……これが、夕飯か。日本のコンビニで売れ残った弁当の方が、よほど豪華だろう)

だが、空腹は最大の調味料だった。一口啜ると、獣の脂の匂いと強烈な塩気が喉を焼いたが、今のケイにはそれが命の繋ぎ目に見えた。


「おい、見ろよ」

不意に、背後から下卑た笑い声が聞こえた。

三人の大柄な男たちが、ケイのギルドカード――真新しいアイアンの色――を覗き込んでいた。


「魔力3の『Gランク』様だぜ。リナ、お前、そんな出来損ないを拾ってどうするんだ? 盾にもなりゃしねえぞ」

男の一人が、ケイの肩を強く叩いた。その衝撃でスープが溢れる。


「……やめろ」

「あ? 何か言ったか? 雑魚の癖に生意気だぞ」

男が拳を固めた瞬間、リナのフォークが男の手の甲、数ミリ横のテーブルに突き刺さった。


「私の『連れ』に触らないでくれる? ランクが上だからって、私の機嫌を損ねていい理由にはならないわよ。……消えなさい」


リナの凍りつくような声に、男たちは毒づきながら去っていった。

ケイは震える手でスープを飲み干した。


「……リナ、助かった」

「勘違いしないで。あなたが潰れたら、私の小銀貨も大銅貨も返ってこなくなるからよ」


その夜、ケイは木製のベッドに横たわった。

背中の傷が脈打ち、周囲からは冒険者たちのいびきと酒の匂いが漂ってくる。

(お風呂に入りたい……。5億の借金どころか、入街税に登録料に宿代に薬に飯代――小銀貨三枚に大銅貨数枚。この世界では命を削らなきゃならないのか)


意識が遠のく中、ケイは自分のギルドカードに刻まれた『解析(未覚醒)』という文字を、暗闇の中で何度もなぞっていた。


---

【借金メモ・7話終了時点】

前話(6話)終了時:残債小銀貨4枚・大銅貨2枚

7話収入:なし

7話支出:夕飯代(大銅貨1枚・リナ立替)+薬草塗りリナがサービス

残債充当:なし

ケイの手元:0枚

残債:小銀貨4枚・大銅貨3枚

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ