第59話『量産』
朝、リナが錬金術師組合へ向かう前に声をかける。
「一緒に行く」
「え?」
「初級魔力ポーションのレシピを知りたい——ただ文字が読めないから書面では意味がない。現物を見ながら口頭で説明してもらわないと覚えられない」
「ああ、そういうことね。それなら確かに一緒の方がいいわ」
冒険者ギルドに先に寄って採取クエストの素材を受け取る。数日分が納品されていて、シロクサ六十枚、ハコネソウ四十枚、イヤシゴケ五十グラム——素材代を払い、クエストを一件継続で追加発注する。
そのまま錬金術師組合へ向かう。
受付で用件を伝える。レシピの閲覧と口頭説明の依頼、それと昨日リナが持ち込んだ二素材の続報。
「初級魔力ポーションは魔力ポーション章に入っています。基礎三章以降のため、閲覧料が大銅貨八枚かかります」
少し間を置いて続ける。
「ただ——魔力ポーションの製造・販売には魔術師ギルドへの別途登録が必要です。錬金術師ギルドの登録だけでは販売はできません」
リナがこちらを見る。
「レシピの閲覧と習得はできるということかしら」
「閲覧と習得は構いません。製造する段階で魔術師ギルドの登録証が必要になります」
「分かった」
払う。
担当が奥から出てきて、作業台に素材と道具を並べながら手順を説明し、聞きながら工程を頭に入れる。回復系と素材も道具も違うが、工程の複雑さは初級ポーションと変わらない。
「手順は頭に入った。ただ製造するには魔術師ギルドへの登録が先だ」
錬金術師組合を出る。
「刻印魔道具は魔法ギルドの管轄って言われたから、そのまま寄ってくるわ」
「頼む」
リナがそのまま魔法ギルドへ向かう。
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店に戻ると、ソルが濾過室で布を扱っていた。すり潰しの手順も身についてきていて、ほとんど指示がいらなくなった。
(二人はもう動ける。次の手順を教える時期だ)
フィアに声をかける。
「今日から手順を変える。煮込み時間をさらに延ばして今までより倍近くかけてほしい——火加減はそのままで、色が変わるまで待つ」
フィアが手を止めてこちらを見る。
「できた液体は小窓からソルに渡してくれ。フィアは瓶詰めに入らなくていいから、次の仕込みをすぐ始めてくれ」
「分かりました」
「ソルにも伝える——今日から受け取る原液の色が変わる。手順は同じでいい」
小窓越しに伝えると、ソルが短く返事をする。
フィアの鍋を横で確認しながら自分の鍋も動かす。色が変わっていくのを見届ける。
(ここからが本当の量産体制だ)
昼、棚の前でミレイが客に説明している。
「こちらが本物の緑の雫製です。看板にも製造責任者として明記しています」
客が看板を確認して、頷いて購入していく。
前日より一人多い。小さな変化だが確実にある。
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リナが昼過ぎに戻ってきた。
「魔法ギルドに寄ってきたわ。刻印用の魔道具は二種類あって、簡易型が大銀貨二枚前後、精密型が大銀貨五枚以上だって」
「機能の違いは」
「簡易型は文字か記号一種類を刻むだけ。精密型は複数の模様を組み合わせて、偽造しにくい複雑な刻印が入れられるの」
少し考える。
「どちらが偽造されにくいか」
「精密型。組合の人間によれば、簡易型でも刻印があるだけで偽物との区別はできるって——見た目の差は消費者には分からないから、まず導入するなら簡易型で十分じゃないかって」
「大銀貨二枚」
(今の残債に加えて……)
「二つの素材は」
「今日また確認したけど、やっぱり効能は分からないって。解析系の術式か実際に使って確かめるしかないって言ってたわ」
(解析か)
頭痛が予想される。ただ未知の素材の効能を確かめる手段があるとすれば、確かに解析しかない。
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二人で帳簿を広げる。
現在の残債、毎日の収支、刻印魔道具の費用、返済のペース。
リナが数字を読み上げながら整理していく。判断を出す。
「刻印の投資回収に何日かかるか」
「今の来客数で計算すると、一本あたりの刻印コストが無視できる水準になるまで……百五十日以上はかかるわ」
「ただ刻印を入れることで客が戻れば、来客数が増えて回収が早くなる」
「仮定の話でしょ」
「仮定だが、今の客足が続けば収益は落ち続ける。どちらのリスクを取るかの判断だ」
リナが少し間を置く。
「……刻印を入れた方がいいと思う。今のままでは状況が変わらないわ」
「同じ判断だ」
「じゃあ大銀貨二枚、また借りるってこと?」
リナが少し間を置いてから続ける。
「待って——相手も商人でしょ。簡易型は文字一種類で同じ道具を作られたら偽装されてしまうし、粗悪品にうちの刻印が入ったら逆効果になるわよ」
「……」
「精密型なら複数の模様を組み合わせるから、再現が格段に難しい——今回の相手がそこまでやるかは分からないけど、やられてからでは遅い。最初から偽造しにくい方を選ぶべきだと思うわ」
少し考える。
(筋が通っている。相手が商人なら、刻印を模倣する手段を持っている可能性がある)
「精密型にする。大銀貨五枚借りられるか」
リナが頷いて帳簿に書き込む。
「一つ条件があるんだけどね」
「聞く」
「借金がまた増えたから、無理せず返せるペースで返してほしい。急ぎすぎないでね」
「分かった」
リナが帳簿を閉じる。
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ミレイが報告する。
「今日は十六人でした」
昨日より三人増えた。
(看板の効果が出始めている)
ただまだ以前の水準には遠い。刻印が入れば、もう一段階変わるはずだ。
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【借金メモ・59話終了時点】
前話(58話)終了時:手元銀貨二枚と小銀貨八枚・残債大銀貨二枚と銀貨五枚と小銀貨三枚と大銅貨六枚
59話収入:初級ポーション(作澄:緑)フィア作14本(大銅貨八枚×十四=銀貨一枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚)+初級ポーション(作淡濁:緑)ケイ作10本(大銅貨六枚×十=大銅貨六十枚)=銀貨一枚と小銀貨七枚と大銅貨二枚
59話支出:従業員給与ミレイ(大銅貨六枚)+フィア・ソル・充填×2(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+採取素材代(シロクサ六十枚・ハコネソウ四十枚・イヤシゴケ五十グラム分)+クエスト追加発注料(大銅貨五枚)+レシピ閲覧料(大銅貨八枚)+食事分(大銅貨一枚)
残債充当:銀貨一枚と小銀貨二枚と大銅貨四枚(銀貨三枚を手持ち資金として残した上での充当)→残債大銀貨二枚と銀貨五枚と小銀貨三枚と大銅貨六枚から充当→大銀貨二枚と銀貨四枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚
ケイの手元:銀貨三枚
残債:大銀貨二枚と銀貨四枚と小銀貨一枚と大銅貨二枚
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【所持アイテムメモ】
ポーション類
初級ポーション(作淡濁:緑) × 5本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級ポーション(作澄:緑) × 3本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級ポーション(作濁:黄緑) × 大瓶3本(保管中)
素材類
シロクサ乾燥葉 × 約30枚
ハコネソウ生葉 × 約20枚
イヤシゴケ乾燥粉 × 約15g
アオバクサ生葉 × 約8枚(残)
スイショウカズラの実 × 約5粒(残)
ミツロウソウの雫(小瓶) × 1本(ダンジョン産・効能不明・解析待ち)
ホシクサの露(小瓶) × 1本(ダンジョン産・効能不明・解析待ち)
採用・勤務中
販売員:ミレイ(手当継続中)
生産者A(加熱担当):フィア
生産者B(濾過担当):ソル
充填作業員×2
刻印導入
方針確定:精密型・大銀貨五枚
資金:リナから追加借用予定
天秤座
調査段階2継続中
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