表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/62

第58話『帰還』

朝、ガウルが店に来た。


木の板を脇に抱えている。昨日より大きい板だ。


「できた。確認してくれ」


板を受け取る。文字の形は分からないが、ガウルが彫った溝の深さと均一さは見て分かる。


「内容を読んでくれ」


ガウルが板を指でなぞりながら読む。


「緑の雫。製造責任者:当店。品質に責任を持つ。模倣品は当店と無関係——こういう内容だ」


「それでいい」


「後払いの大銅貨四枚を」


払う。板を受け取る。


店の外壁、入り口の脇に立てかける。既存の看板の横だ。


ミレイが外から確認して戻ってくる。


「これで少し説明が楽になります」


「頼む」


ミレイが頷いて棚の前に立つ。


その日の午前中、クレームを言いに来た客三人のうち二人は、看板を指さして説明が終わった。一人はまだ半信半疑だったが、本物を一本買って出ていった。


(効果はある。ただ客足は戻っていない)


---


昼過ぎ、通りを一度確認する。


路地の角に荷袋を持った男がいて、駆け出し風の若者二人が立ち止まって話している。男が袋から瓶を出す。


(行商だ)


近づくと男は袋を抱えて路地の奥に消えた。こちらの顔を認識している。


舌打ちしたい気分をこらえて店に戻る。


---


夕方、扉が開く。リナだった。


背負い袋が大きく、装備に傷がある。顔が日焼けして目の下に疲れが出ているが、足取りは確かだ。


「戻った」


「ちょうどよかった」


リナが少し眉を上げる。


「開口一番それ? 無事かどうか聞かないの」


「無事そうに見える。安心した」


「……まあ無事だけど」


リナが袋を下ろして椅子に座る。水を出すと、一口飲んで少し息をつく。


「話が色々ある。店の方も色々あったでしょ」


「ある。ただリナの話を先に聞く」


リナが少し驚いた顔をする。


「珍しいわね」


「向こうの情報が今後の判断に影響する可能性がある」


「なるほど、そういうことね」


リナが背筋を伸ばす。


「ダンジョンは深い。今回は第四層まで入った。Cランクで単独は正直ギリギリだった」


「無理をしたか」


「慎重にやった。ただ見てきたものは多い」


リナが話し始める。


「まず魔力ポーションの需要が跳ね上がっている。ダンジョン内では回復より魔力の消費が先に来る。特に第三層以降は魔法を使わないと戦えない構造になっている。今ある初級魔力ポーションは全然足りていない」


「うちで作れるか」


「作れる。ただ素材が違う。アオバクサとスイショウカズラの実が要る。ダンジョン近くの湧き水で育ったものが品質が高いけど、地上産でも作れる」


「需要はどのくらい」


「今のダンジョン組の人数なら、一日三十本は捌ける。値段も初級回復ポーションより上がる」


(計算が変わる)


「次に素材の話」


リナが袋から小さな布袋を取り出す。


「二種類、見たことない素材を採れた。一つは蜂蜜に似た色の雫が採れる草。もう一つは夜明け前にしか採れない水色の露。どちらもダンジョン産で、地上には出回っていない。錬金術師組合に持ち込んだら珍しいとは言われたけど、効能は分からないって」


布袋を受け取ると、二つの小瓶が入っていて一方は淡い黄色、もう一方は澄んだ水色だ。


「これを含む情報をまとめてギルドに売った」


「いくらになった」


「大金貨二枚」


胃の奥が少し動く。喉に何かが込み上げかける。


「大金貨二枚」


もう一度繰り返したのは確認のためだが、二度目の方が反応が来た。口の中に苦みが広がる。


(……落ち着け。金の話じゃない。枚数の話だ)


(大銀貨二百枚分だ)


「すごいな」


「私も驚いた。ただこれはダンジョンに命がけで入った対価だから、全部自分のものにする」


「当然だ」


リナが少し笑う。


「じゃあこちらの話を聞く」


順に話す。


粗悪品の流通、天秤座の調査、客足の減少、ミレイの疲弊と手当、看板の設置、刻印の相談。


リナが黙って聞いている。途中で何度か頷く。


「大変だったのね」


「代筆が必要なことが複数あって動けなかった。リナがいれば早かったことがある」


「そうか……」


リナが頷く。


「刻印用の魔道具について。天秤座に相談したところ、有効だが費用の回収に時間がかかると言われた。魔道具自体は繰り返し使えるが、初期費用が高い」


「いくら?」


「まだ調べていない。ただ今の手持ち資金では動けない」


リナが少し考える。


「今の残債に加えてまた借りるということ?」


「そうなる。ただこれは投資だ。刻印が入れば模倣品との区別ができて、客足が戻る可能性がある。戻れば収益が増えて返済も早くなる」


「……理屈は分かる」


リナが腕を組む。


「明日、魔法ギルドに価格を確認してみる。それから判断しましょう」


「頼む」


リナが立ち上がる。


「今日は疲れたから寝る。帳簿は明日確認する」


「分かった」


リナが扉に向かってから、少し振り返る。


「看板、見た。よくできてたわ」


扉が閉まる。


夜、仕込みをしながら今日聞いた話を整理する。


魔力ポーション、正体不明の二素材、刻印、大金貨二枚の情報売却。


状況が動いている。悪い方向だけではない。


ただ動くためには資金が要り、資金を作るためには売上が要り、売上を戻すためには刻印が要る。


(鶏と卵だ)


どこかで踏み切るしかない。


石臼を動かす。今夜の分、明日の棚に並べる分。


---


【借金メモ・58話終了時点】

前話(57話)終了時:手元銀貨一枚と小銀貨六枚と大銅貨三枚・残債大銀貨二枚と銀貨五枚と小銀貨三枚と大銅貨六枚

58話収入:初級ポーション(作澄:緑)フィア作12本(大銅貨八枚×十二=小銀貨九枚と大銅貨六枚)+初級ポーション(作淡濁:緑)ケイ作8本(大銅貨六枚×八=小銀貨四枚と大銅貨八枚)=銀貨一枚と小銀貨四枚と大銅貨四枚

58話支出:従業員給与ミレイ(大銅貨六枚)+フィア・ソル・充填×2(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+大工後払(大銅貨四枚)+食事分(大銅貨一枚)=大銅貨二十七枚

残債充当:なし(手元銀貨二枚と小銀貨八枚<返済条件の銀貨三枚)

ケイの手元:銀貨二枚と小銀貨八枚

残債:大銀貨二枚と銀貨五枚と小銀貨三枚と大銅貨六枚

---

【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 4本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作澄:緑) × 3本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大瓶3本(保管中)


素材類

 シロクサ乾燥葉 × 約40枚

 ハコネソウ生葉 × 約25枚

 イヤシゴケ乾燥粉 × 約25g

 ミツロウソウの雫(小瓶) × 1本(ダンジョン産・効能不明)

ホシクサの露(小瓶) × 1本(ダンジョン産・効能不明)


道具類

 調合道具一式(購入済み) × 石臼・土鍋・計量皿一式×2組

 保存瓶 × 約10本(残)

 大保存瓶 × 3本(保管中)


採用・勤務中

 販売員:ミレイ(手当継続中)

 生産者A(加熱担当):フィア

 生産者B(濾過担当):ソル

 充填作業員×2


看板

 設置完了(品質責任・模倣品無関係の明記)


天秤座

 調査段階2継続中


---

読んでくださってありがとうございます。

続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや★評価で応援していただけると嬉しいです。更新の励みになります。

次回もよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ