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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第2章

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第57話『核心』

朝、棚を見る。


昨日の残りが五本ある。三日前は一本も残らなかった——数字が落ち続けている。


ミレイが来てカウンターの前に立ち、棚を確認する。動きに迷いはないが、目が少し沈んでいる。


「昨日はどうだった」


「九人でした。うち四人が、効かなかったと言ってきた人です」


「うちのものではないと説明できたか」


「しました。ただ一人、怒鳴られました」


少し間が空く。


「怒鳴られた内容は」


「なぜ似たようなものを売っているのに知らないふりをするのか、と。答えられませんでした」


それは答えられない。似たものを売っていること自体、こちらに止める手段がない。


「よく続けてくれている」


ミレイが少し頷く。顔に疲れが出ている。


「ミレイ、あと何日続けられるか」


ミレイが目を上げる。


「……正直に言っていいですか」


「頼む」


「今週いっぱいは続けます。ただ来週も同じ状況が続くなら、少し考えさせてください」


「分かった。今週中に状況を変えるし、手当は続ける」


ミレイが頷いて棚の補充に戻る。


(今週中に動かないといけない)


午前中、調合室に入る。


フィアが鍋の温度を確かめる動きが、三日前よりさらに迷いなくなっている。煮込み時間を自分で判断し始めている。


ソルが濾過室で布を扱う音が一定だ。すり潰しの力加減も安定してきた。


(この二人は育っている)


生産は問題ない——問題は客だ。


---


昼前に大工のガウルを訪ねる。


「看板を作り直したい。今ある板に追加で文字を入れてほしい」


「どんな内容だ」


「店名と、製造者がここであること。それと品質に責任を持つという一文。こういう内容で彫ってほしい」


「彫りか。書くより手間がかかるが、消えないものがいいなら彫る」


「彫ってくれ」


「いつ必要だ」


「できるだけ早く」


「板が決まれば翌日には仕上げる。板代と工賃で大銅貨七枚だ」


払える。


「頼む」


---


午後、天秤座へ向かう。担当者が受付で顔を上げる。


「本日はどういったご用件ですか」


「先日の件の続報を聞きたい。それと、調査の進捗を確認したい」


別室に案内される。


「苦情の件数が増えています。現時点で十一件。南東区の店舗に加え、路上での売買に関する申告が複数入っています」


「店舗から行商に形を変えた」


「そう見ています。当ギルドとしては、今週中に関係する申告人の証言を整理し、発信元の特定に向けた照合に入ります」


「調査の段階が上がるということか」


「はい。緑の雫については関与なしという認定を維持していますが、申告に貴店の名前が引き続き含まれている以上、調査の対象として記録に残ります。ご不便をおかけしますが、ご協力をお願いします」


「こちらも看板を作り直して、製造責任を明示する。証拠になるか」


「書面としての効力はありませんが、誠実な対応の記録にはなります。出来上がったら提示してください」


「もう一つ聞きたい。保存瓶に独自の刻印を入れることは有効か。魔道具で入れれば、刻印のないものは偽物だと分かる」


担当者が少し考える。


「有効ではあります。刻印が入っていれば真正品の証明になり、客への説明も簡単になる」


「ただ」と続ける。


「魔道具自体は何度でも使えます。ただ購入費用が高く、初級ポーションの販売価格で回収しようとすると相当な本数が必要になります。元が取れるまでに時間がかかる」


「費用の問題か」


「ご検討の価値はあります。ただ現実的なコストとの兼ね合いをよく見た方がいいと思います」


席を立つ。


---


夕方、店に戻る。


ミレイが「今日は八人でした」と報告する。


棚を確認すると、昨日の残りと合わせて七本残っている。売れていない。


フィアとソルが帰り、充填作業員が帰る。一人になって帳簿を開き、今週の数字を並べる。


開店当初から数えると、今が一番少ない。


(このままでは持たない)


原因は分かっている。粗悪品が市場に出回り、うちの名前と混同されている——天秤座が調査を進めているが、調査が終わるのを待っている時間はない。


何かが要る。


天秤座の調査でも、看板でもない。もっと直接的な何かが。


(刻印だ)


偽物を排除するより、本物を証明する方が早い。刻印のある瓶が本物、ない瓶は関係ない——客にそれだけ分かれば、混同は止められる。


ただ魔道具の購入費用は高い。今の資金では動けない。


(リナはいつ戻る)


夜、仕込みをしながら考え続ける。


証拠を取る方法も必要だが、先に客の信頼を取り戻す手を打つ方が順序として正しい。刻印を導入し、そのための費用をどう工面するか——リナに相談が必要になるかもしれない。


(借金がまた増える)


石臼を動かすと、シロクサの繊維が断ち切れる。


ただ方向は決まった。


---


街の通りを行商の男が歩いている。荷袋に瓶が入っている。


男が駆け出しに声をかける。


「ポーション、一本大銅貨五枚でどうだ。品質は確かで、緑の雫の仕入れだ」


駆け出しが立ち止まり、財布を出す。


---


【借金メモ・57話終了時点】

前話(56話)終了時:手元大銅貨五枚・残債大銀貨二枚と銀貨五枚と小銀貨三枚と大銅貨六枚

57話収入:初級ポーション(作澄:緑)フィア作16本(大銅貨八枚×十六=小銀貨十二枚と大銅貨八枚)+初級ポーション(作淡濁:緑)ケイ作10本(大銅貨六枚×十=大銅貨六十枚)=銀貨一枚と小銀貨八枚と大銅貨八枚

57話支出:従業員給与ミレイ(大銅貨六枚)+フィア・ソル・充填×2(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+大工依頼手付け(大銅貨七枚)+食事分(大銅貨一枚)=大銅貨三十枚

残債充当:なし(手元銀貨一枚と小銀貨六枚と大銅貨三枚<返済条件の銀貨三枚)

ケイの手元:銀貨一枚と小銀貨六枚と大銅貨三枚

残債:大銀貨二枚と銀貨五枚と小銀貨三枚と大銅貨六枚

---

【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 5本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作澄:緑) × 3本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大瓶3本(保管中)


素材類

 シロクサ乾燥葉 × 約60枚

 ハコネソウ生葉 × 約40枚

 イヤシゴケ乾燥粉 × 約40g


道具類

 調合道具一式(購入済み) × 石臼・土鍋・計量皿一式×2組

 保存瓶 × 約12本(残)

 大保存瓶 × 3本(保管中)


採用・勤務中

 販売員:ミレイ(今週いっぱい継続・来週の状況次第)

 生産者A(加熱担当):フィア

 生産者B(濾過担当):ソル

 充填作業員×2


天秤座

 調査段階2移行:申告件数11件・路上行商の申告が追加・今週中に照合開始

 看板提示約束済み


不在

 リナ:境界の森ダンジョン(数日・魔物よけキャンプ装備持参)


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読んでくださってありがとうございます。

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次回もよろしくお願いします!


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