第56話『売上が落ちる』
朝、棚の前に立ってみる。
昨日の残りがある——初級ポーションが二本、淡く濁ったが一本。前の週なら開店前に切れていた分だ。
数字が落ちている。
ミレイが来て棚を確認する。動きは正確だが、表情が少し硬い。
「昨日、何かあったか」
ミレイが少し間を置く。
「七人ほど、うちで買ったんじゃないかと確認してくる客が来ました。効かなかったと言って。うちのものではないと説明しましたが、三人は信じてもらえませんでした」
「その都度、説明してくれているか」
「はい。ただ……少し疲れます」
「正直に言ってくれて助かる。この状況が続く間、日当に大銅貨二枚追加する」
ミレイが少し目を上げる。
「……ありがとうございます」
「こちらこそ続けてくれて助かっている」
ミレイが頷いて棚の補充に戻る。
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午前中、調合室の加熱側でフィアの仕込みを確認する。
今日から煮込み時間を伸ばしてもらっていて、フィアが鍋の温度に手を当てて確かめる。タイミングが昨日より正確だ。
「温度が合っている」
フィアが小さく頷く。
ソルが濾過室で手を動かす音がする。すり潰しの速度が一定になってきた。
(人が育っている)
それは確かだ。ただ売れなければ意味がない。
品質の問題じゃない。評判の問題だ。
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昼前に天秤座へ向かう。帳簿を持参する約束だ。
担当者が応接の部屋に通す。帳簿を渡すと、ページをめくりながら確認していく。
「製造日、本数、販売記録が揃っています。問題は見受けられません」
「粗悪品の流通元について、ギルドの調査はどうなっているか」
「現在、申告のあった複数件を照合しています。南東区の店舗名が一致する申告が昨日また二件入りました」
「それはうちとは別の店だ」
「はい。当ギルドとしても、申告の内容を慎重に区別して扱います。緑の雫については、現時点で品質基準の違反は確認されていません」
担当者が帳簿を返す。
「ただ、評判への影響については当ギルドが関与できる範囲に限界があります。自店での説明を強化されることをお勧めします」
「口頭説明の強化をしている。看板への明記は後日対応する」
「それは有効だと思います。当ギルドに証拠として提示できる書面が揃えば、今後の調査に役立てられます」
席を立ち、天秤座を出る。
夕方、店に戻る。
ミレイが「今日は十三人でした」と報告する。三日前は二十八人だった。
(十五人落ちた)
棚の残りを数える。淡く濁った三本、澄んだ四本。
売れ残りが増えている。
対策が要る。板を新しく作って内容を追記する——大工への依頼は口頭でできるが、文字を書ける人間が必要だ。
(リナが戻ったら、すぐに動く)
店の名前と製造者がここであることを明示し、品質保証の言葉も入れる。ミレイが説明で疲弊しないよう、看板が代わりに語るようにする。
石臼を押す音が調理場に響く。今夜の分、明日の棚に並べる分。
仕込みは止めない。
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街の南東区。商人の男が手伝いの男と向かい合っていた。
「天秤座が動き始めている」
「申告が増えているのは確かです。ただまだ証拠は揃っていない」
男が少し考える。
「販売の拠点を変える。今の場所はしばらく休止して、別の口から流す。路上の買取屋を三人使え。名前を出すな。行商の形にしろ」
「承知しました」
「それと」
男が窓の外を見る。
「緑の雫の看板と品質の説明を強化し始めたら、むしろ噂を広げやすくなる。品質に自信があるなら、なぜ疑われているのか——そこを突けばいい」
手伝いが頷く。
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【借金メモ・56話終了時点】
前話(55話)終了時:手元銀貨二枚と小銀貨二枚と大銅貨八枚・残債大銀貨二枚と銀貨九枚と小銀貨五枚と大銅貨二枚
56話収入:初級ポーション(作澄:緑)フィア作18本(大銅貨八枚×十八=小銀貨十四枚と大銅貨四枚)+初級ポーション(作淡濁:緑)ケイ作12本(大銅貨六枚×十二=小銀貨七枚と大銅貨二枚)=銀貨二枚と小銀貨一枚と大銅貨六枚
56話支出:従業員給与ミレイ(大銅貨六枚・クレーム対応手当込み)+フィア・ソル・充填×2(小銀貨一枚と大銅貨六枚)+食事分(大銅貨一枚)=大銅貨二十三枚
残債充当:銀貨四枚と小銀貨一枚と大銅貨六枚→残債大銀貨二枚と銀貨九枚と小銀貨五枚と大銅貨二枚から充当→大銀貨二枚と銀貨五枚と小銀貨三枚と大銅貨六枚
ケイの手元:大銅貨五枚
残債:大銀貨二枚と銀貨五枚と小銀貨三枚と大銅貨六枚
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【所持アイテムメモ】
ポーション類
初級ポーション(作淡濁:緑) × 6本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級ポーション(作澄:緑) × 4本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級ポーション(作濁:黄緑) × 大瓶3本(保管中)
素材類
シロクサ乾燥葉 × 約100枚
ハコネソウ生葉 × 約65枚
イヤシゴケ乾燥粉 × 約70g
道具類
調合道具一式(購入済み) × 石臼・土鍋・計量皿一式×2組
保存瓶 × 約15本(残)
大保存瓶 × 3本(保管中)
採用・勤務中
販売員:ミレイ(女・20代前半)
生産者A(加熱担当):フィア 煮込み時間延長開始
生産者B(濾過担当):ソル
充填作業員×2
天秤座
帳簿提出済み・品質基準違反なしと確認
採取クエスト発行中
不在
リナ:境界の森ダンジョン(数日・魔物よけキャンプ装備持参)
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