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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第2章

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第54話『粗悪品』

朝、調合室の加熱側に入るとフィアがすでに計量を始めていた。


「昨日と同じ手順でいい」


フィアが頷く。


「ソルに今日は別の手順を教える。加熱が終わり次第、声をかけてくれ」


第四鐘過ぎ、フィアが廊下越しに声をかけてきた。


「加熱が終わりました」


「分かった。続きは自分でやってくれ」


自分の鍋を火から外して、濾過室へ回る。


ソルが小窓の前で待っていた。前日と同じ位置に立っている。


「今日は手順が変わる。昨日教えた濾過に、一つ工程を加える」


ソルが静かに頷く。


「昨日の濾過は繊維を取り除くだけだった。今日教えるのは、濾過しながら布の上で繊維をすり潰す工程だ。繊維が細かくなることで飲み心地が変わる。昨日出来上がったものと、今日出来上がるものの違いを最後に確認してくれ」


布を広げて容器を傾け、ゆっくり流し込みながら布の上の繊維を木匙の腹でゆっくり押す。力は入れない——繊維を断ち切るのではなく、潰す。


「押す力は最小限でいい。強く押すと布が破れる。ゆっくり、一方向に動かすだけだ」


ソルが同じように試みる。最初の一押しが少し早かった。


「もっとゆっくり」


ソルが速度を落とす。布の上の繊維が均等に広がっていく。


「そうだ」


液体が落ちていく。前日より色がわずかに淡い。


(分かっている)


ソルが容器を持ち上げて光に透かす。前日の仕上がりと見比べている。


「違いが出ているか」


「出ています」


「それがすり潰しの効果だ。これが今後の手順になる」


加熱側に戻ると、フィアが二バッチ目を仕込んでいた。石臼の音が一定のリズムを刻んでいる。


自分の鍋の状態を確認してソルに渡す。午後の量産が動き始める。


---


昼前に天秤座へ向かう。


受付で用件を伝える。採取クエストの発行だ。


「シロクサの乾燥葉を二百枚、ハコネソウの生葉を百三十枚、イヤシゴケの乾燥粉を二百グラム。買取価格はシロクサ束十本を小銅貨四枚、ハコネソウ束十枚を小銅貨七枚、イヤシゴケ乾燥粉三十グラムを大銅貨二枚で」


担当者が少し目を上げる。


「相場より高めですが」


「構わない。量が必要だ」


受付が書き留める。クエスト手数料として小銅貨三枚を払う。


掲示板に貼り出される。ガッシュたちが取るかどうかは分からないが、取ってくれれば助かる。


---


同じ日の午後、充填作業員の面談をする。


二名が来ていた。一人は四十代の女で目線が落ち着いていて、もう一人は二十代の男で手に赤土の跡が残っており農作業か何かをしていたらしい。


二人に同じことを聞く。


「単純な作業だ。薬液をポーション瓶に移す。慎重に、正確に、丁寧にできるか」


女が「できます」と答える。男が「はい」と答える。


「今日から採用する。日当は大銅貨三枚。第四鐘から第七鐘まで。明日から来てくれ」


二人が頷く。


夕方、フィアとソルが帰る前に声をかける。


「今日の出来を確認した。問題ない」


少し間を置く。


「フィア、明日は煮込み時間を変える。今日より長くなる。やり方は明日教える」


フィアが頷く。ソルはそのまま黙っている。


夜、調理場で仕込みをしながら帳簿を確認する。


手元が銀貨三枚を超えたので、リナへの返済を始める。今日中に帳簿に記録し、リナが戻ってきたときに差し出す分を手元に置いておく。


(仕組みが動いている。ただ何かが足りない気がする)


それが何かはまだ分からない。


---


街の南東区。ポーション専門の卸問屋の裏手に、三人の男が集まっていた。


一人は五十がらみで、商人の格好をしている。


「緑の雫の売れ行きはどうだ」


若い手伝いが答える。


「昼過ぎには淡く濁った方が切れます。澄んだ方も夕方には」


男が鼻から息を出す。


「小僧が一人で仕込んでいたときは笑えた。今は従業員を雇って体制を作り始めている」


もう一人の男が口を開く。


「うちの商品が出てる。ただ売れ行きが」


「分かってる」


男が短く遮る。


うちの商品——外見だけ似せた初級ポーションで、色だけ淡く濁った緑に合わせた代物だ。成分の配合は端折っていて、見た目は緑の雫の主力品に近く駆け出しなら掴まされる。


「客が戻ってくる。一本飲んで効かなければ文句を言いに来る。そこが問題だ」


手伝いが続ける。


「三人、既に戻ってきました。返金は拒否しましたが」


男は答えない。


(緑の雫の評判と、うちの粗悪品を混同させる)


それが狙いだった。質の悪いポーションが市場に出回り、どこのポーションか分からなくなれば噂が広がって緑の雫にも疑念が向く。


ただ、うまくいっていない。


「緑の雫の連中が積極的に品質の話を客にしている。見た目が違うと説明されている」


男が立ち上がる。


「分けて考えろ。今は仕込みを増やすより、評判を揺さぶる方が先だ」


三人が散る。


---


【借金メモ・54話終了時点】

前話(53話)終了時:手元銀貨一枚と小銀貨七枚と大銅貨七枚・残債大銀貨三枚と銀貨三枚と小銀貨二枚と大銅貨五枚

54話収入:初級ポーション(作澄:緑)フィア作18本(大銅貨八枚×十八=小銀貨十四枚と大銅貨四枚)+初級ポーション(作淡濁:緑)ケイ作12本(大銅貨六枚×十二=小銀貨七枚と大銅貨二枚)=銀貨二枚と小銀貨一枚と大銅貨六枚

54話支出:従業員給与ミレイ・フィア・ソル(小銀貨一枚と大銅貨四枚)+食事分(大銅貨一枚)=小銀貨一枚と大銅貨五枚

残債充当:銀貨三枚と小銀貨七枚と大銅貨三枚(手元が銀貨三枚を超えたため返済開始)→残債大銀貨三枚と銀貨三枚と小銀貨二枚と大銅貨五枚から充当→大銀貨二枚と銀貨九枚と小銀貨五枚と大銅貨二枚

ケイの手元:大銅貨五枚

残債:大銀貨二枚と銀貨九枚と小銀貨五枚と大銅貨二枚

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【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 6本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作澄:緑) × 4本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大瓶3本(保管中)


素材類

 シロクサ乾燥葉 × 84枚

 ハコネソウ生葉 × 56枚

 イヤシゴケ乾燥粉 × 82g


道具類

 調合道具一式(購入済み) × 石臼・土鍋・計量皿一式×2組

 保存瓶 × 26本(残)

 大保存瓶 × 3本(保管中)


採用確定

 販売員:ミレイ(女・20代前半)勤務中

 生産者A(加熱担当):フィア 研修2日目完了

 生産者B(濾過担当):ソル 研修2日目完了・すり潰し工程習得

 充填作業員×2:採用確定・明日より勤務開始


天秤座

 注意処分(警告1回目):販売基準の明文化・掲示指示(対応済み)

 採取クエスト発行中(シロクサ200枚・ハコネソウ130枚・イヤシゴケ200g・相場より高め)


不在

 リナ:境界の森ダンジョン(数日・魔物よけキャンプ装備持参)

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読んでくださってありがとうございます。

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