第52話『段取り』
朝、食堂でリナと向かい合う。
「頼みたいことがある」
「また借金の話ね」
リナが椀を置く。
「まとめて借りたい。内訳を先に話す」
「聞くわ」
「大工に壁と小窓を作ってもらう。魔法建築だから安くはない。銀貨五枚前後はかかるだろう。次に魔法契約の費用が銀貨三枚から四枚半。月賃料の支払いも控えているし、従業員が増えた分の手元も必要だ」
リナが少し黙る。
「全部合わせると……大銀貨一枚と銀貨五枚程度、見ておいた方がいいわね」
「それだけ借りられるか」
リナが少し間を置く。
「分かった。ただ条件がある」
「聞く」
「手元に銀貨三枚以上たまったら返済を再開すること。帳簿に記録しておくから証書はいらない」
「構わない」
「それから」
リナが少しこちらを見る。
「また急ぎすぎてないか、たまに確認させてほしい」
「構わない」
リナが短く言う。
「よし。じゃあ動きましょう」
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その日の午前中、リナと一緒に大工のところへ向かう。
街の東側、炉火連合の近くに構える作業場で、五十代ほどの男が木材の端材を並べていた。ガウルと名乗る。
「調理場を仕切りたい。中央に壁を入れて、小窓を二箇所。扉付きで、片側から開閉できるもの。加えて充填用の作業台を一台」
ガウルが少し考える。
「魔法で施工するか」
「できるか」
「できる。ただ高くつく」
「構わない。ただし早く終わらせてほしい。明日中に」
「明日の夜には終わる。寸法を見せてくれ」
翌朝に調理場を見せる約束を取り付け、工賃は銀貨五枚で前払い半額・後払い半額と確認する。リナが代筆して手付けの銀貨二枚半を払う。
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翌朝、ガウルが調理場を見に来る。
寸法を確かめ、材料を確認してから口を開く。
「昼前には始める。夜には終わる」
そう言って出ていく。
その後、リナとともに天秤座へ向かう。
受付でリナが代筆する——フィアとソルとの雇用契約、秘密保持に関する取り決め、契約書の作成と保管。天秤座の担当者が内容を確認して手数料の大銅貨五枚を求め、払う。
「契約書は三部作成します。本人、雇用主、当ギルド保管用です」
しばらくしてフィアとソルが来る。
リナが二人それぞれに契約書の内容を読み上げ、担当者の促しでフィアが署名し、ソルが署名する。最後にリナが代筆でこちらの署名を入れる。
三部が分かれる。一部ずつ手元に残り、一部が天秤座に収まる。
初回の給与として、フィアとソルそれぞれに大銅貨五枚を払う。
「今日から採用だ。ただし実際の作業は工事が終わってから説明する」
二人が頷く。
天秤座を出て、そのまま充填作業員の追加募集を申請する。充填作業員二名・日当大銅貨三枚・読み書き不要の条件をリナが代筆して伝え、掲示料の大銅貨五枚を払う。
蒼天灯台へ向かう。
石段を上がると、前回と同じ男が扉を開けた。眼鏡の細身の男だ。
「また来た。今日は当事者を連れてきた」
男がフィアとソルを一度見る。
「二名か。来い」
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中でフィアとソルが向かい合って椅子に座る。天秤座で作成した契約書を男に渡す。
男が一度目を通す。
「これを元に魔法の契約書を作成する。内容は加熱と濾過の手順の開示禁止とする。これらを第三者に話そうとした場合、声が出なくなる。書いて伝えようとしても手が止まる。理解できたか」
フィアが返事をする。
「はい」
ソルが頷く。
男が羽根ペンを取り、帳簿から一枚の紙を引き出す。しばらく何かを書き込んでから、二人の前に置く。
「魔法の契約書だ。署名すると同時に術式が発動し、制約が発生する。内容を確認してから署名してくれ」
リナがフィアに内容を読み上げ、フィアがゆっくり署名する。続いてソルへ読み上げ、ソルが署名する。
男が二枚目を引き出し、同じ内容を記して雇用主側の署名欄をこちらへ向ける。リナが代筆で署名を入れる。
「完了。術式は双方の署名が揃った時点で発動済みだ」
「完了。費用は——一人目銀貨二枚半、二人目は半額で銀貨一枚と小銀貨二枚半。合わせて銀貨三枚と小銀貨七枚半。端数は切り上げて銀貨四枚でいい」
払う。
契約書の控えを受け取る。天秤座の契約書と合わせて二枚になった。
石段を降りながら、フィアとソルが並んで歩く。会話はない。
(これで、外には漏れない)
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夜、食堂で夕飯を食べていると、ガウルから使いが来る。
「工事が終わったそうです」
リナと一緒に店へ向かう。
調理場の入り口を開けると、中央に板壁が立っていた。厚みがあってしっかりした造りで、左右の小窓には木製の扉と蝶番がつき、片側から開けて差し込む受け渡し構造になっている。
小窓を一度開けて、閉める。動きに引っかかりがない。
作業台は濾過側の壁際に一台。高さが調理台と合っている。
(きちんとした仕事だ)
ガウルが壁際で腕を組んでいる。
「問題ないか」
「ない。いい仕事だ」
「後払いの銀貨二枚半を」
払い、リナが小声で言う。
「思ったより早いわね」
「魔法だからな」
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店に戻る。
明日からフィアに加熱工程を教え、ソルには濾過工程を教える。まず一人で仕込む手順を見せてから、工程を分けていく。
フィアには初級ポーションの加熱から始め、ソルには作った原液を渡して濾過の手順を説明しながら進める。
(これでようやく動き始める)
手元は薄い。ただ仕組みは揃いつつある。
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【借金メモ・52話終了時点】
前話(51話)終了時:手元銀貨三枚・残債大銀貨二枚と銀貨一枚と小銀貨二枚
52話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)5本(大銅貨六枚×五=大銅貨三十枚)+初級ポーション(作澄:緑)3本(大銅貨八枚×三=大銅貨二十四枚)=小銀貨五枚と大銅貨四枚
新規借用:大銀貨一枚と銀貨五枚
52話支出:大工前払(銀貨二枚半)+天秤座契約手数料(大銅貨五枚)+初回給与フィア・ソル(小銀貨一枚)+充填作業員募集掲示料(大銅貨五枚)+魔法契約費(銀貨四枚)+大工後払(銀貨二枚半)+食事分(大銅貨一枚)=銀貨九枚と小銀貨二枚と大銅貨一枚
残債充当:銀貨六枚と小銀貨三枚と大銅貨三枚→残債大銀貨二枚と銀貨一枚と小銀貨二枚から充当→大銀貨一枚と銀貨四枚と小銀貨八枚と大銅貨七枚
ケイの手元:銀貨三枚
残債:大銀貨一枚と銀貨四枚と小銀貨八枚と大銅貨七枚(返済は手元銀貨三枚超になったら再開)
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【所持アイテムメモ】
ポーション類
初級ポーション(作淡濁:緑) × 4本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級ポーション(作澄:緑) × 3本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)
初級ポーション(作濁:黄緑) × 大瓶2本(保管中)
素材類
シロクサ乾燥葉 × 18枚
ハコネソウ生葉 × 12枚
イヤシゴケ乾燥粉 × 20g
道具類
調合道具一式(購入済み) × 石臼・土鍋・計量皿一式
保存瓶 × 4本(残)
大保存瓶 × 2本(保管中)
採用確定
販売員:ミレイ(女・20代前半)勤務中
生産者A(加熱担当):フィア 魔法契約完了・翌日より研修開始
生産者B(濾過担当):ソル 魔法契約完了・翌日より研修開始
充填作業員×2:天秤座掲示中(応募待ち)
店舗改修
調合室仕切り壁・小窓×2・充填作業台:設置完了
天秤座
注意処分(警告1回目):販売基準の明文化・掲示指示(対応済み)
人材募集掲示中(充填作業員×2・日当大銅貨三枚)
リナへの借用
今回借用:大銀貨一枚と銀貨五枚
返済条件:手元銀貨三枚以上になったら再開
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