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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第2章

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第49話『三つの用事』

朝、リナを食堂で捕まえる。


「看板を書いてほしい。昨日、天秤座から販売基準を掲示しろと言われた」


リナが椀を置く。


「内容は」


「一人一本まで。駆け出し冒険者を優先。複数本の購入は相談可。それだけでいい」


リナが羽根ペンを取り出す。


「紙は」


「木板を一枚買ってくる」


店の近くの雑貨屋で小ぶりの木板を買い、リナに渡す。


リナが数分で書いて返す。


カウンターの正面、棚の横に立てかける。


(これで一つ片付いた)


天秤座から基準の明文化を指示されていた。書いて出しておけば、次に文句が来ても根拠になる。


棚を確認すると、大きめの保存瓶が一本、棚の端に置いてある。


中に試作残りの濁った初級ポーションが溜まっていて、あと五、六本分入れれば満杯になる。二本目を今日中に錬金術師ギルドで買っておく。


淡く濁った初級ポーション六本と初級ポーション四本を棚に並べる。今日の在庫だ。


---


第三鐘の少し前に扉を開けると、すぐに駆け出しが来て、また来て、昼前には淡く濁った方が五本出る。残りは初級ポーション四本で、午後にはおそらく全部出る。


今日やるべきことは多い。


天秤座の注意処分が積み重なる前に動かなければならない。販売員の手配、アルガスへの返答、魔術師ギルドへの確認——三つ全部、今日中だ。


---


昼前、リナが店に顔を出す。


「今日、時間があるか」


リナが少し目を細める。


「用事が重なったのね」


「三つある」


「言って」


「天秤座で販売員の募集をかけたい、アルガスへの断りを入れたい、魔術師ギルドに行きたい」


「……一日で全部?」


「できるだけ今日中に動きたい」


リナが少し間を置く。


「分かった、付き合う」


---


最初に天秤座へ向かう。


受付でリナが代筆する。販売員一名、一日大銅貨四枚、期間は五日、読み書き不要で売り買いのやり取りができる者、と伝える。


受付が確認して掲示料の大銅貨五枚を求める。払う。


「三日間掲示します。応募があれば連絡が来ます」


それだけだ。外に出ると、リナが口を開く。


「日当四枚は相場の上限ね」


「早く来てほしい。少し高くした」


リナが頷く。


---


次はアルガスのところへ向かう。


仕入れ業者アルガスの連絡先は、口頭で薬屋通りの奥にある青い扉の建物と教えてもらっていた。


扉を叩くと中年の男が出てくる。四十代、落ち着いた眼つきで——また別の商人が出てくるかと思っていたが、アルガス本人らしい。


「来たか」


「返答に来た」


「断りか」


「そうだ」


アルガスが少し間を置く。表情は変わらない。


「理由は」


「製造方法を外に出したくない。弟子を育てるということは、手順を全部渡すということだ」


「分業の話は考えたか」


「考えた。ただ担当者同士が話せば全部揃う。根本的な解決にならない」


アルガスが短く言う。


「なるほど」


「では、別の形を提案しよう。製造方法は渡さなくていい。お前さんが作ったものだけを買い取る形にして、販売と流通はこちらが担当する。比率は変わるが、お前さんは作るだけでいい」


「それでも断る」


「理由は」


「今は販路を絞りたい。誰に届くか分からない形で売ることに、まだ踏み切れない」


アルガスがこちらをしばらく見る。


「……お前さん、ただのポーション売りじゃないな」


返答しない。


「分かった。今回は引き下がる」


アルガスが続ける。


「ただ気が変わったらいつでも来い。提案は残しておく」


扉が閉まり、リナが小声で言う。


「思ったより素直に引いたわね」


「あの人は急かさない。それが方針だろう」


---


最後に魔術師ギルドへ向かう。


街外れの高台へ続く石段を上がると塔が見えてくる。近づくと空気がわずかに変わる感覚があり、薬品の刺激臭とは違う静かで重い空気だ。


扉を叩くと、三十代ほどの細身の男が顔を出す。薄い眼鏡をかけていて、こちらを一度見る。


「何の用か」


「魔法契約について聞きたい。雇用に使えるかどうかを確かめに来た」


男が少し考えてから、顎で奥を示す。


「入れ」


中は薄暗く、棚に魔道具と帳簿が並んでいる。男は椅子に座り、こちらを見る。


「どういう内容の契約がしたいのか」


「雇う人間に、製造方法を外に漏らせないようにしたい」


「開示禁止の術式ね」


男が帳簿を一枚引き出す。


「話した場合に声が出なくなる。書いて伝えようとしても手が止まる。それで対応できるか」


「それで十分だ。ただ確認がある」


「何だ」


「分業で工程を分けた場合——担当者Aが粉砕だけを知り、担当者Bが加熱だけを知る。AがBにその工程を話そうとしたとき、術は発動するか」


男が少し間を置く。


「発動する。契約した内容を第三者に漏らそうとした瞬間、声が止まる。工程を分けてそれぞれが別の契約を結べば、お互いに自分の担当分を話すことができなくなる」


(つまり分業と組み合わせれば機能する)


「開示禁止のみで十分だ。担当者を二名として、それぞれが自分の工程しか知らない形にする」


「それが現実的な判断だろう」


男が帳簿を引き出す。


「費用は」


「一人銀貨二枚から三枚。二人目は半額だ。施術は当事者全員が揃う必要がある」


頭の中で計算すると、二人なら銀貨三枚から四枚半ほどかかり、今の手元では少し足りない。


「分かった。改めて来る」


---


外に出ると夕方に差し掛かっていた。石段を降りながら、リナが口を開く。


「費用、足りないわよね」


「銀貨三枚から四枚半かかる。少し足りない」


「また借りるの?」


「頼みたい」


リナがため息をつく。


「何枚」


「確定したら言う。おそらく銀貨三枚以上」


「……分かった。ただ、人を雇って魔法契約まで一気にやろうとしてる。ポーション販売を広げるのが少し急ぎすぎじゃない?」


「急がないと間に合わない」


「そういうことを言ってるんじゃないわよ」


リナが少し立ち止まって、こちらを見る。


「ねえ、ケイ。一個だけ聞いていい」


「何だ」


「全部上手くいったとして、どこに向かいたいの。ポーションを売り続けること? それとも別の何かがある?」


少し間を置く。


「借金を返す。それが最初だ」


「それは分かってる。その先の話」


石段の下で風が動く。


「……まだ分からない。ただ、今やってることが無駄にはならないと思ってる」


リナが短く言って、また歩き始める。


「そう」


答えになっていないことは分かっている。ただ今は、それが正直なところだ。


---


【借金メモ・49話終了時点】

前話(48話)終了時:手元銀貨2枚と小銀貨3枚と大銅貨3枚・残債大銀貨2枚と銀貨1枚と小銀貨9枚と大銅貨9枚

49話収入:初級ポーション(作淡濁:緑)5本(大銅貨6枚×5=大銅貨30枚)+初級ポーション(作澄:緑)4本(大銅貨8枚×4=大銅貨32枚)=小銀貨6枚と大銅貨2枚

49話支出:天秤座掲示料(大銅貨5枚)+食事分(大銅貨1枚)+大保存瓶1本(大銅貨5枚)=小銀貨1枚と大銅貨1枚

残債充当:なし(手元が銀貨3枚未満のため)

ケイの手元:銀貨2枚と小銀貨8枚と大銅貨4枚

残債:大銀貨2枚と銀貨1枚と小銀貨9枚と大銅貨9枚(魔法契約費用・リナへの新規借用が確定見込み)

---

【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 5本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作澄:緑) × 3本(今夜仕込み分・翌朝棚補充予定)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大瓶1本分(保管中)+大瓶2本目(使用開始)


素材類

 シロクサ乾燥葉 × 35枚

 ハコネソウ生葉 × 22枚

 イヤシゴケ乾燥粉 × 38g


道具類

 調合道具一式(購入済み) × 石臼・土鍋・計量皿一式

 保存瓶 × 6本(残)

 大保存瓶 × 2本(1本保管中・1本使用開始)


天秤座

 注意処分(警告1回目):販売基準の明文化・掲示指示

 人材募集掲示中(販売員・日当大銅貨4枚・5日間・3日掲示)


魔術師ギルド

 開示禁止契約(レベル1)確認済み:1人銀貨2〜3枚、2人目半額

 次回:担当者2名連れて施術予定


接触

 仕入れ業者アルガス:断り入れ完了・提案は継続保留


---

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次回もよろしくお願いします!

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