表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/51

第42話『開店準備』

翌朝、カウンターと棚が届いた。木工所の職人が二人来て、壁に打ちつけ、脚を固定する。ほどなく終わる。


職人が去ってから、部屋の中を見回す。


棚が壁を埋めている。カウンターが入口近くに据わっている。椅子が一脚、内側にある。ランタンが二つ、壁の金具に掛けてある。


形になった。


カウンターに手を置く。木の感触がある。まだ新しい匂いがする。


ただ棚が空だ。


---


その日の午後、安宿の部屋を引き払う。


荷物は少ない。メモ帳、筆記具、着替え数枚、調合道具一式の袋。そして大きめの保存瓶——濁った初級ポーションが入ったままだ。まだ残してある。


宿の受付に鍵を返す。硬貨を数える音がする。老人が帳簿に何かを書く。それだけだ。


廊下を歩く。

板が軋む。

最後だ。


薬屋通りの店へ荷物を運ぶ。

調理場の隅に道具を並べる。

保存瓶を棚の一番奥に置く。


手持ちのポーションを棚の端に並べる。淡く濁った初級ポーション五本、初級ポーション一本。開店初日の足しにする。


(ここから始める)


---


翌朝から調合を再開する。その前にリナを捕まえる。


「また借りたい」


リナが少し目を細める。「いくら」


「保存瓶三十本と素材代。合わせて小銀貨五枚と大銅貨六枚くらいだ」


「……また増えるの」リナが小さく息を吐く。「まあ、開店したら返せるわね」


「返す」


「分かってる」リナが立ち上がる。「利息は払って」


「分かってる」


目標は三十本。淡く濁った初級ポーション二十本、初級ポーション十本。調合道具の残りは十日を切っている。一日に安定して作れるのは六本から八本。計算は合う。ただ素材が足りない。


ハコネソウが問題だ。ダンジョン解禁で値段が上がっている。四束買えば小銀貨一枚を超える。


三日で十八本仕込む。淡濁十三本、初級ポーション五本。


残り十二本。ハコネソウがあと五束は要る。


薬草屋に行く。棚が空だった。「入荷が追いついていません」と店の女が言う。「いつ入る」と聞くと「分かりません」と返ってくる。


別の薬草屋を二軒回る。どちらも同じだ。


---


夜、数字を並べる。


今ある素材で作れるのは三本。残り目標まで九本足りない。薬屋通りの在庫が戻るまで待てば間に合わない。調合道具の期限が先に来る。


頭の中で地図が広がる。


境界の森。


スタンピードが起きた森だ。

冒険者ギルドがダンジョン探索に動いてから、

採取者は誰も近寄らない。


ただ誰も採取に行かないなら、薬草はそのまま残っている。


(一度だけ)


---


夜明け前、東門を出る。


空が白む前の時間帯だ。門番が一人、槍を持ってこちらを見る。「採取ですか」と聞く。「そうだ」と答える。止めない。


森の縁に入ると、空気が変わる。


静寂の森とは違う。

湿度が高い。地面が柔らかい。

足音が吸い込まれていく。


鳥の声がない。


一度だけ解析を使う。


魔力の流れが濃い。


薬草の生える場所は大体分かる。

これ以上は使わない。


使いすぎると危険だ。

目と耳だけで進む。


シロクサが密生している。手が止まる。これほどの量は静寂の森では見たことがない。摘む。袋が膨らんでいく。

ハコネソウを見つける。太い。葉の色が濃い。静寂の森のものより明らかに育ちがいい。摘む。葉が厚い。これは質がいい。

イヤシゴケも多い。岩の表面を覆っている。削る。量だけはある。


袋が重くなってきた頃、枝が折れる音がした。


右前方。


体が止まる。


音の方向を見る。木立の間から、影が動く。大きい。ウルフではない。別の何かだ。


(逃げる)


判断より先に体が動く。来た方向へ走る。

足音を殺して、速く。

後ろで重い足音が一度鳴る。

振り返らない。


東門が見えたとき、後ろの気配が消えていた。森の縁で止まった。


足が少し震えている。

今気づいた。


門番が「どうしました」と言う。息が上がっている。「何でもない」と答える。声が少し掠れた。


---


荷物を下ろして袋の中を確認する。


シロクサ三十枚以上、ハコネソウ十五枚以上、イヤシゴケ十グラム近く。十分すぎる量だ。


ただ背中がまだ冷えている。


---


食堂に入ったとき、ガッシュが入口近くのテーブルに座っていた。


目が合う。


ガッシュが立ち上がる。「ケイ」


「ガッシュ」


「今朝、東門から出るのを見た」ガッシュが一歩近づく。声が低い。「境界の森か」


黙る。


「境界の森か」


「そうだ」


ガッシュの顔が変わる。怒りというより、何か別のものだ。


拳がテーブルに落ちる。


木が鳴る。椀が揺れる。汁が少しこぼれる。


椅子が引かれる。


「座れ」


座る。


「何のために行った」


「素材が足りなかった。薬草屋の在庫が切れていた」


「だから境界の森に一人で」


「誰も採取に行かないから残っている。ハコネソウが大量に取れる。質もいい」


「そういう話をしているんじゃない」ガッシュが低い声で言う。「あそこはスタンピードが起きた森だ。今もダンジョンに繋がっている。一人で入る場所じゃない」


「逃げた」


「逃げたから今ここにいる。逃げられなかったら」


返す言葉がない。


ガッシュが椀を持つ。しばらく黙っている。「次は言え。俺たちがいる」


「分かった」


「分かったじゃない。次は必ず言え」


「分かった」


---


夕方、リナが食堂に来たとき、ガッシュがすでに話していた。


リナがこちらを見る。何も言わない。テーブルに座って、メモ帳を出す。


「手を出して」


メモ帳を開く。


「練習の前に聞く」リナがペンを置く。「次にそういうことをするなら、先に言って」


「ガッシュと同じことを言う」


「同じことだから言ってるの」リナが静かに言う。「あなたが死んだら、借金誰が返すの」


少し間がある。


「……返す」


「そう」リナがペンを取り直す。視線が手元に落ちる。

「じゃあ練習」


---


翌日から三日、調合を続ける。境界の森の素材で残り十二本を仕込む。


境界の森の素材は質がいい。同じ手順でも、色が違う。淡濁の緑が、いつもより少し深い。解析を使わなくても分かる。


三日目の夕方、棚に並べる。


淡く濁った初級ポーション二十本。初級ポーション十本。


三十本。


棚が埋まった。


少し見る。


壁一面に並んだ瓶が、

ランタンの光を淡く透かしている。


看板を外に立てかける。リナが書いた「緑の雫」の文字が、夕暮れの光を受けている。読めない。ただ形は覚えた。


明日、開く。


---

【借金メモ・42話終了時点】

前話(41話)終了時:手元大銅貨数枚・残債大銀貨一枚と小銀貨五枚

42話収入:なし(収入ゼロ)

42話支出:保存瓶30本(小銀貨一枚と大銅貨五枚)+ハコネソウ追加(小銀貢四枚)+シロクサ補充(小銅貨数枚)+調合道具延長5日(大銅貨一枚と小銅貨五枚)=小銀貨五枚と大銅貨六枚

新規借金リナ:小銀貨五枚と大銅貨六枚

残債合計:大銀貨一枚と小銀貨五枚+小銀貨五枚と大銅貨六枚=大銀貨一枚と小銀貨十枚と大銅貨六枚→大銀貨二枚と大銅貨六枚

ケイの手元:ほぼ零

残債:大銀貨二枚と大銅貨六枚

---

【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作淡濁:緑) × 25本(新規20本+既存5本)

 初級ポーション(作澄:緑) × 11本(新規10本+既存1本)

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 大瓶1本分(保管中・用途未定)


素材類

 シロクサ乾燥葉 × 約10枚(残)

 ハコネソウ生葉 × 約5枚(残)

 イヤシゴケ乾燥粉 × 約十二g(残)


道具類

 調合道具一式(借り物) × 残5日(延長済み)

 保存瓶 × 0本(全使用)


店舗

 店舗兼住居「緑の雫」(南西区・薬屋通り手前)

  月賃料:銀貨一枚と小銀貨七枚(調理場使用料込み)

  看板設置済み・開店前夜


登録済み

 商業ギルド「天秤座」露店区画(妨害により一時停止中)

読んでくださってありがとうございます。

続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや★評価で応援していただけると嬉しいです。更新の励みになります。

次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ