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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第2章

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第33話『手を出す理由』

前回と同じ道を歩いているのに、足の置き場が少し違う。あのときは地面を見ながら歩いていた。今は前を向いている。それだけのことだが、ガッシュが「前より速くなったな」と呟く。


「地形を覚えた」


「それだ。解析なしで動ける」


「じゃあ解析いらなくなるんじゃない」ミーナが口を挟む。


「そうなったらそうなったで助かる」頭が痛くならない。


テオが鼻を鳴らす。


シロクサを探すのにまだ時間がかかる。前回より速いのは確かだが、ガッシュの目とはまだ差がある。川沿いのイヤシゴケは場所を覚えているので迷わない。クエストの規定量はシロクサとイヤシゴケで達した。ただハコネソウは今日は見つからなかった。次の調合用の素材が足りない——そこまで計算して、ようやく一息つく。


帰り道、視界の端が揺れた。


音でも臭いでもない。何もない方向に、何かが引っかかる。解析を使ったわけではない。ただ、いる。


「ガッシュ」声を抑える。「右の茂みに何かいる」


ガッシュがすぐ止まる。手が剣の柄に触れる。テオも止まっている。全員が呼吸を潜める。


枝が折れた。重い足音。風が変わった瞬間、鼻を刺すものがある。血と泥が混ざったような、生々しい臭いだ。


茂みが揺れ、何かが飛び出す。


ウルフだった。


「一匹だ」ガッシュが低く言う。目がすでに動いている。


剣を抜きながら「ミーナ、ケイと下がれ。テオ、右」


テオはすでにナイフを持っている。いつ抜いたのか見えなかった。


ミーナが袖を引く。木の陰まで下がる。心拍が上がっている。自分でも気づかなかった。


ガッシュが一歩踏み出す。重心を低くした、大きな一歩だ。ウルフの黄色い目がガッシュを捉える。テオが気配を消しながら右へ回り込む——ウルフの死角へ、じわじわと。


ウルフが跳んだ。


速い。ずっと速い。ガッシュが身を沈めて横へ滑る。牙が耳元を掠めた——そう見えた。着地の瞬間を狙い、テオが後脚の腱にナイフを走らせる。短い唸り声。ウルフの体が傾ぐ。


「今だ」


ガッシュが踏み込む。剣が首元を薙ぐ。


ウルフが地面に落ちた。前脚が二度引っ掻いて、止まる。


ミーナが袖を離す。指が少し震えている——俺の手だ。木の陰に隠れていただけなのに。


「怪我は」ミーナがガッシュを見る。


「ない」ガッシュが剣を拭く。「テオは」


首を振る。


二人の動きは落ち着いている。剣を拭う手も、呼吸も、さっきと変わらない。


倒れたウルフを見る。リナが戦うのを遠くから見たことはある。あのときと今とでは、距離が全然違う。


「解体するぞ。袋に余裕はあるか」


「ある。ただ解体はやったことがない。今教えてもらえるか」


ガッシュが剣を鞘に収める。「いいぞ。どうせちゃんと覚えておいた方がいい。手を動かしながら説明する」


二人がウルフを仰向けにする。ナイフを入れながらガッシュが「まず魔石を取り出す。胸の辺りだ」と言う。「光ってるから分かる」


青白い光が見える。ガッシュが取り出してミーナに渡す。布で包まれて袋に消える。


血の臭いが上がってくる。土と混ざって、鼻の奥に積もるような臭いだ。思ったより平気だった。


「次は毛皮だ。丁寧に剥がせ。傷をつけると値が下がる」テオが端を引っ張りながら、剥がれていく方向を手で示す。


「牙は根元から抜く。これも傷をつけたら終わりだ」専用の道具で慎重に抜く。ガッシュの手が止まることはない。


ミーナが肉を腿と背に分ける。採取の仕分けと同じ手つきだ。


「肉も売れるのか」


「癖が強いが買う店はある。串焼きにすると旨い。一塊で大銅貨二、三枚だ」


「全部でいくらになる」


指を折りながらガッシュが「毛皮が大銅貨六枚、牙が一枚ずつ、魔石が五枚、肉が二塊で四枚。スタンピード後は討伐数が多すぎて値崩れしてる」と言う。「全部で大銅貨十七枚ってとこだな」


頭の中で四等分する。


(大銅貨四枚)


採取クエストの倍だ。ただ手が震えている。


「はぐれの遭遇は多いのか」


「この森は元々縄張りが安定してない。季節の変わり目になると群れからはじき出されたやつが迷い込んでくる」周囲を見回してからガッシュが続ける。「秋口は特に注意が必要だ」


「複数だったら」


「逃げる。一匹で開けた場所なら対応できる。それ以外は逃げる。迷ったら逃げる」


メモ帳に書き留める。「今日みたいな条件でも、採取者が手を出すのは普通なのか」


少し考えてからガッシュが口を開く。「スタンピード前だったら俺も逃げてた。一匹で開けた場所、俺たちの人数——条件が揃ってたから手を出した。どれか一つ欠けてたら逃げる」


「今日は条件が揃ってたということか」


「ああ。ただそれが分かるのも場数を踏んでるからだ。場数がない間は逃げる方が正しい」


「分かった」


帰り道は静かだ。「今日はラッキーだったね」とミーナが言う。テオが素材の袋を軽く持ち上げる。


自分の右手を見る。もう震えていない。震えていたのに今はもう動く。それだけのことが、少し妙だった。


ギルドで提出する。受付が数字を告げ、ガッシュが硬貨を受け取って四等分する。


「ケイの分だ」


手のひらに乗った重さが、いつもと違う。金額のせいだけではない気がした。


薬草売りの露店に寄る。ハコネソウを束で二つ買う。


「小銅貨八枚です」


払って受け取る。これで素材が揃う。


---

【借金メモ・33話終了時点】

前話(32話)終了時:手元大銅貨7枚・残債小銀貨9枚・大銅貨3枚

33話収入:採取報酬(大銅貨2枚)+ウルフ素材(大銅貨4枚)=大銅貨6枚

33話支出:宿+食事1日分(大銅貨3枚)+ハコネソウ2束(小銅貨8枚)

残債充当:大銅貨3枚→残債小銀貨9枚

ケイの手元:大銅貨9枚・小銅貨2枚

残債:小銀貨9枚

---

【所持アイテムメモ】

ポーション類

 初級ポーション(作濁:黄緑) × 1本(手元保留・検証手段未定)


素材類

 シロクサ乾燥葉 × 30枚

 ハコネソウ生葉 × 20枚

 イヤシゴケ乾燥粉 × 20g


道具類

 調合道具一式(借り物) × 残7日

 保存瓶 × 0本

はぐれウルフと遭遇する回です。

解析を使わずに気配を察知したケイです。体が森に慣れてきています。

ガッシュとテオが一匹を撃退します。ケイとミーナは下がって待ちます。間近で戦闘を見て手が震えていました。

そのままウルフの解体を教わります。魔石・毛皮・牙・肉で大銅貨十七枚、四等分でケイの取り分は四枚です。採取クエストの倍になりました。

「条件が揃ったから手を出した。どれか一つ欠けたら逃げる」というガッシュの言葉をメモ帳に書き留めます。

ハコネソウが手に入って次の調合の素材が揃いました。

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