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元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第1章

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第19話『間に合え』 Side:リナ

路地を駆けながら、リナは前方の暗闇を睨み続けた。

ウィンドステップで城壁を越えた直後から、街は別の戦場になっていた。遠くで怒鳴り声、金属の激突音、魔物の唸りが交差する。巡回のDランク冒険者たちが流れ込んだ魔物と各所でぶつかっているのだ。路地の角を曲がるたびに、その喧騒が近づいたり遠ざかったりする。

(Dランクがオークと鉢合わせたら、まずい)

頭の中で地図を描きながら走る。東門から大聖堂までの最短ルート。途中に広い通りが二本、路地が三本。どこかに魔物がいれば当然ぶつかる。

前方の路地から、甲高い悲鳴と魔物の咆哮が重なって聞こえた。角を曲がると、若いDランクの冒険者二人がカブウルフ三頭に追い詰められていた。一人は壁際に追い込まれ、もう一人は必死に剣を振るうが、突進を受けるたびに体勢が崩れる。重い体格のカブウルフに、Dランクが正面から受け止めるのは精一杯だ。

「下がれ!」

リナが叫ぶと、三頭が一斉にこちらへ向いた。先頭が低く体を沈め、突進の構えを取る。方向転換ができない——それがカブウルフの弱点だ。

リナはあえて正面から踏み込み、衝突寸前でウィンドステップを一瞬だけ発動して体を横へ流した。突進が空を切る。流れるように剣を振り、無防備になった首筋を一閃する。一頭が崩れ落ちた。

残る二頭が向き直る瞬間、リナはエアブレードを連続で放つ。見えない風の刃が喉を捉え、音もなく二頭が倒れる。三頭合わせて十秒とかからなかった。

二人の冒険者が呆然とリナを見ている。「お前たちは後方に下がれ。オークには近づくな、死ぬぞ」「……は、はい!」

返事を待たずに走り出す。時間がない。

さらに先の通りでは別のDランク三人がウルフの群れと乱戦していた。五頭、いや六頭。三人では多すぎる。一人が腕を庇いながら後退している。

リナは走りながらエアブレードを二連射し、後退していた冒険者に食らいついていた二頭を仕留めた。そのまま速度を落とさず群れの懐へ飛び込み、剣を横薙ぎにする。一頭が吹き飛び、隣の一頭が背後に回り込もうとした。

「左!」

咄嗟の声が上がるより早く、リナは振り返り体を低く落とし、飛びかかるウルフの腹の下をくぐり抜けて背中を斬り上げた。残る一頭はDランクたちが仕留める。

「……す、すげえ」「礼はいい。下がれ」

また走る。立ち止まれば間に合わない。

(大聖堂まで、あとどのくらいだ)

脳裏にケイの顔が浮かぶ。あの右目。解析の眼。使うたびに頭痛に苦しみながら、それでも使い続ける男。今頃あの地下で何をしているか、想像がつく。余計なことをする。それがあの男だ。

(……死なないでよ)

次の路地でウルフ二頭と正面衝突する。先頭が低く唸りながら飛びかかってくる。リナは速度を落とさず踏み込み、右の頭を剣の平で叩いて軌道を逸らす。体の横を通り過ぎた瞬間、左の首筋にエアブレードを叩き込み、左が崩れ落ちる。振り返った右が再び飛びかかろうとしたところを一閃で仕留めた。足を止めたのは二秒にも満たない。

再び走る。大聖堂の外壁が見えてきた。遠くから咆哮が聞こえる。まだ中に魔物がいる。

(間に合え)

正面の扉は蝶番ごと吹き飛ばされていた。大型の魔物が通った跡だ。内部から轟音と悲鳴が混ざって響く。リナはウィンドステップで跳躍し、壊れた扉の枠を飛び越えて地下への階段を一気に駆け下りた。地下への鉄扉も破壊され、大きく開いている。その奥から怒号と咆哮が押し寄せてきた。

扉をくぐった瞬間、状況が一望できた。広間の中央にワイルドオークが一体。ガッシュとテオがオークの股下に潜り込み、脇腹へ剣を突き立てている。狂乱したオークは自重を制御できず、南側の壁へ突進していた。南端では前衛の男たちがフォレストウルフ二体と泥濘の乱戦を繰り広げ、老人たちを守るために肉壁になっている。

南端の壁際に、ケイが立っていた。辛うじて倒れていないという方が正確だ。顔は蒼白で、こめかみに汗が光る。それでも視線はオークを捉えたまま離れない。

ズゥゥゥゥン——巨大な肉塊が石畳を砕いて停止する。オークが壁に突っ込み、のめり込んだ一瞬の隙。

「そこまでよ!」

リナはウィンドステップで広間を横切り、前のめりになったオークの無防備な首筋へ空中から一閃を叩き込んだ。

ドォォォォン——崩れ落ちる巨体。着地と同時、突進してきたフォレストウルフを両断し、返す刃で残る一体の首筋を捉える。石畳に静かに倒れる。

静寂が戻った広間に、血の匂いだけが立ち込める。リナは剣を振って血を払い、ケイへ歩み寄った。ケイは壁際に寄りかかるように立ち、こちらを見ている。右目の下に、解析を使い過ぎた時の疲弊が刻まれていた。

「……リナ。……ハァ、ハァ……借金、踏み倒さなかったな」「当たり前でしょう。……ひどい顔ね。質の悪い魔力回復ポーションを二本も。死ぬ気?」「……これしか、なかった。俺が、扉を閉めろと言ったんだ……」

ケイの声が震える。リナは黙って彼の肩を強く掴んだ。

「立ちなさい、ケイ。犠牲を数えるのは後よ。あなたが扉を閉めなければ、この広間は今ごろ死体袋でいっぱいだった。まだ生きている人たちがいるでしょう?」

ケイが奥歯を噛み締めて顔を上げる。その目に、まだ光があった。

(……よかった)

リナは内心でそう思ったが、口には出さない。負傷者の確認、避難民の誘導、神父との連携。素早く広間の状況を把握し、動き出す。ガッシュは脇腹を押さえながらも立ち、テオは老人を支えている。誰も諦めていなかった。

地下通路を抜け、全員が石造りの倉庫に収まるまで、リナは一度も立ち止まらなかった。負傷者を支え、子供を誘導し、老人の足元を確かめる。全員の無事を確かめてから、ようやく息をついた。


石造りの倉庫の壁に背を預け、目を閉じた。全身が悲鳴を上げている。魔力はほぼ底をついた。体力も限界に近い。しかし東門からはまだ咆哮が聞こえている。バルドとセルとバルトロが、今も戦い続けている。


少し息を整えれば動ける。それまでは、ここにいよう。


リナは目を閉じたまま、隣に座り込んでいるケイの気配を感じた。あの男もまだ、何かを抱えている。扉を閉めた判断の重さを、一人で背負おうとしている。


(……馬鹿ね)


口には出さない。今は、ただ静かにしていよう。


---

【借金メモ・19話終了時点】

前話継続:スタンピード期間中・残債加算継続

19話収入:なし(リナside・奮戦中)

19話支出:スタンピード期間費用加算継続

残債充当:なし

残債:スタンピード期間中加算継続


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