表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元トレーダー、金アレルギーなのに金本位制の異世界に翻弄される  作者: 夜明け一葉
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/59

第10話『境界の森と隠れた価値』

リナが「行くわよ」と言ったのは、まだ夜が明けきらぬ薄暗い時間だった。


ケイの肩の傷は、薬草のおかげで表面こそ塞がっていたが、腕を大きく動かすたびに引きつるような鈍い痛みが走る。筋肉痛も完全には引いておらず、階段を降りるだけでも膝が笑う状態だった。


「……リナ、まだ少し傷が……」

「借金、一日でどれだけ増えてるか忘れたの?」


リナは振り返りもせず、冷淡に言い放つ。

「痛みが引くのを待ってたら、あなたは利息で死ぬわよ。……ほら、これ」


彼女が手渡したのは、水筒と、一本の安っぽいナイフだった。

「護身用よ。まあ、あなたが戦う場面になったら、その時はもう手遅れでしょうけど」


アウラムの門をくぐり、数日前、死に物狂いで逃げてきた「静寂の森」へと足を踏み入れる。朝露に濡れた草木が、ケイの履き古した靴を容赦なく濡らした。


「……で、今日は何を採取するんだ? 薬草か?」

「普通の薬草なんて、アイアンランクが毎日採り尽くしてるわよ。この森の近辺にはもう残っていない。私たちが探すのはこれ」


リナが足元の茂みを剣先で分けた。そこには、どこにでもあるような、平べったい三つ葉の草が生えていた。


「『ツキミソウ』。夜になると魔力を帯びて光るけど、昼間はただの雑草にしか見えない。でも、質の高いものは昼間でも微かに魔力を残しているわ。品質次第だけど、一本大銅貨五枚から八枚ほどで売れる。中級ポーションの素材になるから、ギルドの需要も安定してる」


「大銅貨五枚から八枚……」

地下倉庫の一日の報酬が、一本で軽く超える。ケイの目に、わずかに光が宿った。


「ただし、偽物が多い。そっくりの毒草が隣り合って生えていることもあるし、魔力が抜けたカスを掴めば買い叩かれる。……ケイ、使いなさい。その、使い物にならない魔力三の『眼』を」


ケイは息を整えた。立ち眩みを抑え、目の前の草むらを見つめる。

(視るんだ。ノイズを探せ……)


視界を一点に凝らし、脳の奥に意識を集中させる。すぐに、こめかみを焼くような熱が襲ってきた。一昨日の頭痛がフラッシュバックする。それでも、視線を外さなかった。


不意に、世界の輪郭が揺らめいた。

緑一色の視界の中で、一箇所だけ、水面に油を垂らしたような虹色の歪みが見えた。


「……あれか」

ケイはよろめきながら歩み寄り、その草を摘み取った。


「……どう? 当たり?」

リナが覗き込む。ケイは答える余裕もなく、ただ激しい動悸に耐えながら、摘んだ草をリナに突き出した。


リナはそれを手にとり、指先で感触を確かめると、驚いたように眉を上げた。

「……本物。それも、かなり濃い魔力残りだわ。……やるじゃない、新人」


リナは不敵に笑い、ケイの肩をポンと叩いた。その衝撃で、塞がりかけた傷がズキリと疼く。


「……痛っ……」

「あら、ごめん。……でも、休んでる暇はないわよ。あと五本は見つけなさい。今日の宿代二枚、飯代二枚、それにその頭痛を抑える薬代三枚……最低でも大銅貨七枚は稼がないと、あなたは明日も赤字なんだから」


ケイは脂汗を拭った。

(一本で大銅貨七枚は狙える。五本なら三十五枚。コストを引いても、今日初めてプラスになる)

相場師だった頃の癖で、頭が自動的に損益を弾き出した。地下倉庫で死ぬ思いをして稼いだ大銅貨一枚と比べれば、破格の効率だ。


(だが……脳への負担がデカすぎる。五本も視たら、本当に意識が飛ぶぞ……)


かつての相場師としての直感が、リスクとリターンを天秤にかける。

しかし、ここで「損切り」して帰る選択肢はない。ケイには帰る場所も、貯えも、そしてリナへの返済を拒否する力もないのだ。


「……分かった。……やるよ」


ケイは再び「歪み」を探して、森の奥へと目を向けた。

視覚の代償は重いが、初めて「数字」を自分の力でプラスに動かせる実感が、彼の足を前に進ませていた。


---

【借金メモ・10話終了時点】

前話(9話)終了時:手元0枚・残債小銀貨4枚・大銅貨9枚

10話収入:ツキミソウ1本採取(単価大銅貨7枚・未売却・翌話に続く)

10話支出:宿・食事(大銅貨3枚・リナ立替)

残債充当:なし

ケイの手元:0枚

残債:小銀貨5枚・大銅貨2枚

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ