表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明の心臓  作者: 水瀬 悠里
Ⅲ 風の共鳴
18/21

第2章 刃の余韻

戦いが終わり、灰が静かに落ちていく。

風の音だけが残響のように地平を撫でた。


慧吾は剣を払って鞘に戻し、そのまま少しだけ息を整えた。ジャックはナイフの刃についた灰を払うと、ちらりと横目で慧吾を見る。


「……なぁ、慧吾」

珍しく、声が揺れていた。


「お前……“魔”のせいで、街に残らねぇことを決めたのか?」


慧吾が目を伏せる。長い影が足元に落ちる。


「……違うと言えば、嘘になる」


灰の風が二人の間を抜けていった。


「俺はずっと闇の中にいた。

 戦いしか知らず、壊すことしか許されなかった。 何を選んでも、何に触れても……

 光の中で生きる資格なんか、俺にはないと思っていた」


ジャックは何も言わず、灰を踏みしめる音だけを響かせた。慧吾は続ける。


「それでも──」

顔を上げる。瞳の奥で、かすかな決意が光る。


「俺に、まだ“何かできること”があるなら。

 たとえ闇に戻ることになっても……

 あいつらに、これ以上影を落とさないために、 俺は行く」


ジャックは舌打ちした。


「……バカ野郎。

 そんなの、“置いていく理由”にならねぇんだよ」


慧吾がわずかに眉を上げる。ジャックは肩をすくめるように、続けた。


「魔がどうだろうが、闇がどうだろうが──

 そんなもん、俺には関係ねぇ。

 あいつらにもな」


焚き火の火がジャックの横顔を照らす。その声は荒っぽいのに、不思議なくらい優しかった。


「勝手にひとりで思い詰めんな。

 お前の弱ぇ背中くらい、いくらでも預けりゃいい」


慧吾はほんの一瞬だけ目を細めた。その表情は、どこか懐かしい“人間の温度”を宿していた。


ジャックはニヤリと笑い、ひと言付け加える。


「生きて帰れ。

 それで全部チャラだ」


二人の間を、風が通り抜けた。灰の匂いの中に、どこか遠くの“花の香り”が混じったような気がした。


慧吾がふと顔を上げる。


「……風向きが、変わった」


「は? どこがだよ、ただの砂漠──」


ジャックは言いかけて、眉を寄せた。


「……誰かの匂いが、したな」


慧吾は微かに息を飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
, ,

,

,

,

,
,
,
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ