第2章 刃の余韻
戦いが終わり、灰が静かに落ちていく。
風の音だけが残響のように地平を撫でた。
慧吾は剣を払って鞘に戻し、そのまま少しだけ息を整えた。ジャックはナイフの刃についた灰を払うと、ちらりと横目で慧吾を見る。
「……なぁ、慧吾」
珍しく、声が揺れていた。
「お前……“魔”のせいで、街に残らねぇことを決めたのか?」
慧吾が目を伏せる。長い影が足元に落ちる。
「……違うと言えば、嘘になる」
灰の風が二人の間を抜けていった。
「俺はずっと闇の中にいた。
戦いしか知らず、壊すことしか許されなかった。 何を選んでも、何に触れても……
光の中で生きる資格なんか、俺にはないと思っていた」
ジャックは何も言わず、灰を踏みしめる音だけを響かせた。慧吾は続ける。
「それでも──」
顔を上げる。瞳の奥で、かすかな決意が光る。
「俺に、まだ“何かできること”があるなら。
たとえ闇に戻ることになっても……
あいつらに、これ以上影を落とさないために、 俺は行く」
ジャックは舌打ちした。
「……バカ野郎。
そんなの、“置いていく理由”にならねぇんだよ」
慧吾がわずかに眉を上げる。ジャックは肩をすくめるように、続けた。
「魔がどうだろうが、闇がどうだろうが──
そんなもん、俺には関係ねぇ。
あいつらにもな」
焚き火の火がジャックの横顔を照らす。その声は荒っぽいのに、不思議なくらい優しかった。
「勝手にひとりで思い詰めんな。
お前の弱ぇ背中くらい、いくらでも預けりゃいい」
慧吾はほんの一瞬だけ目を細めた。その表情は、どこか懐かしい“人間の温度”を宿していた。
ジャックはニヤリと笑い、ひと言付け加える。
「生きて帰れ。
それで全部チャラだ」
二人の間を、風が通り抜けた。灰の匂いの中に、どこか遠くの“花の香り”が混じったような気がした。
慧吾がふと顔を上げる。
「……風向きが、変わった」
「は? どこがだよ、ただの砂漠──」
ジャックは言いかけて、眉を寄せた。
「……誰かの匂いが、したな」
慧吾は微かに息を飲んだ。




