第1章 最強のバディ
灰が舞った。エコーズの叫びが金属の反響のように空気を震わせる。
慧吾が長剣を肩に預け、一歩、前へ。足運びが無駄なく静かで、まるで“影”が歩いているようだった。
ジャックは、ひょいと笑って二本のナイフを抜く。光を吸い込むような黒刃。その動きは軽快なのに、獣じみた気配をまとっていた。
「来るな」
慧吾の声は短く、落ち着いている。エコーズの残像が散開し、四方から迫る。
ジャックが肩をすくめた。
「来るなって言われて来なかったら、相棒失格だろ?」
慧吾は一瞬だけ目を細め──次の瞬間、地面を蹴った。
最初の接触は、刃と影の“衝突音”。
慧吾の長剣が、空気を裂いたというより──“線を引いた”。
その軌道があまりに速く、砂がその後から巻き上がる。
一体のエコーズが縦に割れ、その断面すら風にほどかれて消える。
「相変わらず、化け物みてぇな切れ味だな!」
ジャックが横から滑り込み、慧吾が切り漏らした残響を二刀で十字に裂く。
「お前も充分だ」
慧吾は淡々と返す。声は低いままだが、どこか誇らしい。
三体が一度に飛び込んできた。
「左、二!」
慧吾の短い指示に、ジャックは反射で動いた。
右側の一体に向かって跳び上がり、膝で顔面を蹴り、その勢いのまま回転しながら二刀を“交差させて”切り裂く。
着地と同時に慧吾の刃が影を貫き、二人の呼吸が完全に重なる。
まるで──長剣と二刀が“ひとつの生き物”になったようだった。
慧吾が低く言う。
「……やはり銃より、その方が合っているな」
「だろ? お前の背中守るには、こっちの方が手っ取り早ぇ」
ジャックが軽口を叩きながら、左右の手で別々の敵を処理し、慧吾の死角に踏み込んだ残影に刃を滑らせる。
慧吾は、僅かに息を吸った。
「ジャック……
お前は“銃の使い手”ではなかったのか」
ジャックがにかっと笑う。
「お前の横じゃ、遠距離なんざ意味ねぇだろ。
ほら、長い腕ぶん回すからよ、俺が近くで拾ってやんなきゃな」
慧吾が返す。
「……拾う、か」
「そうだよ。
お前の【魔】が暴れようが、制御が効かねぇ時が来ようが――」
ジャックの声が、風の中で低く響いた。
「俺はその命を拾い続ける。
死なせる気なんざ、さらさらねぇ」
慧吾の瞳が揺れた。その一瞬、長剣の構えがわずかに緩むほどに。
しかしすぐに、強く握り直す。
「……俺は、お前に拾わせるつもりはない」
「じゃあ、生き続けろよ。
拾われなくて済むようにな」
慧吾の口元に、ごくかすかな微笑が浮かぶ。
「なら……お前も、死ぬな」
「おう。“似た者同士”だろ?」
エコーズの最後の一体が跳躍して襲う。二人は同時に踏み込み──
慧吾の一閃と、ジャックの交差する二刃が重なり、残響は光の粒となって消えた。
砂が静まり返り、風だけが戻ってくる。
二人は背中合わせに立っていた。
「……ふん。悪くねぇな」
「お前と組むと、風がよく通る」
ジャックが笑う。
「詩人かよ。
ま、そういうとこも嫌いじゃねぇ」
慧吾は空を見上げた。
「ジャック。
……俺も、お前と似ていることを誇りに思う」
その言葉に、ジャックは顔をそむける。
「……っ、うるせぇよ」
風が、“最強のバディ”たちの外套を揺らした。




