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透明の心臓  作者: 水瀬 悠里
Ⅲ 風の共鳴
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第1章 最強のバディ

灰が舞った。エコーズの叫びが金属の反響のように空気を震わせる。


慧吾が長剣を肩に預け、一歩、前へ。足運びが無駄なく静かで、まるで“影”が歩いているようだった。


ジャックは、ひょいと笑って二本のナイフを抜く。光を吸い込むような黒刃。その動きは軽快なのに、獣じみた気配をまとっていた。


「来るな」


慧吾の声は短く、落ち着いている。エコーズの残像が散開し、四方から迫る。


ジャックが肩をすくめた。


「来るなって言われて来なかったら、相棒失格だろ?」


慧吾は一瞬だけ目を細め──次の瞬間、地面を蹴った。


最初の接触は、刃と影の“衝突音”。


慧吾の長剣が、空気を裂いたというより──“線を引いた”。

その軌道があまりに速く、砂がその後から巻き上がる。


一体のエコーズが縦に割れ、その断面すら風にほどかれて消える。


「相変わらず、化け物みてぇな切れ味だな!」


ジャックが横から滑り込み、慧吾が切り漏らした残響を二刀で十字に裂く。


「お前も充分だ」


慧吾は淡々と返す。声は低いままだが、どこか誇らしい。


三体が一度に飛び込んできた。


「左、二!」


慧吾の短い指示に、ジャックは反射で動いた。


右側の一体に向かって跳び上がり、膝で顔面を蹴り、その勢いのまま回転しながら二刀を“交差させて”切り裂く。


着地と同時に慧吾の刃が影を貫き、二人の呼吸が完全に重なる。


まるで──長剣と二刀が“ひとつの生き物”になったようだった。


慧吾が低く言う。


「……やはり銃より、その方が合っているな」


「だろ? お前の背中守るには、こっちの方が手っ取り早ぇ」


ジャックが軽口を叩きながら、左右の手で別々の敵を処理し、慧吾の死角に踏み込んだ残影に刃を滑らせる。


慧吾は、僅かに息を吸った。


「ジャック……

 お前は“銃の使い手”ではなかったのか」


ジャックがにかっと笑う。


「お前の横じゃ、遠距離なんざ意味ねぇだろ。

 ほら、長い腕ぶん回すからよ、俺が近くで拾ってやんなきゃな」


慧吾が返す。


「……拾う、か」


「そうだよ。

 お前の【魔】が暴れようが、制御が効かねぇ時が来ようが――」


ジャックの声が、風の中で低く響いた。


「俺はその命を拾い続ける。

 死なせる気なんざ、さらさらねぇ」


慧吾の瞳が揺れた。その一瞬、長剣の構えがわずかに緩むほどに。


しかしすぐに、強く握り直す。


「……俺は、お前に拾わせるつもりはない」


「じゃあ、生き続けろよ。

 拾われなくて済むようにな」


慧吾の口元に、ごくかすかな微笑が浮かぶ。


「なら……お前も、死ぬな」


「おう。“似た者同士”だろ?」


エコーズの最後の一体が跳躍して襲う。二人は同時に踏み込み──


慧吾の一閃と、ジャックの交差する二刃が重なり、残響は光の粒となって消えた。


砂が静まり返り、風だけが戻ってくる。


二人は背中合わせに立っていた。


「……ふん。悪くねぇな」


「お前と組むと、風がよく通る」


ジャックが笑う。


「詩人かよ。

 ま、そういうとこも嫌いじゃねぇ」


慧吾は空を見上げた。


「ジャック。

 ……俺も、お前と似ていることを誇りに思う」


その言葉に、ジャックは顔をそむける。


「……っ、うるせぇよ」


風が、“最強のバディ”たちの外套を揺らした。

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