第7幕 生と堕の天使
闇が渦を巻く。
黒い翼に覆われ、闇が彼をがんじがらめにしていた。
その奥で、慧吾がこちらを見ていた。その瞳は光を失い、深い夜そのものだった。
「なぜ……来た」
「……慧吾……」
あたしの声が震える。彼の声は低く冷たく、あたしの心が凍るようだった。
生きることを諦めた瞳。
壁がゆっくりと狭まり、あたしの行く手を阻んだ。いっそう大きく打つ鼓動は、あたしの心臓をも締め上げる。
苦しいほどの、共鳴。
影が襲いかかる。
辰彦と哲平が拳で影を払う。
ジャックは影を切り捨てる。
「……っ…く…」
諒介が後ろからあたしを抱きとめる。
「大丈夫か、リリカ!」
諒介の声が響く。
「ありがとう…大丈夫」
あたしは答えた。
「慧吾……生きて」
あたしの言葉に反応して、胸の奥で光の欠片が熱を持つ。あの日、託されたもの。あたしの中で、ずっと脈打っていたもの。
その光が、手のひらから溢れ出した。
「慧吾……あなたのものよ」
あたしは影をかいくぐり、慧吾に近づく。
敵意が剥き出しになり、闇の風が肌を切る。
息が荒くなる。苦しい。
でも苦しいのは、きっと慧吾もだ。
血が吹き出しても、それでも足を止めなかった。
「ここにいるあなたは本当じゃない。生きようとするあなたを、あたしは信じてる。
……一緒に帰ろう。そのために来たんだよ」
光が胸から腕を伝い、掌に集まる。
それはやわらかいのに、刃のように鋭い輝きだった。
慧吾の胸の奥で、闇がざわめく。拒絶するように黒い翼が広がり、激しい風が吹き荒れる。
『……来るな……』
低い声があたしの心を打つ。
でも、その奥で――確かに、何かが揺れた。
「……大丈夫、おそれなくていい」
あたしは諭すように、そう言った。
「闇に呑まれながらも、まだ護ろうとしてる。あなたは優しすぎたの。
だからどうか、自分を責めないで」
堪えきれず、涙がこぼれる。
それを見た慧吾の瞳が、いっそう大きく揺れる。「あなたから託されたこの光の欠片が、あたしをずっと守ってくれた。いま、返すよ……」
あたしの掌から、光が解き放たれた。
それは一筋の流れになって、慧吾の胸へ吸い込まれていく。闇が軋むような悲鳴を上げた。黒い翼が震え、崩れかける。
その瞬間、慧吾の瞳に、かすかな輝きが戻った。
彼の手が、震えながらあたしに伸びる。
『……リ……カ……』
「引くぞ」
諒介とジャックの手が、あたしの手を包むように伸び、慧吾の腕を掴んだ。
そして──。
一瞬だけ、光と闇が交わった。




