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透明の心臓  作者: 水瀬 悠里
Ⅱ 堕天の光
13/21

第7幕 生と堕の天使

闇が渦を巻く。

黒い翼に覆われ、闇が彼をがんじがらめにしていた。

その奥で、慧吾がこちらを見ていた。その瞳は光を失い、深い夜そのものだった。


「なぜ……来た」


「……慧吾……」

あたしの声が震える。彼の声は低く冷たく、あたしの心が凍るようだった。

生きることを諦めた瞳。

壁がゆっくりと狭まり、あたしの行く手を阻んだ。いっそう大きく打つ鼓動は、あたしの心臓をも締め上げる。

苦しいほどの、共鳴。


影が襲いかかる。

辰彦と哲平が拳で影を払う。

ジャックは影を切り捨てる。


「……っ…く…」

諒介が後ろからあたしを抱きとめる。

「大丈夫か、リリカ!」

諒介の声が響く。

「ありがとう…大丈夫」

あたしは答えた。

「慧吾……生きて」


あたしの言葉に反応して、胸の奥で光の欠片が熱を持つ。あの日、託されたもの。あたしの中で、ずっと脈打っていたもの。


その光が、手のひらから溢れ出した。


「慧吾……あなたのものよ」


あたしは影をかいくぐり、慧吾に近づく。

敵意が剥き出しになり、闇の風が肌を切る。

息が荒くなる。苦しい。

でも苦しいのは、きっと慧吾もだ。

血が吹き出しても、それでも足を止めなかった。


「ここにいるあなたは本当じゃない。生きようとするあなたを、あたしは信じてる。

……一緒に帰ろう。そのために来たんだよ」


光が胸から腕を伝い、掌に集まる。

それはやわらかいのに、刃のように鋭い輝きだった。


慧吾の胸の奥で、闇がざわめく。拒絶するように黒い翼が広がり、激しい風が吹き荒れる。


『……来るな……』


低い声があたしの心を打つ。

でも、その奥で――確かに、何かが揺れた。


「……大丈夫、おそれなくていい」

あたしは諭すように、そう言った。

「闇に呑まれながらも、まだ護ろうとしてる。あなたは優しすぎたの。

だからどうか、自分を責めないで」

堪えきれず、涙がこぼれる。

それを見た慧吾の瞳が、いっそう大きく揺れる。「あなたから託されたこの光の欠片が、あたしをずっと守ってくれた。いま、返すよ……」


あたしの掌から、光が解き放たれた。


それは一筋の流れになって、慧吾の胸へ吸い込まれていく。闇が軋むような悲鳴を上げた。黒い翼が震え、崩れかける。


その瞬間、慧吾の瞳に、かすかな輝きが戻った。


彼の手が、震えながらあたしに伸びる。


『……リ……カ……』


「引くぞ」

諒介とジャックの手が、あたしの手を包むように伸び、慧吾の腕を掴んだ。


そして──。

一瞬だけ、光と闇が交わった。

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