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透明の心臓  作者: 水瀬 悠里
Ⅱ 堕天の光
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第4幕 再生の影

「Bang! …Oops, did I scare ya??」

乱れた金髪を気にもとめず、ニヤつきながら現れた懐かしい顔。

「ジャック!!」

あたしは喜びと懐かしさで思わず声を上げる。

ジャックは、ぼろぼろの外套を脱ぎながら辺りを見回した。

「……こりゃまた懐かしい。平和ボケした空気は変わらねぇな」

そう言って、口にくわえた煙草を指で転がす。


「……久しぶりに会ったのに、そんな言い方って」言いながらあたしは、ジャックがどれだけ過酷な場所を渡り歩いて戻ったのかを感じていた。


諒介が腕を組む。

「どういうことだ。あんた、外で何を――」

「生き延びてきた。それ以上でも、それ以下でもねぇよ」


声は低く、乾いている。でも、その奥には焦りが潜んでいた。


「外はどうだった?」あたしが訊ねると、ジャックは苦笑いした。


「Same old shit, kid。死体が歩き、街は腐り、人間は神に祈るより、弾丸を数える方が早い。But…」彼は視線を上げ、割れた窓の向こうを見た。


「風の流れが変わってる。この街に、外の匂いがする。……それが気になって戻ってきた」


辰彦が顔をしかめる。

「疫病のことか?」

「それもだが……もっと嫌なもんを感じる。空気が重い。生き物の気配が、薄い」


ジャックは床に落ちた機械片を拾い上げた。黒ずんだタグがついている。


「見ろ。これ、外の連中のマークだ」

諒介が目を細めた。

「……どうして、こんなものがここに」


「だから言ってんだ。この街の“内側”が、外と繋がり始めてる」


その声に、空気が張り詰めた。あたしの胸の奥で、光の欠片がかすかに反応する。


「ジャック……」

名を呼ぶと、彼は短く息を吐いた。

「……お前まで倒れるなよ、リリカ。外じゃ、ヒーローはすぐ死ぬ。ここでも同じだ」


その目には疲労と、かすかな優しさが混ざっていた。


「……慧吾……」

あたしが小さく呟いた瞬間、ジャックの眉がほんの少しだけ動いた。

ただ、遠くの空を見て、呟くように言った。


「Seems like the storm’s already here, huh」



廃れた管理棟の一室。古いテーブルの上に、地図と破れた資料が広げられている。


「……で、これが“外”の残骸?」

哲平が眉をひそめて、黒焦げの装置を突いた。


「ああ。ジャックが拾ってきた」

諒介が腕を組む。


「うちの外のネットワークに繋いでみたが、コードが完全に改変されてる。たぶん“誰かの鼓動”を模倣してる」


「鼓動?」


あたしの胸が、かすかに疼いた。


ジャックは窓辺に立ちながら、乾いた笑いをこぼした。


「They copied his heart.……心臓のシステムごと、な」


「心臓を……?」

哲平が目を丸くする。

「そんなこと、できるわけ……」


「できるさ。“やっちゃいけねぇこと”ほど、奴らはやる」


辰彦が机を叩いた。

「あいつら、何がしたいんじゃ!」


「“再生”だとよ」

ジャックが肩をすくめた。

「神の代わりに心臓を創る。……くだらねぇ夢だ」


「外の連中が?」

諒介の声が低くなる。


「ああ。あいつらは“箱庭”に嫉妬してる。平和を知らねぇ奴ほど、壊すことに夢中になるもんだ」


静かな怒りが、部屋に広がった。


その中で、あたしは俯き、胸に手を当てた。


ドクン。


“違う鼓動”が、また重なって響く。


「Wasn’t sure if I should say this… damn it!

慧吾は……その“再生”に利用されてる」

ジャックが吐き捨てるように言った。


「行こう」

あたしは弾かれるように顔を上げた。


「慧吾を助ける。外を止める。あの光を、取り戻す」


辰彦が息を吐いて笑った。

「先生は怖いのぅ。子どもたちの次は世界を救うんじゃな」


哲平が肩をすくめる。

「でも、乗った。もう放っとけねぇし」


諒介が小さく頷く。

「お前が行くなら、俺も行く」


そして、窓辺のジャックがゆっくりと振り向き、煙草を持った指で外を指す。


「かるく地獄だぜ」


「それでも」

あたしの声は、まっすぐだった。


「光を、渡すために」


一瞬、ジャックが笑った。どこか寂しそうに、でも少しだけ誇らしげに。


「All right, princess.Let’s wake the fallen angel.」

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