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ep4.困惑する国家

 会議室は静かだった。

 外界の喧騒とは無関係に、分厚い壁に囲まれた部屋で、数名の幹部が着席している。机の上には資料が並び、端末の画面には簡潔な報告書が表示されていた。

 祝意も、緊張もない。

 あるのは、処理結果の確認だけだった。

 技術部門の幹部が立ち上がる。

 「報告します」

 声は淡々としていた。

 「外部ネットワーク上に存在していた非公式領域を確認しました。管理主体が不明瞭で、制御不能な状態でした」

 幹部は画面を操作し、数値を示す。

 「当該領域には、我が国に関する未承認情報が流通していました。体制維持上、看過できないと判断しました」

 誰も異議を唱えない。

 判断は共有されていた。

 「我々は、異物を除去しただけです」

 技術幹部はそう言い切った。

 「制御不能な領域が存在していたため、削除しました。特別な作戦ではありません。通常の是正措置です」

 別の幹部が資料をめくる。

 「しかし、外部から多数の通信が届いています」

 感謝。

 称賛。

 表彰の打診。

 文字にすると、どれも理解しがたい内容だった。

 「理由が分かりません」

 技術幹部は正直に言った。

 「我々は秩序を回復しただけです。

  あの領域は、最初から存在してはいけないものでした」

 沈黙が流れる。

 誰も「善行」という言葉を口にしなかった。

 誰も「功績」という概念を持ち出さなかった。

 やがて、最も年長の幹部が静かに言った。

 「理解できないのは、感謝ではない」

 一同が顔を上げる。

 「世界は、なぜ今までこれを放置していたのですか?」

 その問いに、答えはなかった。

 闇を闇として許容し、

 交渉し、共存し、管理しようとする世界。

 彼らには、それが異常に思えた。

 会議はそれ以上、続かなかった。

 処理は完了している。議論する余地はない。

 外では世界が祝っていた。

 内では、誰も意味を理解していなかった。

 その国は、最後まで知らなかった。

 闇を消すことが、

 世界では「善」と呼ばれる行為だということを。


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