表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/62

第七話 筋肉令嬢とデビュタント


 デビュタント当日。天井には煌びやかなシャンデリアがいくつも輝き、会場の隅々まで光を落としている。宝石を散りばめた令嬢たちのドレスが光を反射し、色鮮やかに輝いていた。


 そんな中、アドリアナは長兄ドミニクにエスコートされて、会場へと足を踏み入れた。


「……まあ!」


「筋肉伯爵のご令嬢と聞いていたから、どんな方かと思っていたけれど…」


「所作が美しい凛とした人ね」


 パンパンの筋肉を持つ兄と、その隣に立つしなやかな筋肉を持つ妹。二人はすぐに会場の視線の的となった。


「見てみろ、アディ。誰もが俺たちの筋肉に見惚れているぞ」


「そうね。ドミニクお兄様の胸板の魅力は、正装していても分かりますもの」


「何言ってるんだ。アディだってデビュタントまでに背筋を仕上げてきたじゃないか。生命力に溢れている良い筋肉だ」


「ふふ、嬉しい。背中の開いたデザインにしてもらって良かったですわ」


 アドリアナのデビュタントのドレスは、色こそ純白なれど、他の令嬢とは異なるデザインだった。ふわりと裾が広がっているドレスが多い中、彼女のドレスはスレンダーだった。腰から膝にかけてストンと生地が落ち、膝から足首にかけて柔らかに広がっている。


「肩や二の腕周りにオーガンジーの生地をあしらわれてしまったので、せっかく鍛えた三角筋(さんかくきん)をお披露目できないのは残念ですわ」


「いいや、シルエットが透けているだけでも俺には分かるぞ。だいぶ筋肉を追い込んだようだな」


「まあ! お分かりになります? さすがドミニクお兄様ですわ!」


 傍から見れば、微笑ましく談笑している兄妹であるが、話の内容はちっとも可愛くはない。


 やがて始まりの時刻となり、ホストの王妃、第一王子と第二王子のシャルルが姿を現した。


 第一王子、第二王子とも黄金の髪と青い目が麗しい。長身で手足は長いものの、肩に厚みはなく、その身体に筋肉の力強さは感じられない。


「本日デビュタントを迎えたみなさん、本日は本当におめでとう。先ほどまでの陛下への謁見では随分と緊張したことでしょう。ここは、あなたたちの社交界入りを祝う場です。気楽に楽しんでちょうだい」


 王妃の挨拶が終わる。それと同時に管弦楽団による音楽が始まった。


(ああ、シャルル様だわ。ようやくお会いできた。――でも、)


「さあ、アドリアナ嬢。私と踊っていただけますか?」


「――もちろんですわ、お兄様」


 長兄ドミニクがかしこまった態度で、アドリアナにダンスを申し込む。シャルルに気を取られていたアドリアナは我に返り、笑顔でダンスの申し出を受け入れた。


「王子方を見ていたのか?」


 踊りながら、長兄ドミニクが問いかける。どうやらアドリアナの視線の先に気づいていたらしい。


「ええ。第二王子殿下のご尊顔を拝見していたの」


「第一王子殿下じゃなくて?」


「そう。だけど……」


「だけど?」


「……殿下方って、少しばかり貧相なんですのね」


「ぶ…っ」


 眉をひそめたアドリアナの発言に、長兄ドミニクは吹いた。


「笑わせるなよ、アディ。一般的には、殿下方が普通なんだよ」


「でもお兄様。ルシアンお兄様だって細いけれど、しっかり筋肉がついていますわ」


「あいつはそういう筋肉の付け方をしているからであって、あれでもその辺の男よりよく鍛えている方だぞ」


 父と兄以外の男性と交流する機会が少ないアドリアナにとって、男というものはすべからく筋肉を鍛えているものだと思っていた。


(シャルル様との婚約は十六歳のとき……あと一年あるわ。それまでにきっと、シャルル様にはもっと筋肉がついているはず)


 シャルルが貧相なのは今だけだと、楽観的に考えるアドリアナであった。彼女にとって、彼は運命の人だ。今シャルルを見てもときめかなかったのは、ただその運命がまだ始まっていないだけなのだと、アドリアナは考えていた。


 一方、シャルルはというと。


(あの一際美しい令嬢は誰だ…!?)


 すっかり美しく成長したアドリアナに見惚れていた。


(今年デビュタントということは、俺と歳が近いということだ。家門の爵位によっては、婚約できる可能性もある…!)


 前世とは違い、アドリアナに興味津々のシャルル。


 果たして二人の運命はどうなるのか。それは神のみぞ知ることである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ