第五十七話 筋肉男爵とひとり修理日和
今日もアドリアナはやる気に満ちた表情で外に立っていた。一人で小屋や倉庫の修繕に取り掛かるつもりでいる。村人たちは畑や水路の整備に追われ、仲間たちも別の作業に回っている。だからこそ、この筋肉領主の出番だ。
「よし! 本日も筋肉とともに参りますわよ!」
肩を大きく回し、アドリアナは張り切って小屋の前に立った。板が外れ、扉は傾き、錆びた釘が飛び出している。
まずは入口の扉から取り掛かる。扉を支えながらまずは錆びた釘を抜こうとした瞬間。
「あら?」
バキッ! 支える力が強かったのか、扉が外れてしまった。
「釘を抜く手間が省けましたわ! ではここから打ちつけて…」
一人で作業をしているせいか、それとも彼女が不器用なのか。備え付けられた扉は、最初よりマシなものの、やや傾いた状態だった。
「ふふっ。少々斜めのような気もしますが、扉が開きますし問題ありませんわね!」
近くの畑で作業していた村人が、思わず吹き出した。小さな子どもたちはよく見ていて、『アドリアナさま、なんか変だよー』と言っている。
次は屋根の修理だ。板を持ち上げて梯子を登る。屋根に置こうとした瞬間、風に煽られて身体が少し揺れた。アドリアナは踏ん張ったが、その力で屋根全体がガタガタと揺れる。
「おっと! 逆に壊してしまうところでしたわ」
体勢を立て直したアドリアナは、そのまま屋根に釘を打ち込んでいく。打つ勢いが強すぎて、板が少し割れたが、彼女は手を止めない。
「良い感じですわね。これで屋根の穴も塞がりましたわ」
梯子を下りれば、猫が板の周りを走り回り、犬がその後を追う。なぜかアドリアナもつい板を振り上げて追いかけっこに参加する形になり、土や木くずが辺りに飛び散った。
「アドリアナさまの追いかけっこだ!」
そんな彼女の様子を見ていた子どもたちは大笑いし、楽しそうに声を上げた。
昼になり、一息つこうと板を地面に置いたアドリアナ。顔には汗が滲み、慣れない作業で腕も少し震えている。しかし表情は晴れやかだ。
「さて、ここまでやれば小屋も少しはマシになったでしょう」
板の位置が完璧ではなく、釘も斜めに打ち込まれているのをちらりと見て苦笑い。しかし、それを『豪快修理の味』と自分に言い聞かせる。
さらに次は倉庫の壁を直すことにした。板を持ち上げ、力任せに打ちつけると――ガキン!
釘が曲がり、板が少し反り返る。アドリアナは一瞬きょとんとした顔になったが、次の瞬間には笑顔になった。
「これも味ですわね! 村の伝説の修理法になるかもしれませんわ!」
村の小道で作業を見守っていたお年寄りが、『まったく元気すぎる領主様じゃ』と苦笑い。アドリアナはにっこり笑い返した。
午後になると、力任せの修理は最高潮に達する。重い木材を振り回して柱を固定する。木くずや土が舞い、子どもたちはそれを避けながらきゃっきゃっと楽しそうに声を上げる。アドリアナも思わず笑い、振り回す木材で空気をさらにかき混ぜた。
「筋肉のフル活用ですわ!」
声が大きすぎて、遠くの畑で作業をしていたエティエンヌが小さく首を振った。しかしアドリアナは気づかない。
夕方、なんとか修理は一段落した。小屋も倉庫も見た目には不格好だが、板は何とか固定され、戸も閉まるようになっている。アドリアナは大きく深呼吸した。
「ふぅ…今日も一仕事終えましたわ」
手を見ると、少し傷がついているが笑顔は消えない。
「少々の傷も勲章ですわ!」
村人たちも近づき、笑顔でアドリアナに声をかける。
「アドリアナ様、ありがとうございます!」
小さな子どもたちは『筋肉すごい!』と声を揃え、拍手。アドリアナは胸を張り、満足げに笑った。
夜になり、男爵邸で一人反省会。床でストレッチをしながら、板の角度や釘の打ち方を振り返るアドリアナ。豪快すぎる修理で、仲間たちに迷惑をかけずに済んだのは幸いだった。
「明日はもう少し計算してやりますわ……。でも、筋肉を頼りにするのは変わりませんわ!」
小屋の不格好さも、板の斜め具合も、すべてはアドリアナらしい修理の証。今日の騒動は、村人の笑顔と子どもたちの歓声とともに、静かに夜空へと溶けていった。




