表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/62

第五話 虚弱令嬢と筋肉の目覚め


 早速翌日から、アドリアナは動き出した。まずは食事内容を変えることから始める。


「毎日の食事にお肉をお願いします」


 今まではなるべく胃に負担のかからないものが多かったが、筋肉を鍛えるとなれば話は別だ。トレーニングをするためのエネルギー源、筋肉を育てる良質なたんぱく質と脂質が必要である。


 続いて軽いながらも運動を日課にするようにした。また昏倒してしまうと困るので、トレーニングは一旦保留。まずは身体づくりから始めることにした。


(これはなかなか、キツイですわ…っ)


 侍女に手伝ってもらいながらのストレッチ。手足を伸ばすたびに動悸がし、前屈をしたときには眩暈がした。


 それでもアドリアナはシャルルとの幸せな未来のため、エリザベッタとの輝かしい友情のため、弱音を吐かずに頑張った。


「何やらお嬢様が運動を始めたらしいぞ」


「あんなお辛そうなお顔をして…やめていただいた方が良いんじゃないかしら?」


 使用人の中では、アドリアナを心配する声が圧倒的に多い。一方の家族はというと、彼女の身体を心配しつつも、筋肉に目覚めたことにいたく感動していた。


「エ、エレオノール! アディが…! 俺たちのアディが…!」


「わたくしにも見えていますよ、アルマン。流石ドラクロワ家の令嬢です。母として誇りに思います」


「昏倒したときはどうなることかと思ったが…! うう…っ! 急に大人びて…!」


 父アルマンは感動の涙でまともに話せない。その隣で、母エレオノールは目を赤らめながらも毅然とした態度を貫いていた。


「おい、ルシアン! 俺たちでアディをサポートしてやらないと!」


「分かってるよ兄さん! 今、アディに最適なトレーニングプランを考えているんだ、邪魔しないでくれ」


 長兄ドミニク、次兄ルシアンもまた、妹の成長に涙ぐみながら、彼女を支えようとしていた。


「健康は筋肉から! 運命を引き寄せるのも筋肉から!」


 家族に応援されることなど、前回の人生ではほとんどなかった。いつも体調を心配されてばかりだったアドリアナにとって、今の環境はとても幸せに思えた。


 最初はゆっくりしか歩けなかった散歩も、早歩きができるようになった。息切ればかりで少しずつしか進められなかったストレッチも、楽にこなせるようになった。


(運動をするとごはんがおいしいわ! だからお父様もお母様も、あんなにたくさん召し上がっていたのね!)


 食事もしっかりと食べられるようになった。すると不思議なことに、さらに運動ができるようになった。


(食事と筋肉は密接な関係にあるんだわ!)


 改めて食事の大事さを知ったアドリアナは、さらに知識を得るため、父の書斎から本を借りて勉強することにした。


 一つは『筋肉大全』。筋肉のことを網羅的に勉強するためだ。そしてもう一つは『王国筋肉史』。伯爵令嬢の教養として、歴史を学ばないなど言語道断である。


「今度こそ負けませんわ!」


 運動を始めてから二ヶ月後、再び腹筋に挑戦する日がやってきた。家族と専属医師、使用人に見守られながら、アドリアナはトレーニング用のマットに寝転がる。そして。


「いーち!」


 ゆっくりながらも、アドリアナは腹筋一回目に成功した。


「にーぃ!」


 少し震えながらも、腹筋二回目に成功した。


「さーん!」


 決してスムーズとは言えなかった、結果としてアドリアナは五回の腹筋に成功した。その瞬間、アドリアナを見守っていた人々は狂喜乱舞した。


「アディが腹筋をしたぞ!」


「五回の腹筋! これは成人男性に換算すれば百回にも匹敵する偉業だ!」


「そんな換算に医学的根拠はありません!」


「気を失っていらっしゃらないぞ!」


「こんな感動的な瞬間に立ち会えてよかった!」


 自分を囲んで喜び合う人々を見て、アドリアナは思った。


(お腹が震える…けど、この震えは虚弱さのせいじゃない。努力が身体に刻まれる反応なのだわ!)


 汗が頬を伝い、アドリアナの胸は熱く高鳴った。


(ここまで来るのに、みんなが私を応援してくれた…。ちゃんと向き合えば、身体は応えてくれた…。やっぱり――筋肉は裏切らない!!)


 そうして彼女の筋肉愛が覚醒した瞬間だった。


鍛えた筋肉は裏切りません。

もしこの令嬢を応援していただけるなら、

★評価やブックマークで力を貸していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ