第四十六話 筋肉令嬢と冷静の盾
王都の冒険者ギルドは、今日も熱気に満ちていた。新人冒険者たちはカウンターで手続きを済ませ、広間では経験豊かな冒険者たちが討伐依頼の打ち合わせをしている。そんな中、アドリアナはいつものように掲示板の依頼書を眺めていた。
「今日はどの依頼にしようかしら」
しかし、今回の事件は彼女が思わぬ形で暴走するきっかけとなる。新人冒険者の一人が、訓練用の目くらまし球を手にして不器用に動かしたのだ。光を放ち、ぶつかると軽い衝撃を与える仕様のはずが、バランスを崩して転がり、通路の机や椅子を巻き込みながら広間を転がり出す。
「うわっ! 止めなきゃ!」
新人冒険者の声に瞬時に反応し、アドリアナは筋肉を全開にして目くらまし球の行く手を遮る。だが、その瞬間、周囲の椅子や書類が舞い上がり、他の新人や冒険者まで巻き込まれそうになった。
「アドリアナ殿! 力を入れすぎだ…!」
その声の主は、エティエンヌ。冷静な瞳と落ち着いた動作で、混乱する新人たちを一人ずつ誘導しながら安全な場所へ避難させる。
アドリアナは筋肉の力で目くらまし球を握り込もうとするが、その腕力は思った以上に強く、逆に物や机を押し飛ばしてしまう。
「落ち着いて、アドリアナ殿! 力加減を少し抑えて、手前の方向に…はい、そこ!」
エティエンヌの指示に従い、アドリアナは腕の力を調整。瞬時に目くらまし球を制御しつつ、他の物品に影響が及ばないよう軌道を修正する。
新人たちは驚きと笑いで息を呑む。誰もが『筋肉はすごいけど、制御が大変なんだな』と思う一方で、エティエンヌの冷静なフォローに心底感心していた。
続いて、アドリアナは『次はこっちの新人を助ける!』と駆け出す。だがその勢いで転がっていた重りにぶつかり、さらに周囲の机や書類が舞うことに。
「アドリアナ殿、落ち着いて! まずは一人ずつ、順番に行動です!」
エティエンヌは自分の体格を使い、アドリアナの軌道をサポートしつつ、他の生徒を守る。アドリアナもエティエンヌの導きに従い、筋肉を最適に使うことで、混乱を最小限に抑えつつ新人を救助していった。
「思わず力加減を間違えてしまいましたわ。カリエール殿のおかげで力を発揮できましたわ」
アドリアナは笑顔を見せるが、その目には輝く好奇心と楽しさが混ざっていた。
「君の力は頼もしい。しかし、暴走すると大変なことになるな」
エティエンヌは苦笑しながら感想を述べ、周囲を整理する。その冷静さと的確さに、アドリアナは改めて信頼感を抱いた。
新人たちは一連の騒動に恐怖しつつも、無事に救われたことで笑顔を取り戻す。アドリアナは『筋肉は人を守るためにあるのです』と満足げに胸を張り、エティエンヌは穏やかに微笑む。
騒動が収まったあと、二人は広間の片隅で肩を並べた。
「今日は…一段と力が入っていたな」
「新人がいて、つい…。でもカリエール殿のおかげで新人たちも無事でしたわ」
言葉は少ないが、二人の間に確かな絆が生まれていた。
「また暴走することがあったら助けてくださいな」
「……分かった。だが、あまり周りを巻き込まないよう気を付けてくれよ?」
ギルドの広間には、静かな安堵とほのかな笑いが混ざる。アドリアナとエティエンヌ、二人の信頼は今日の騒動を通じてより強く結びついたのだった。
***
救出騒動の余韻が残る広間で、新人たちは息を切らしながらも、楽しそうに笑い合っていた。
「あの! アドリアナさん! 本当にすごいです!」
「筋肉で守られるって、こういうことなんですね…!」
アドリアナは胸を張って微笑む。だが、つい力を入れすぎて机を軽く押し飛ばし、再び小さな騒ぎを起こしそうになる。
「こ、こら…! ちょっと待て、アドリアナ殿!」
エティエンヌはすかさず駆け寄り、両腕でアドリアナの動きを受け止める。
「……申し訳ございません。また、つい力が入りましたわ」
「力は頼もしいですが、周囲を巻き込まないようにしないと…」
二人の絶妙な掛け合いに、新人たちは笑いながらも目を輝かせて見守る。すると、一人の少年が勇気を出してアドリアナに質問した。
「アドリアナさん。…あの、どうやったら、あんなに筋肉をコントロールできるんですか?」
「ふふ…。秘訣は、筋肉と会話することですわ」
アドリアナが両手を広げると、新人たちは首をかしげる。
「……筋肉と会話?」
「ええ。筋肉に指示を出して、必要な動きだけしてもらうのです」
エティエンヌはその説明を聞いて、補足する。
「つまり力任せでなく、頭と身体の連携が重要ということだ」
「その通りです! カリエール殿!」
二人の息の合った説明に、広間の空気は和み、緊張と混乱は笑いに変わった。さらにアドリアナは、新人たちを軽く挑発してみせた。
「さあ! あなたたちも筋肉と会話してみるのです!」
こうして新人たちはアドリアナとエティエンヌに指導を受け、二人への信頼を深めたのである。二人の筋肉と冷静さのコンビは、今日もまた新人冒険者たちをサポートするのだった。




