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第三十四話 筋肉令嬢と十七歳の初陣


 朝の光が屋敷の窓を淡く染める中、アドリアナは鏡の前に立っていた。柔らかなカーテン越しの光が、引き締まった筋肉をさらに際立たせる。


「――十七歳になりましたわ!」


 拳をぎゅっと握りしめ、彼女は鏡に向かって誓う。


「幼き頃より積み上げた鍛錬、その集大成をこの一年でお見せしますわ!」


 髪を束ね、軽くスクワットをして腕立て伏せ。鏡に映る自分の姿を眺め、微笑む。社交界でも、日常でも、努力を欠かさぬアドリアナだが、何よりも全力で身体を動かす瞬間こそが彼女の生きがいである。


「十七歳、ただの令嬢から、筋肉の華へ!」


 その直後、ギルドからの急報が届いた。街の北にある街道で、かつてない巨大な野獣が出現し、街へ向かって進んでいるという。アディは間髪入れず、外套を羽織り、街へ駆け出す。


「節目の日に相応しい相手! 迎え撃ちますわ!」


 街道の入口に到着すると、視界に広がるのは逃げ惑う人々のざわめきと、足音を響かせる巨大な野獣。全長は建物二軒分ほどあり、牙を剥き出しで威嚇の咆哮を上げる。筋肉の塊であるアドリアナでも、一瞬息を呑む大きさだ。


「ふふっ。十七歳記念にして最大のトレーニング相手! 感謝しますわ!」


 アドリアナは地面を蹴り、爪で襲い掛かる野獣の下をくぐり、背後に回り込む。それまでの森での戦闘とは違い、民家や馬車もあるため、周囲を意識しながらのアクションが必要だ。


 野獣は鋭い爪で地面を掘り、アドリアナに向けて口を大きく開ける。彼女は身体を低く構え、前転しながらまた真下をくぐり抜けた。


「さすがにその爪と牙は痛そうですわねっ」


 近くにあった荷馬車の屋根を蹴り、跳躍して野獣の背中に飛び乗る。そこから両足で全体重をかけ、前方に跳ね飛ばすようなドロップキック。野獣は驚きの咆哮を上げ、牙をむきながらも前につんのめった。


「新しくなった私をご覧に入れますわ!」


 野獣の攻撃をかわすたびに、荷馬車や民家の扉が揺れるが、アドリアナは冷静に筋肉を使い、体勢を立て直す。腕の筋肉をしならせ、肩で攻撃を受け流し、地面に叩きつけられる衝撃をスクワットで吸収。道沿いの柵や樹木も利用し、巧みに反動を利用して連続蹴りを叩き込む。


「私の筋肉がいい感じに燃え上がってきましたわよ!」


 アドリアナの後方に逃げた人々は、安全な場所から見守り、思わず歓声を上げる。


「うおー! お嬢ちゃん、がんばれー!」


「人間ってあんな動きができるのか!? 信じられん!」


 アドリアナは背中越しに笑みを浮かべ、次の一手を構える。


 野獣は全力で爪を振り下ろす。アドリアナは反動を利用して横転しつつ、前足に飛び乗り、肩と腕の筋力で押し返す。次に全身の体幹を使い、毛皮を掴んで背中に乗って跳び上がる。空中からのかかと落としで、ついに野獣は道路に尻もちをついた。


「まだまだ! これが十七歳の――筋肉の華キックですわっ!」


 野獣の顔まで高く跳び上がったアドリアナは、その鼻っ面を全力で蹴っ飛ばした。その勢いで野獣の身体が回転し、街道の奥へと吹き飛んでいく。ついに野獣は動かなくなった。


「ふふっ。やはり身体を動かす瞬間が一番ですわ!」


 アドリアナが汗を拭うと、人々からの興奮と拍手の渦に包まれた。街道は一部破損してしまったが、怪我人はいない。十七歳になった初日から、アドリアナは己の筋肉と判断力を最大限に試したのだった。


 ギルドへ戻る途中、人々が口々に囁く。


「ま、まさかたった一人で…」


「もはや筋肉令嬢じゃなくて、筋肉英雄じゃないか…?」


「いや、それを言うなら英雄令嬢だろう?」


 呆然とする人々を見て、アドリアナはふっと笑う。


「筋肉は裏切りませんのよ。みなさんも日々の鍛錬を欠かさずに」


 場が一瞬静まり返り、次いで爆笑が巻き起こった。硬直していた空気は和らぎ、誰もが彼女を『英雄』として認め始めていた。


 街の人々は、十七歳の筋肉令嬢の豪快な姿に魅了され、少し恐れつつも、憧れを抱く。そうしてアドリアナの十七歳初の挑戦は、街道と人々の心に深く刻まれたのであった。


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