第二十一話 筋肉令嬢と仲間の信頼
戦いが終わり、森の野営地には静かな朝が訪れていた。前日の狼の奇襲は収束し、討伐隊はそれぞれ後片付けや軽い訓練に取り組む。疲労が色濃く残る中、アドリアナは机に向かい、昨日の戦闘報告書をまとめていた。
その横で、エティエンヌが穏やかな笑みを浮かべながら覗き込む。
「書類作業まできちんとやるとはな」
「ギルドの方に頼まれたのです。誰よりも分かりやすく書けそうだから、と。それに整理しておけば、この情報は次の戦いでも生かせますもの」
エティエンヌも一緒に報告書の内容を確認する。二人で戦況を確認しているその姿は、長年ともに冒険をしてきたバディのようにも見えた。
やがて指揮官が近づいてくる。険しい表情ではあるが、眼差しには感謝の色が浮かんでいた。
「アドリアナ殿、報告書を確認した。君の指示があったおかげで、混乱は最小限に抑えられたよ。これは大きな功績だ」
「ありがとうございます。けれどみなさんが冷静に動ける環境を作れたのは、指揮官の統率があったからですわ」
指揮官は微かに微笑み、周囲に目を向ける。兵士や冒険者たちも、口々にアドリアナを称えた。
アドリアナは少し照れくさそうに微笑む。筋力や戦闘技術だけでなく、判断力を認めてもらえたことは、これまでの努力を肯定してもらえたという意味でもあった。
数日後、報告書は正式に領主の手に渡る。領主は慎重に内容を読み込み、アドリアナの判断力や部隊統率の的確さを理解する。そうして書面に彼女の評価を示唆する一文を添えた。
『前衛としての勇敢さも然ることながら、戦術的判断力を高く評価する』
同席した討伐隊の代表も頷き、将来的な指導者としての可能性を示唆する。アドリアナは正式な評価の場にこそいなかったが、代表を通じてその功績が認められたことを知り、誇らしさで胸がいっぱいになっていた。
王都に戻ったあと、彼女は冒険者たちと一緒に訓練をする日が増えた。
狼討伐で得た感覚を思い返せば、筋肉の連動、仲間の動きを読むタイミング、瞬時の判断、すべてが血肉となり、自分の中で整理されていく。
「みなさま、先日の戦いでの動きを少し振り返りつつ、軽く訓練してみましょう!」
普段はプライドが高い冒険者たちも、アドリアナの声には自然と耳を傾けた。肩の力を抜きつつ軽いストレッチから始め、次第に短距離の走り込みや武器の動きを組み合わせた練習へと移行する。
「右側の隊は前に出る距離をもう少し短く。中央は敵の動きに合わせて柔軟に」
一つ一つの指示は簡潔だが、冒険者たちには分かりやすく、すぐに実践に反映される。短い演習の中で互いの呼吸が自然に合い、先日の戦闘の再現のような連携が生まれた。
「やはりアドリアナ殿の指揮は分かりやすくていいな」
「ああ。訓練だと戦場よりも落ち着いて試せるから、余計に指示の意図が掴みやすくていいよ」
横で参加していたエティエンヌも、軽く頷きながら感想を述べる。
「君の指示は無駄がないな。戦闘経験が訓練に直結しているのがよく分かる」
「ありがとうございます。でも筋肉も頭脳も、まだまだ磨き上げねばなりませんわ」
小さな成功体験が、冒険者たちの自信となる。冒険者たちはかつてないほど、チームワークと個人の技術的な成長を遂げていた。昨日よりも洗練されたその動きを見て、アドリアナは自分の成長だけでなく、仲間の成長も手応えとして感じていた。
訓練の終わり、軽く汗を拭いながら思い出す。狼討伐先の領主やギルドからは、戦闘後の報告に基づき、次回以降の活躍が期待されていることも伝えられていた。
「筋肉と頭脳があればより大きな力となる。鍛錬はまだまだ始まったばかりですわ…!」
かつて虚弱だった令嬢は今、筋肉とともに大きく羽ばたこうとしていた。彼女の歩む道にはまだ、筋肉と頭脳を必要とする世界が待っているのだった。




