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第十五話 筋肉令嬢と冒険者デビュー


 午後の陽射しが冒険者ギルド前の石畳に反射する中、アドリアナは胸を張って立っていた。


 王立学園の制服とは違う、動きやすい冒険者用の軽装に身を包み、その威風堂々たる姿は通りすがりの冒険者たちの目を釘付けにする。アドリアナはそれに気づかず、ギルドの扉を押し開けた。


 木の床を踏みしめる足音、書類をめくる紙の音、金属の装備が触れ合う音。冒険者たちの日常の気配が、熱気とともに漂ってくる。


「――これが、冒険者ギルド…!」


 体格の良い中堅冒険者が笑い声を上げ、傍らの新人が書類に頭を突っ込む。受付のカウンターの向こうでは、ギルド職員たちが慌ただしく書類をさばき、時折『次の依頼はこちらです』と声をかけていた。


「ご機嫌よう! アドリアナ・ドラクロワと申します。私、筋肉を鍛え、強くなりたくて、冒険者ギルドに登録しに来ましたの!」


 受付のカウンターに立つ職員は、一瞬息を呑んだ。見た目は凛とした年若い淑女(レディ)が、こんなにも堂々と挨拶をするとは予想外だったのだ。


「……筋肉? えっと、登録は初めてですか?」


「はい! 経験は浅いですが、筋肉には自信がありますわ!」


 職員が手渡した書類を受け取り、アドリアナは華麗に記入を終える。周囲の冒険者たちがざわつき始めた。


「この子……体力測定って、あんな小さな身体でどうするつもりだ?」


 アドリアナは微笑みながら、ギルド内に設置された体力測定機器の前に立つ。


「まずは腕力測定ですわ!」


 測定機に腕を掛け、思い切り力を込める。数字が跳ね上がると、周囲の冒険者たちから思わず歓声が漏れた。


「うわっ…小柄なのに、なんだこの数値は!?」


「次は持久力ですわ!」


 砂袋を肩に担ぎ、ギルドの外を周回するアドリアナ。息一つ乱れず、軽やかに歩く姿に、職員も冒険者も目を見張った。


 最後に、試しの模擬戦だ。木剣を手に取り構えたアドリアナに、相手役の男性冒険者が挑む。しかし力技で押し返され、男性冒険者はすっかり汗だくになった。


「……参りましたわ! 有効な一手が決められそうにありませんもの。さすが冒険者様ですのね」


 自然と拍手が巻き起こる。アドリアナはにっこりと笑い、周囲に向かって軽くお辞儀(カーテシー)をした。


「これで冒険者として登録できますの?」


「え、ええ。問題なく登録できます。ここまで腕力、体力が揃った新人は珍しいですから…」


 ギルド職員が少し戸惑いながらも、登録証を手渡す。アドリアナはそれを受け取り、誇らしげに掲げた。


「やりましたわ! これでさらに筋肉を鍛え、強さを追求できますわ!」


 周囲の冒険者たちは再びざわついた。ある中堅冒険者が小声で言う。


「いや、あの子…筋肉布教でもするつもりか?」


「でもこういう新人、なんだか頼もしいな」


「前に新聞に載ってた『筋肉令嬢』ってあの子のことなんじゃ…」


 アドリアナは胸を高鳴らせ、ギルドの奥に向かって歩き出した。掲示板を前に、これから始まる挑戦の日々を想像する。


 掲示板には依頼がびっしりと貼られており、野獣討伐や護衛の文字が並ぶ。気持ちを弾ませながら、指で次々に指示をなぞる。


 アドリアナが掲示板に見入る姿を、他の新人冒険者たちもちらちら見ていた。


「すごい…あんな小さな身体であれほどの力が…」


「初日から目立ちすぎだろ…」


 アドリアナは気にせず、掲示板の隅々まで目を通す。


「ふむふむ。まずは初級者向けから挑戦してみるとしますわ!」


 すると近くの冒険者がにっこり笑いかけてきた。


「よければ僕と組みませんか? 初心者同士でなら安全ですし」


 アドリアナは、筋肉を見せつけるように腕を軽く曲げて見せた。


「ありがとうございます。けれど、私の筋肉なら一人でも大丈夫ですわ!」


 冒険者は少し呆れたように笑い、彼女の元を去った。アドリアナはその様子ににっこり微笑む。


「ふふっ、これでさらに鍛錬も楽しくなりますわ。私の筋肉、もっともっと成長させなければ!」


 これから始まる自分の筋肉の可能性を試す日々に、期待と決意が心を満たし、アドリアナは軽やかに足を踏み出した。


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