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シュレディンガーの冷蔵庫  作者: 葉加多錬一朗


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前編

 部活の練習を終えた僕たちは冷蔵庫の前に立った。

「さあ、開けようか…」

「待ってください!!」

 僕が冷蔵庫の取手に手を掛けて開けようとしたとき、その場にいた部員が冷蔵庫の戸を押さえた。

「なんだよ、もう溶けたら溶けたでみんなで一気飲みしようやって言ったじゃん!」

「いやでも、普段は高くて手が出せない誰もが憧れるカップアイスですよ!?勿体なさ過ぎるじゃないですか!」

 続けて他の部員も手を挙げる。

「そ、そうですよ!それに、本当に溶けているとも限らないし…」


 遡ること3時間前、

 僕たちはバスケ部は体育館で部活動に練習に励んでいた。前日に顧問の先生がスーパーで値引きになってて爆買いした某高級カップアイスを差し入れとして持ってきていた。

「練習が終わったらみんなで食べよう!」

ということで顧問の先生が体育館の隅っこに置いてある冷蔵庫の中に入れていた。

 夏休み真っ只中、セミも泣かなくなるほどの猛暑の環境下での練習だったので部員みな大盛り上がり。練習が終われば最高のアイスが食べられるといつも以上に熱を入れて練習に打ち込んだ。

 しかし、部活中に学校に雷が落ちて数時間ほど学校全体が停電したのだ。そうなると冷蔵庫も止まるし中のアイスも…と思われたが、

「あれ、体育館の電気点いてるじゃん。なんで?」

学校中停電しているはずなのに、体育館の灯りと”一部の”コンセントは停電をもろともせず普通に使えていた。

 もし冷蔵庫のコンセントがその”一部”だとすればアイスも無事だろう。だがそうでなければアイスは全滅に違いない。だが電気が点いていた以上、練習への影響も一切なく冷蔵庫に近づくタイミングもなかったためどういう状態になったのか一切分からなかった。


 なんやかんや話し合い、どうせ冷蔵庫はやられているだろうと結論になったのでみんなで一気飲みしようとしていたのだが………今更になって話が振り出しに戻ってしまった。

「これじゃあまるでシュレディンガーの猫だな」

「先輩、何そのなんとかディンガーの猫って?」

「まあざっくり言うと、放射能とか猛毒とかどのタイミング作動するかわからない毒ガス噴射マシーンと一緒に箱に入れられた猫が死んでしまったかどうかはその箱を開けて見ないと分かんないよねっていう哲学とか科学で出てくる思想だ」

「え?猛毒と一緒に入ってたとしたら100%死ぬに決まってるじゃないですか!」

「でもその猛毒を猫が口にしたかどうかは猫の勝手だし、毒ガスとかでもワンチャン耐えるかもしれないだろ?だから死んだか生きてるかわからないんだ」

「なるほど……」

 後輩はいまいち分かってなさそうだったが、何度か頷いてはいたのでもうちょっとで理解できるという状態であるだろう。

 厳密に言うと、箱を開けて見ないと死んだか分からないというよりは、箱を開けていない時では死んだ状態でもあり生きてる状態でもあるというの方が正しい。

  

 僕たちは冷蔵庫を囲うようにして体育座りになり、この冷蔵庫の中のアイスは無事かそうでないかの議論を始めた。

「溶けてる!」

「溶けてない!」

「溶けてる!」

「溶けてない!」

最初はこのように言い合いになってるだけで全く埒が開かなかったので、

「みんな、なるべく根拠とかそういうのを言ってから溶けてるか溶けてないか話そうじゃないか」

と呼びかけて、みんなが一瞬静まったタイミングで僕は手を挙げた。

「先生が家から持ってくるまでの間でアイスが若干溶けていたという上で、冷蔵庫が一定時間でもストップしてたらもうアイスは無事じゃないと思うんだけどどうかな。」

その場に居た多くの部員がなるほど〜と頷いたりしている中、1人に部員が手を挙げた

「いや!アイスは無事です!」

その声に皆が目線を向ける。

「僕が知る限り、この冷蔵庫は少し古いモデルではありますが他と比べれば高性能で…最新の冷蔵庫と肩を並べられるくらい!それに、冷蔵強度がマックスになってて、あと電源も点いてますね」

「すげえなリョースケ、めっちゃ詳しいんだな」

「まあ実家が家電屋ですからね~」

 実家が家電屋でなおかつ家電オタクでもあるもはや専門家のようなポジションのやつの言葉には圧倒的な説得力がある。部員皆がうんうんと頷いた。

 しかし、これに対しまた別の部員が手を挙げた。

「今冷蔵庫が動いてるからと言って、アイスが無事とは限らないと思いますよ」

こう言ったのは1年生の西崎くん。彼はこの高校に首席で入学し定期テストでも上位ランクイン常連のエリートだ。

「ほう?西崎くん詳しい理由を続けてどうぞ」

「さっきまでスコアボードが消えてましたよね?でも今見てみると電源が点いてるんですよ。体育館に居たのは僕たちだけですから、たった今停電が復旧して、たまたまそのタイミングで冷蔵庫の電源が点いてるのを確認したのではないのでしょうか?」

 確かに…ハッとしている様子の部員もいればどっちが正しいのかと頭を抱えている部員もいた。

シュレディンガーの冷蔵庫というより、シュレディンガーのハーゲ○ダッツだったかも…まあいいや

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