第四話 捨てるという選択
「選択には、必ず"代償"がある」
悠真は本を読み進めるうちに、その言葉が脳裏に焼き付いて離れなくなっていた。
ページをめくるたびに、藤堂響の言葉が突き刺さる。
「人は常に何かを選び、同時に何かを捨てている。
最良の選択をすることは、最悪の可能性を切り捨てることでもある。
そして時には、捨てたものこそが本当に大切なものだったと後で気づく」
「……選んだ瞬間、俺は何かを捨てている……?」
悠真は、過去の選択を思い返した。
例えば、数日前のこと。
友人の中村に「カラオケに行かないか?」と誘われた。
あの時、悠真は「明日のテスト勉強をしないと」と断った。
結果、テストは良い点を取れた。しかし、その翌日、
中村が「昨日のカラオケ、めちゃくちゃ楽しかったぞ」と言っていたのを思い出す。
もし、あの時「行く」を選んでいたら?
きっと、思い出に残るような時間を過ごせていたかもしれない。
だが、そうなればテストの結果は悪くなっていただろう。
「……こうやって、俺たちは何かを得て、何かを失ってるんだな」
そう考えた瞬間、目の前にまたしても"選択肢"が現れた。
───【選択肢】───
本を最後まで読み切る
途中で読むのをやめ、今後の選択を慎重に考える
本を閉じ、二度と開かない
────────────────
「え……?」
今度は、本を読むこと自体が"選択"になっている。
慎重に未来の分岐を確認してみる。
1を選んだ場合 → 藤堂響の思想に深く影響を受け、選択の意味をさらに理解する
2を選んだ場合 → しばらくの間、選択の力を試しながら様子を見る
3を選んだ場合 → この本のことを忘れ、普通の生活に戻る
「……3を選んだら、この力はどうなるんだ?」
疑問に思ったが、選択肢にはそこまでの詳細は書かれていない。
だが、悠真は直感的にわかった。
「選択を放棄することもまた、一つの選択だ」
選ばなければ、この力に縛られることもない。今までと変わらない日常を送れる。
でも——。
「俺は、この力を試してみたい」
そう思った悠真は、1. 本を最後まで読み切るを選んだ。
その瞬間——携帯の通知音が鳴った。
画面を見ると、一通のメッセージが届いていた。
「君も、"選択の力"に気づいたんだね」
差出人不明。
悠真の背筋が、ゾクリと凍りついた。
第5話へ続く……