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呵呵大笑

作者: 雨月 日日兎

 さっきまで晴れていた空に薄い雲が広がり始めた。まずいかな、見上げた先からは案の定雨粒が落ちてくる。まだ勢いはないが大きな雨粒だ。道を歩いていた人々も順に空を見上げ始めた。

 ――天気予報は晴れだったのにな。

 思うことは皆同じだろう。早足になる者、諦めそのまま歩く者、屋根を探す者。反応は様々だった。

 さて、自分はどうしようか。

 二車線道路の横断歩道前、重い鞄のストラップを引き上げ考えた。帰ろうか、どうしようか。秋風に冷える指先は前者を選択したがっていた。

 鞄の中ではカチコチと秒針が鳴っている。たぶん隣で折り畳み傘を探している人には聞こえていまい。微かな振動から聞こえる幻聴のような音。急かすようなその音に、疲れきった心はささくれだった。

 いっそここで全てを壊してしまおうかという気になったのだ。せっかくあれこれと道具を集めてせっせとこんな、とんでもないものを作って外に出てきたんだから、使わなければ勿体無い。帰るのだってもう面倒くさい。袖振り合うも多生の縁、無関係な人間を巻き込む事は最初から分かっているし、寒いし雨だし、もうここでいいだろう。

 壊れた理性は言いつのる。信号がまだ赤色をしているのも気に食わなかった。

「あの、入ります?」

 刻一刻と強まる雨足に思うところがあったのだろう。折り畳み傘を見つけ出した隣人が声をかけてきた。

「あえ、の、え、だいじょうぶです」

「駅の方です? 方向同じですし、袖振り合うも多生の縁とかなんとか言うじゃないですか。なんで良かったら」

 ずいぶんと、頭のおかしな人間がいるもんだとまじまじ相手を見つめてしまった。見知らぬ他人とフツー傘分けあわないだろ。とか、その他さまざま、言いたいことは山のように脳内を飛び交った。なのにせり上がってきたのは涙であった。

「いえほんと、だいじょうぶなんで」

 どうしたと言うのだろうか。なんとかかんとか断り文句を吐き出して駆け出す息はすぐにあがった。見上げた先には青信号。進めの表示が止まるなと縺れる足を叱咤しているようだった。

 空からは大粒の雨。通り雨にしては勢いのある雨足に、頭の先から爪先までぜんぶ濡らして台無しになってしまえばいいと思った。

 せめてあの人からは少しでも遠く離れられるように。

 こんなことで絆された、己の心に笑った。

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