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美少女との関係

太陽の陽射しが肌を焼き、枯葉を誘うように熱風が吹き右から左へ左から右へと髪の毛を乱していく。

微かに香ってくる花壇の香りが鼻腔を刺激し、それに対抗するかのように現れた食欲を刺激さる辺りに漂う香ばしいパン屋の香り。

格式を感じさせる和菓子屋。下拵えを行っている風景が目に浮かぶ。

騒がしい蝉の鳴き声を耳障りな音だと認識し始めた今日この頃。

勉学に励む時、集中の妨げになるため四季の変更を願いたい。

むしろ、四季の中から夏季自体を抹消してもらいたいほどだ。

そんな、雑音に覆い尽くされそうな中、横断歩道で信号が切り替わるのを待っていると背中に強い衝撃が走った。

そして「凪翔くんっ!」という言葉も一緒に。

振り向くまでもなく僕の背中を叩いた実行者の予想がついた。

「はぁ……」と分かりやすく呆然し、目を細めてから後ろへ振り向いた。

「なんだよ……朱音」

「どうしたの凪翔くん?元気ないけど」

「さぁ、なぜだろうな……」

ここで、元凶はお前だなんて言ってしまえば恐らく声量を一段と上げ、騒ぎ立てるに違いない。

そうなってしまえば、周囲の者たちから視線を集める一方だ。

早朝から悪目立ちなんて絶対に避けたいからな。

「凪翔くん、信号変わったよ!」

「あ、あぁ」

それにしても、休日明け早々に彼女と鉢合わせてしまうなんて災難すぎるにもほどがある。

不幸な出来事が起こる前兆なのかと勘違いしてしまう。

「そういえば、どうして昨日電話切っちゃったの?私、朝起きたら繋がってなくてびっくりしちゃったんだから!」

「いや、朱音寝てたし。切るのが普通だろ」

「そうだけど……。でも!寝落ち通話は切っちゃっダメでしょ!……多分」

「そんなことないだろ……。切っても切らなくても大差ないって」

「もうっ!ちょっと待ってて、今調べるから」

彼女は通学鞄から勢いよくスマホを取り出し、液晶に指を走らせた。

タッタッタッと止め処無く聞こえてくるフリック音にそして彼女の俊敏な指の動きに唖然としてしまう。

ほどなくしてからフリック音は消え去り「見つけた!」と声を漏らした。

「なんて書いてあった?」

「えっとね、「切っても切らなくてもどちらでもいいですが眠りから目覚めた時におはようと挨拶を交わせばさらに恋愛成功率アップ!」だって!ほら、やっぱり切っちゃっダメだったんじゃん!」

「絶対そのサイト昨日のと一緒だろ……」

記載されている部分に指を差しながら「ここ、ここ!」と何度も示した。

どんだけ、恋愛成功率を向上させたいんだよと呆然し別にどっちでもいいだろと内心文句を言っていた。

「そんなに切られたくないなら、次回は僕よりも長く起きているべきだな」

「凪翔くんの意地悪っ!私は早寝早起き常連の優等生ちゃんなんだから夜更かしはできないの!」

「早寝早起きに常連なんて概念あるのか……?」

それに、夜更かしどころか昨晩彼女が眠りについたのは二十一時くらいだったような……。

「それじゃあ、早速今晩リベンジしよう!」

「はいはい、また今度な」

「もうっ!真剣に聞いてよ!」

「この話自体真剣に聞くような内容じゃないだろ」

寝落ち通話を話題に真摯に熱く語る者などいないだろう。

それに、昨晩彼女と寝落ち通話を行ったことで一つだけ得られた情報があった。

それは…………

「僕らって寝落ち通話向いてないんじゃない。話は続かないし沈黙は流れるし……」

それに……多少気まずいし。

「そんなことないよ!私たちは寝落ち通話初心者だったからであって、この先続けていけば多分いや絶対盛り上がるよ!」

「昨日の通話で盛り上がる要素一つもなかっただろ……」

よく良く考えれば、会話が途切れ沈黙が流れるのは通話が原因なのではなく僕ら二人の相性が悪いのが一番の原因なのではないだろうか。

「ま、まぁ……ネガティブなことを考えても前には進めないっ!成果が得られるまでただ前進するのみ!だよ」

「何言ってるんだよ。どこかの師匠かよ……」

光り輝く青空に向かって指を差し、希望に満ち溢れた眼差しをしていた。

だが、僕はその正反対の絶望に飲み込まれ光を失った瞳をしていた。

あの時の電話……無視した方が良かったんじゃないか……。



颯爽とした立ち振る舞いで生活指導の教師と生徒会の役員が集り校門付近で行っている挨拶運動。

この活動にどんな効果をもたらすのか僕には理解しかねる。

早朝からご苦労さま……と誠意が込められていない言葉を心の中で唱えながら校門を通り抜ける。

熱気が籠った灼熱の下駄箱で靴を履き替え教室へと歩みを進めた。

向かっている最中も彼女は僕に会話を持ちかけ、そのような能力が備わっているならば昨晩の通話でも活かしてもらいたかったと今では遅い期待を抱いた。

甲高い声が原因なのか声量が問題なのかそれともどちらでもない三択目の原因が存在するのか僕にはわからなかったが、なぜだか階段を上っている時も廊下を歩いている時も生徒らの視線が僕らに集まった。

具体的に言えば僕"ら"ではなく"僕"にの方が正しいのかもしれないが。

だが、不明な点が多数な中一つだけ確かな答えを見つけた。

それは、決して周囲からの眼差しは僕を称えるような善意の込められた視線ではなく、むしろその逆の棘のような鋭く尖った悪意に満ち溢れた視線。

周囲が僕を蔑むような冷淡で睨みつけるような眼差し。

こんな仕打ちをされるようなことを彼らにしただろうかと疑義の念を抱いたがそれだけだ。

どんなに冷たく悪意に籠った視線を浴びようが棘のように鋭い冷酷な陰口を言われようが僕には関係ない。

困惑もしなければ心に傷を負うこともない。

僕はそういうくだらないことには目を向けない主義なので。

「凪翔くん!それじゃあ、また後でね!」

「あぁ……」

彼女が去っていく背中を数秒眺め、僕も自分の教室へと向かった。

同学年ではあるが教室が一緒という訳ではないようだ。

むしろ、こっちの方が僕にとっては好都合なのだけれど。

そんなことを考えながら教室のドアの取っ手に手を伸ばし開扉した。

ガラガラと音を立て、教室に一歩足を踏み出したその時「あれって……」「なんであいつが」「まじでありえない」と様々な怨言が飛び交かった。

だが、そんな言葉に耳を傾けず座席へ向かった。

永遠に鳴り止まない僕への謂れのない中傷に耳障りと不快感を覚える。

蝉の鳴き声を超える雑音に出会ったのは今回が初めてだ。

「なぁ、お前……」

耳を塞ごうと鞄からイヤフォンを探したが、自室の机に置きっぱなしだったのを思い出し肩の力が抜け落ち落胆する。

「なぁなぁ、お前……」

普段ならば教室に到着し、座席に座った瞬間鞄からノート、教科書、ペンケースを取り出して自主勉強を始めるのだが、ここまで騒がしいと流石に集中できない。

「なぁなぁなぁっ!お前」

さっきから僕の後席に座っている生徒はお前お前うるさいし、本当になんなんだここは。

この教室にまともな生徒はいないのか。

「なぁっ!お前」

「もう、なんだよ。さっきからうるせぇな!」

「おっ!やっと振り向いた」

流石に我慢の限界で眼光炯々としながら後ろを振り向いた。

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